魔法少女、冒険者ギルドへ

ファルトの街でトモたちは換金を済ませ、旅に必要な物を買い込んでいると既に三日が過ぎ去っていた。

ホテルの一室で寝転ぶメテオラは旅の再開のための話し合いをトモに提案する。


「なぁトモ? お主、あのでかい種みたいなのはどうなったんじゃ?」


「あぁ、あれ? なんかいつの間にか小さくなってるみたい。 多分寄生しないと成長できないのかも?」


「やはりそういう類のものか……、それは一つしかないと思うか?」


「うーん……、わかんないけど……、また有ったらどうなる?」


「どこまで育つかは知らんが、少なくともドライアドが対処できないとなると、世界が滅びかねんの」


メテオラはきっぱりという。

その反応にトモは心底嫌そうな顔をした。あの胡散臭い神の顔が浮かんだのだ。


「多分……、あの胡散臭いのがなにも言ってこないのって、干渉がしづらいだけじゃないよね?」


「まぁじゃろうな。 ほかにもあるから、無理して干渉してこないと見るのが賢明じゃな」


「メテオラはどうしてほしい? 私が集めるべきだと思う?」


「好きにすればよかろう? 少なくともお主は、一度自分の世界は救っておるんじゃろ? こっちの世界まで助ける義理はないはずじゃ」


そう言うと、微笑むメテオラ。どうやら彼女はトモの自由に任せるようだ。

トモは正直あの胡散臭い神が気に入らない。できればあのにやけた面をぶん殴りたいとすら思っている。

だが、今はもとの世界に帰還する方法を握るのもあの神だけなのだ。


「やるしかないと思ってる。 私は自分の世界に帰りたい。 その為にはあいつの云う通りにして、あいつを引っ張り出さなきゃだめだと思うし」


「そうか、そうじゃな。 わしもできる限り付き合おう。 まずは情報じゃな。 あと身分証じゃな。 なぁに冒険者ギルドに行けば簡単に作れるじゃろ」


メテオラは良く人間の街に潜入していたようだ。

その理由は食べ歩きだが、その経験が今はトモの生活の助けになっていた。

メテオラの身分証も冒険者ギルドで発行したそうだ。


トモたちは冒険者ギルドに向かうことにする。

初日に道は聞いていた。どうやら大通り沿いにあるらしい。

冒険者ギルドは酒場と併設されていた。昼間だというのに大声で笑う声に包まれている。

その雰囲気にトモは少し気おくれしていたが、メテオラは気にせずずんずん進んでいった。


カウンターの奥は仕切られ、酒場には似つかわしくない固い服装をした女性たちが事務仕事をしているのが見えた。どうやらあちらが受付らしい。

煽情的な肉体を持つメテオラはじろじろとぶしつけな目線に晒されるがそれを無視し

奥に向かっていった。

ちなみに後ろをちょこちょこ歩くトモは誰も見向きもしない。――、一人、やたらと熱を持った視線を送る者がいたがトモは気づかない振りをした。


「いらっしゃいませ! ご依頼ですか?」


元気な受付嬢が、メテオラに話しかける。


「いやなに、この娘の身分証が欲しくての冒険者として登録したいのじゃ」


そういうと、トモの肩を引っ張り前に出すメテオラ。

その姿を見た受付嬢は少し困った顔をする。

どうみてもただの子供だ。いきなり冒険者にするというのは危険極まりない。

何かレア神技スキルや高い恩寵ステータスでもあるのだろうか?と訝しむ。


「そうですねぇ……。一度鑑定させてもらえますか? 力のない子を冒険者と認める訳にはいきませんし……」


やんわりとしたお断りだ。

ステータスの開示は本来任意だ。だが今回は鑑定をする旨を伝えお引き取り願おうと考えたようだ。低いステータスならそれを理由に断れる。


「身分証でしたら、国に帰属してこの街で暮らして税を納めれば貰えますし、無理して危ない冒険者にならなくても……」


「旅をする予定なの。 すぐにもらえないと困る……」


「それでは鑑定を……」


「待つのじゃ。 この子は特殊でな、ステータスを開示するのはなしじゃ。そもそもその義務はないはずじゃろ?」


ステータスオール0など見せる訳にはいかない。

断られるのはもちろん。そんな人間などバレた時点で面倒ごとになるのは明白だった。一般人でも平均50ぐらいのステータスはあるのだ。

0などだれも見たことがないのだ。


「えぇ……、ですが私たちが不適格と判断すれば断ることもできるのですよ?」


受付嬢は規約について言及しても引く気がないようだ。


「では、だれかこの娘と手合わせをするのはどうじゃ? ここにいるぼんくら共ならまとめて相手にしても怪我一つ負わんし、誰にも負けんぞきっと?」


その態度に業を煮やしたメテオラは敢えて大声で挑発した。

その言葉に酒場の雰囲気が変わる。

一際大きな男が立ち上がり、ジョッキを持ったままメテオラの元に詰め寄ってきた。


「随分威勢がいいなねぇちゃん? それで誰が負けないって?」


三下のようなセリフを吐く男に、メテオラはめんどくさそうにトモを指さす。

その指先に、視線を移す大男はトモを見て大笑いすると酒の入った木のジョッキをトモの頭の上で傾けた。

中から酒精の強い茶色い液体が零れ落ちる。トモはそれを頭からかぶる形になった。


「はぁ……、結構この服気に入ってたのに」


その言葉同時に、大男は店の外に吹き飛ばされる。

大男が吹き飛ばされた場所にはトモが右腕を振り抜き拳を作った態勢で佇んでいた。

赤い髪は風圧でオールバックになり、見えないしっぽはピーンと張り怒りを露わにしていた。

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