魔法少女、真っすぐいってぶっ飛ばす

大男が轟音と共に吹き飛ばされると、酒場の冒険者はどよめき立ち。

受付嬢たちは口に手をあて、唖然としていた。

メテオラは自分は関係ないとばかりに、大男がいたテーブルに行き瓶に入った酒を拝借していた。いつの間に移動したのだろう?


「むぅ……もうべたべたじゃん! メテオラは何関係ないってしれっと離れてるのさ!」


「まぁ、ここにいるやつらなど相手にもならんじゃろ? さっさと終わらせてしまえ、責任は全部そこの受付嬢のせいにしてしまえ」


そういってからからと笑うメテオラ。どう考えても原因はこいつだが、超理論で言いくるめる気のようだ。

そしてヘイトは、すべて大男をぶっ飛ばしたトモに向かう。

完全に観戦モードでこの場をやり過ごすつもりのようだ。


「おいおいねーちゃん? さっきから随分ご挨拶じゃねーか? 冒険者舐めてんのか?」


しかし、そうは問屋が卸さない三下っぽいでっぷりと太ったモヒカンが流石にメテオラの暴言に異を唱える。

しかし、メテオラが酒を呷りながら身分証を見せると、急に大人しくなった。

その身分証には白銀獅子級冒険者 メテオラと記載されていたのだった。


冒険者のランクは下からノービス、ブロンズ、シルバー、ゴールドとある。

そして更に英雄級の功績、グリフォンや竜退治を行った者たちには白銀の称号が与えられ、更に功績順に白銀、白銀鷹翼、そして最高の白銀獅子の称号が付けられるのだ。


つまり、メテオラは冒険者として最高峰の頂にいる。

木っ端な冒険者が意見するなど自殺行為であったのだ。


「まぁ文句があるなら、あの娘にいうんじゃな。別にわしが相手してやってもよいが、あれと違って加減はせぬぞ?」


そういって笑顔で脅す姿は大人げなさしかなかった。


トモは次々と掛かってくる相手を、投げ飛ばしていた。

打撃だとやりすぎてしまうのだ。しかしこの状況は、槍を投げられたこの世界に来たばかりの事を思い出し、トモは泣きながら男どもを投げるカオスな光景となっていた。


「もぉ! お願い」びたーん!

「だから」びたーん!

「やめてよ」びたーん!


その周りには投げられ受け身取れず沈んだ男たちが、泡を吹いて倒れていた。


「あのガキすげーな。もう30人だぞ?」


「わはは、だらしねーぞ! お前ら!」


「そこじゃもっといくんじゃ!」


比較的酒が回って余興代わりに見守ることにした酔っ払いたちに交じり、メテオラはやいのやいの野次を飛ばしていた。

その姿を見つけたトモは八つ当たりとばかりに、男を力強く床に叩きつけるのだった。


「うるさい! 馬鹿ども!」


大きな声が酒場に響いたのは都合トモが42人目を投げ飛ばした時だった。

その声の主はギルドの吹き抜けの二階の手すりに腰掛けて、怒気を飛ばしていた。

声の主は、ウサギの耳をした少女だった。踊り子の様に薄い布を纏い、その腰には二本のカトラスのような反りが強い剣を刺している。

少女は周りが静まったのを確認すると、そのまま滑り落ちるように一回に落ちてくる。そしてそのまま縦に一回転してから二本足で真っすぐ着地した。

動きだけで只者ではないと解る身のこなし。


そしてそのままトモにするすると地面を這うような低姿勢で近づくと、いつ抜いたのかも解らぬ右に持った剣をトモの首をめがけ振り抜いたのだった。

そして響く金属音。

その少女は振り抜いたつもりだった。しかし、その感触は何かに阻まれた感触。

驚愕の表情とともに、いつの間にか出現し己の一撃を阻んだ大剣を見る。


「へぇ、どっから出したのこれ? 空間魔法とか、久しぶりにみたよ」


「そんなことより、いきなり首を取りに来るとかイカレてない?」


「そんなこと、て話じゃないんだけどなぁ」


言いながら、剣を勢いよく引き離れるうさ耳の少女。

その口調は軽やかだが、目は笑っていなかった。

ぞくりとする殺気を纏った少女にトモは、先ほどまでの余裕が消し去った。

そんな姿にメテオラは、


「首狩り兎《ボーパルバニー》がこんな街にいるとはの」


何かを知った様子でしたり顔をしていたのだった。

どうやらうさ耳の少女は引く気はないようだ。

トモはそのまま大剣を床に突き刺し、出方を伺う。

また姿勢を低くし、ウサギが跳ねると戦いは始まったのだった。

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