魔法少女、月のウサギはぴょんと飛ぶ

うさ耳の少女は姿勢を低くしたまま、二階の高さまで垂直に飛んだ。

そこから、蹴ってまっすぐ飛んでくる。

魔力の反応はない。トモは大剣の腹をけり上げ、床から跳ね上げて迎撃を試みる。

その攻撃にうさ耳はトンっと着地音を上げ、もう一度空に飛び上がった。


今度は天井に器用に態勢を変え

やはり魔力の反応はない。まさか足で大気や天井を掴むなんて馬鹿げた力技ではないだろう。


(クーリガーあれなんだと思う?)


トモは正体不明の事象をクーリガーに問うた。


(推測ですが、メテオラが話していた。神技スキルとかいう物でしょうか? 重力のベクトル操作? もしくは力場の生成でしょうか?)


(どうゆうこと?)


(はぁ、力の向きの操作か、見えない壁を作る能力です。 中学の物理の授業で何となくはやってませんか?)


(どこぞのクソ猫のせいで暗い中学時代を過ごしたせいでわすれた)


トモは魔法少女になって以来の人使いの荒い上司の愚痴をこぼす。

クーリガーは地雷を踏んだことに気付くが状況が動いたため無視することにする。


(まぁいいです。来ます! 大振りは控えてください。出来れば捕まえて一撃で仕留めるのが最善です)


トモはまたしても大剣を床に突き立てる。

そして屈むような体勢で膝のバネを溜めていた。

その態勢を確認すると、うさ耳はトモの背後に向かって飛び出す。

そして着様に振りむきざまの一撃。

しかしもうそこにトモはいない。大剣を軸に半回転していた。

そこから更に詰め寄りうさ耳の一撃。そこから回転しての右の一撃、そのままギアが上がっていく。左。右。左。回転しながらの五連撃の後、飛び上がり、空中できりもみ回転しながらの連撃。そのまま懐奥深くに入ろうとするうさ耳だが、地に刺した大剣が邪魔で追撃をあきらめ、一旦引くのであった。


ここまでの攻防で辺りは完全に静まりかえっていた。

息をのむ冒険者たち。倒れていた冒険者も巻き込まれては敵わんと遠くに離れていた。


「へぇ……、大剣使いなんて力自慢が多いんだが、なかなか技巧派って訳だ。 どんな修羅場潜ったらそうなるんだい?」


「一人で1000体くらい早くて小さい化け物相手に街を守ってれば」


「ははぁ、そりゃ難儀な話だ。 つまりあんたは私が1000人いても捌けるわけだ。 面白い! 本気でやろう!」


うさ耳の少女の口元が緩む。どうやら何が気に入ったのか、まだまだやるつもりらしい。最初から殺す気できている相手だがこれ以上はしゃれにならない。

だが、この状況に待ったが入る。


「あのぅ……ギルマス? 屋内で暴れるのはそろそろちょっと……」


数人の受付嬢が、笑顔に怒りを浮かべ佇んでいる。

どうやら流石にやりすぎただったようだ。うさ耳の少女の顔が「やべ……」という表情に変わる。

トモは視界の端に酒瓶を何本かかっぱらって外に逃げようとするメテオラを捉えていた。捕まえようと走り出すと後ろから、うさ耳の少女の怒声が飛ぶ。


「メテオラ! お前もこい!」


その言葉にメテオラは振り向き、「エステル、わし関係ないし」と堂々と嘘をついた。どうやらうさ耳の少女はエステルというらしい。


「お前がいて騒ぎになってる時点でお前が関係ないはずないだろ!」


エステルはどうやらメテオラの性分を理解していてる。

トラブルには積極的に係わる性質だし、作る方なのだ。


「信用ないのう……」


メテオラは項垂れながらごちる。

エステルはその様子に、


「お前がトラブル起こすというのには信用してる」


と零した。

この場にいた冒険者や受付嬢たちは内心それはあんたも一緒だと思っていた。 


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