魔法少女、うさぎとのお茶会

エステルは顎をくいっと上にあげると、ブスっとした表情のまま二階へ上がっていく。どうやら着いて来いという事だろう。


メテオラはすごくめんどくさそうに、トモは渋々といった様子で黙ってついていく。

絶対碌なことがないだろう。その予想だけは当った。


二人は二階の応接間に入りソファーに座ると、開口一番怒鳴られた。


「いきなり来て大暴れとはどういう了見だ!」


自分を棚に上げ、エステルの雷が落ちる。


「メテオラが悪い」


「ワシは煽っただけじゃ。めんどくさいことをいう受付嬢が悪い」


「あぁん?」


責任転嫁の連鎖をする二人にエステルの機嫌は更に悪くなる。

そこに割って入るように、メガネの受付嬢が部屋に入ってきた。

落ち着いた印象のくすんだ金の髪を持つ女性だった。


「あなた達全員悪いですよ」


お茶を差し出しながら、その女性は言う。

正論すぎて、トモとエステルは黙ってしまった。

しかしメテオラは「酒がいいんじゃが」と何も反省する様子がなかった。

その言葉に三人の目線はきついものに変わるのだった。


――ことのあらましを説明すると再度エステルから雷が落ちた。


「なんで身分証の作成だけでこんな大事になってるんだ!」


「あの程度の喧嘩なら日常茶飯事じゃろ? それに剣を最初に抜いたのはお主じゃ」


「40人以上ぶったおして、日常茶飯事な訳あるか!」


「いや剣を抜いた時点まではまだただの喧嘩でしたよ。ギルマス被害の酒代と修理代は手当から引いときますからね」


どうやらメガネの受付嬢は中立のようだ。

正直メテオラとエステルのやり取りにツッコミをトモが入れるのは無理な話だった。

酔っ払いと戦闘狂の舌戦など、触るだけで大やけど必死だ。


「ていうかそうだよ! 身分証! それさえもらえれば私別にこんなとこで喧嘩する理由もなかったんだよ」


トモは思い出したように元々の話を切り出した。

だがその望みは叶わない。エステルは一言「駄目だ」というのだ。


「なんで?」


「むしろこんだけやってなんで貰えると思った?」


「でも力があれば冒険者になれるって……」


「そうは言っても身分の証を冒険者ギルドで保証するにしても、大暴れした人を保証するのはちょっと……、メテオラ様の付き添いと言っても、そのメテオラ様は……」


メガネの受付嬢は大変言いづらそうだが、メテオラはどうやらあまり担保として見られていないようだ。そのことに、エステルがはっきりと言及する。


「メテオラは危険人物としてギルドで登録してある。力が強い分一応籍は置いてるし、身分証も用意してやってる。だが、いつから生きてるか定かでもない化け物を一応、一応、管理している名目で渡してるに過ぎない」


その言葉につまらなそうな表情を浮かべるメテオラ。

しかしトモはこれでは、街に入るためにいつまでも面倒な手続きを踏むことになりそうだ。メテオラの色仕掛けもそんなに宛てにしていいものでもないだろう。


「そもそもなぜ鑑定を拒否した?」


そもそもの話をエステルは聞いてくる。

その言葉にトモが話をしようとすると、メテオラの雰囲気が変わった。


「そこの受付嬢、お主は聞かぬ方がよいぞ?」


その口調は優しげだが、威厳の籠った声だった。

その一声に受付嬢は竦み上がる。どうやら腰が抜けてしまったようだ。

這うように部屋から逃げ出す姿はとても哀れだった。


(あーきれいな人なのにかわいそう)


その後ろ姿にトモは憐憫を感じたのだった。


「威圧するのはやめろ。太古の龍よ」


受付嬢が出ていくと、エステルはメテオラの正体を話した。

どうやら先ほどは濁したが、すべて知っているようだ。


「ふん。随分と丸くなったもんじゃ。 お主がギルマスなんての」


剣呑な雰囲気を収めて、軽口を言うメテオラ。

しかし、雰囲気からは酒気が消え去り真面目に話をするようだ。


「こやつ、トモは召喚者じゃ。しかも名ばかりの勇者じゃ」


「勇者? にしては恩寵が薄い……、いやまったく感じられないんだが?」


その言葉に耳をぴくぴくと反応させて疑問をエステルは口にする。


「それじゃよ。 呼び出すだけ呼び出してまともに恩寵を与えられんかったようじゃ」


「なぁにそれ? どこの神が呼び出したんだ?」


「ヘルモルトじゃ。 おそらくじゃがな」


その言葉にエステルは顔に手を当てる。よっぽど聞きたくない言葉だったらしい。


「あのさぁ確かにあいつ嫌な奴そうだけど、どうしてそんなに二人は嫌がってるの?」


気になっていたことなのでいい機会だとトモは質問することにしたようだ。

その言葉に心底げんなりしたような顔を見せ、メテオラはひらひらと手をふりエステルに話を任せた。


「調停神なんていかにも判決を下すような言われ方をする神だけど、実際は蝙蝠みたいなもんだよあれは、調停神ゲームメイカーなんて気取ってるいけ好かない神、善神側にも悪神側にも肩入れした挙句引っ掻きまわすのを楽しんでる。悪意の塊みたいな存在。 それに目を付けられてるなんてご愁傷様としか言えないね君は」


トモの顔が渋くなる。聞かなきゃよかった。相当に自分の未来は暗いようだと悟ってしまったのだ。


「やつがいままで召喚したのでひどいのは、戦乱で心が壊れて戦うことしか考えられなくなった英雄とか、108振りの魔剣とその収集者、すべてを食らう蟲の王だとか碌なもんがないのう」


更にひどい補足をメテオラがしてくれた。

つまりトモはそういう碌でもないものと同列らしい。さらに言えばエーレンゼルの神もヘルモルトの仕込みのようなものだ。トモは二人と同じげんなりとした表情になった。


「それで、あんたら二人は旅するつもりらしいが、ヘルモルト絡みなのか?」


「トモあれを出せ。 見せた方が早い」


そういうとトモは虚空より、位相空間を開き、種のような物を取り出す。種は取り出した時と比べ指でつまめるぐらいのサイズに変っていた。

表面は波打ち肉感がある。その気味の悪い物体にエステルは怪訝な表情を見せた。


「なにこの気持ち悪いの」


「おそらくヘルモルト絡みの物じゃ。人に寄生しておったのを、倒して取り出したんじゃ」


「ふーん。 それで寄生してたのは強いの?」


「強かったの。 森ごと焼けば余裕じゃったが、徒手空拳だけじゃ削られて負けておったかもしれん」


その言葉にエステルは黙ってしまった。

更にメテオラがまだあるかもしれないことを伝えると、天を仰いで、


「あ゙あぁぁぁぁぁぁ!」


と酷い嘆きの声を上げた。

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