第23話 ささやかな贈り物

 いつものように旅の最中に起きた出来事や訪れた国の詳細について紙に書き出しているライ。その書いた内容を本のようにまとめて大事な思い出として残している。作業がひと段落したので外に出てみると、ローラが先に出発しようとしているのを見かける。


「あれ、ローラさん。いつの間に」

「美味しいものを食べたし、アタシはそろそろ戻るわね」

「もう行っちゃうんですか?」

「夕食タダでいただいちゃったものだから大満足よ!それじゃあね!」


 ローラは靴を履いて王宮の近くに戻ると言って、小走りで帰っていった。ライもどうしようか迷っていたが、滅多に来れるところではないため今日はこの庭園で一日を過ごすことにした。その前に彼はあるものが気になっていた。

 それは、ここに住む七つの属性の精霊のそれぞれの家だった。一つ一つがその属性をイメージした個性的な作りをしていたのだ。


「不思議な形をしているな…この中は一体どうなってるんだろう」

「…何か気になることでも?」

「ウィンドさん!?」


 入口扉からウィンドが呼びかける。他の精霊達も一緒だ。


「私達はその属性に適した魔法の家で暮らしています。しかし普通に入ることはできません… 魔法を扱うことができる者のみに見えるのです」


 精霊の家はかなり特殊だ。この世界は誰しも魔力を持っているが、その家が見えるのは魔法を扱うことができる者のみだとウィンドは淡々と説明する。彼女は話を続けた。


「あなたは確かエンゼル・エンパイアに滞在できる期間は残りわずかと言いましたよね?」

「何でわかったんですか?」

「心の中を読ませていただきました。でしたら、にこの魔法の家の全容をお見せしましょう。シャイン、よろしくお願いします」


「はーいっ!見ててね、私がキラキラしたすっごい魔法を披露するから」


 ウィンドはシャインを呼び、精霊の住む家を一気にライに見せるように言う。シャインはライのところへ駆け寄り、星空を指差す。


「上を見て!」


 シャインに言われて上を見てみると、星空の景色が一気に変わり、プリズムカラーの色に変化した。


「今これを見ているのは、君だけじゃないよ!」

「?」

「君の仲間にも同じものが見えているからね!」



___



 それぞれ別に過ごしていた御伽の夜光団の団員達にも、今ライが見ているものと同じものが映って見えている。当然いきなり景色が変わったので、何が起きているかさっぱり分からないみたいだ。

 夜の街を歩いていたカヨと暁は、異変を感じ建物の端に移動した。


「なっ、いきなりどうしたんだ?」

「わからない、ただ敵の罠じゃなさそうだ。端っこの方へ移動した方が良さそうな気がするな」

「暁、これは誰かが魔法を使って見せているんじゃ…」



___



「俺以外にも見えてるの?」


 それは家の中でご飯を食べていたエミルにも見えていた。彼はびっくりしたのか、食べるのをやめて大急ぎで窓からジャンプしたのだ。ライが気づいてエミルをキャッチする。


「エミル!びっくりしたか」

「あ!ごめんね、驚かせるつもりじゃなかったの」


 プリズムカラーに変化した空は精霊の住む家を映し出す。まず最初に映ったのは、炎の家と水の家の二つ。つまりマグナスとアクアが住む家だ。


 炎の家の中はとても気温が高くまず通常の人では入ることが出来ない。暖炉があり、ろうそくの火が消える事なく辺りを照らしている。炎属性や炎魔法を操る者のみが入ることができる。


 続いて水の家。常に水の音が聞こえてきて、大きなアクアリウムの中で魚が泳いでいる爽やかで美しいアクアの住む家だ。こちらは水属性や水魔法が使える魔法使いが見ることのできる場所だ。


