少年が見える。髪をワックスで整え、身支度をしている。これから人に会うのだろうか。顔にクリームを塗り、髪型を整える。もう、かれこれ30分ほどだろうか。友人に会うには、いささか気持ちが入っているように思える。女性と会うのだろうか。或いは、尊敬する誰かと会うのだろうか。


こちらに気づくことは誰もない。皆、自分の姿を見つめるばかりだ。鏡が鏡であるために仕事をしている私という存在に気づきもせず。左右反転して見えるのは当然のことと思わないで欲しい。よく見えるように整えて映すのは手間だというのに。


昔は鏡に神が宿るとされて、丁重に扱われた。今は、コーティングされているからといって、ほったらかしである。


ありとあらゆる鏡は、私によって鏡となっている。映りこむものすべて鏡。

どうか磨いておいて欲しい。いつもいつも手垢を映し続けるのも面倒だから。


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