「こういうのは普段絶対に見られないんだぞ?しっかり目に焼き付けろよ〜」


 次に映し出されたのは風の家。屋根についてる風車が特徴で、その周辺にだけ風が吹いている特殊な家だ。風鈴の音が心地いい。

 雷の家はコンクリートで出来ており、雨雲が屋根の上の部分に現れている。その雨雲から発生する雷により電力が回っているのだ。


 地の家または森の家は緑に囲まれていて、リーフはその植物を育て薬草などに使っている。緑と木の家が融合した自然溢れる場所。

 光の家は宝石のように輝いているガラスでできた家だ。虹がかかっていて細部まで光が満ち溢れている。


 最後に映ったのは闇の家。辺りは暗く、黒曜石で作られたゴシック調で少し廃れた印象を受ける。闇に輝く月夜が神秘的だ。


 これらが走馬灯のように映し出されて、ライや他の団員達は皆同じ景色を見ていた。


「その属性に合ったところへたどり着くことができる…それは想像した時かもしれないし、いきなり飛ばされるかもしれない。俺らはそうやって他の魔法使い達をサポートする役割を務めるんだよ」

「じゃあ、もし俺が魔法を使っていたら急に飛ばされることなんかも…?」

「う〜ん…あくまでサポートだからお前に何か起こった時に一番現れるのかもな」


 マグナスは精霊の住む家がいつ現れるかざっくりライに説明した。曖昧ではあったが、不思議な家を見ることができたライはそれを知ることができただけでも満足だった。



パチッ



___



「!」


 瞬きをした瞬間、元の景色に戻っていた。ライは座った状態のままだ。


「おい、いつまでも座ってんなよ!」


 シャドウがライの背中をげしっと蹴る。ようやく体が動いたライは、背中を抑えてゆっくりと立ち上がる。


「…蹴る必要あった?」

「じゃなきゃ動けなかっただろ?少しは俺に感謝したらどうだ?」

「嫌だよ。ていうかいつからこの国にいたの?心が清らかな人しか入れないところだよ」

「何だよまるで俺が心が荒んでるみたいに言いやがって」

「そこまで言ってないよ」


 シャドウは眉間にしわを寄せライの言った一言にイライラしていた。しかし彼の質問には答えない。どうしても理由を知りたいライは諦めずに粘る。


「お願い教えてほしいんだ。父さんが行方不明になったあの時から何をしていたの?」

「……女王と話をして一時的にここにいることになった」

「レラ女王と?」


 同じ破皇邪族である二人は別れた後、互いに何をしているか知らずに過ごしていた。それ以上シャドウが何かを語ることはなく、自分の家に戻った。同じくライもそれしか聞くことができずに立ち去るシャドウの後ろ姿を黙って見つめる。



 翌日、朝早く起きて庭園を出る支度をするライ。シャドウ以外は見送りに来てくれた。


「もう行くのね」

「少しの間でしたがお世話になりました」

「そうそう、リーフが何か渡したいものがあるみたいよ」


 アクアがリーフを呼んできて出発する前のライにあるものを渡す。彼の持ってきたものは何やら瓶の中に薬草が入っているものだった。


「これは?」

「薬草です。僕はヒーラーなので色々な薬を作れるんですよ!こちらは睡眠で癒す効果があるので、この先もし何かあったら使ってください」

「タダでもらっていいの?」

「もちろん!女王様と親交のある方達に」

「ありがとね」


 ライは優しい声でお礼を言う。リーフは医学の知識が豊富であり、薬草を調合し人々の傷を癒す魔法の使い手だ。


「ライ、今度は俺と勝負してくれよ!」

「は、はい…」

「まだそんなこと言ってるのか」


 去り際にマグナスがライに次に会った時は勝負してほしいと手を振りながら叫んだ。その隣でいつもの彼の悪い癖に手を腰に当て白い目で見るストーム。


「ありがとうございました!」


 エミルを肩に乗せ、七つの属性の精霊に見送られながら帰っていくライ。美しい自然の中、新しい出会いを胸に秘め彼はその場をあとにした。

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