第30話 謙吾宅で昼食を作る
翌日の正午過ぎ。謙吾の家に一同が集合した。宣言通りの勉強会。その前に腹ごしらえである。
「でも、本当に良かったの? 私達まで来ることにして」
キッチンには雪花と真澄が並んで支度を始めていた。
「うん、二人だけって言うのもね、ガチガチになっちゃいそうだし」
乾いた笑いを浮かべる雪花に、
「あんたって……」
真澄は愛嬌のあるペットを愛でるような視線を送る。それでも呆れたような顔色を帯びているのは、謙吾と二人っきりになったとて、どこで習ったか知らんようなロボットダンスでしか反応できなさそうなのは、これまでの雪花の言動からすれば、真澄でなくとも誰の目にも明らかだからである。
「あなた、CD貸しに龍宮くん家来たんでしょ?」
「でも、それは玄関で済むと思ったし、今まで皆でだったのに、急に二人っきりってのもおかしいでしょ」
「別におかしくはないけどね……。それにしても、絶好のチャンスを棒に振ったと思わない?」
「それはその、何というか……」
「ま、分からなくはないけれどね。小心者ってことで、だから、メニューはチキンカレーってわけでしょ」
「そういうわけでは……」
リビングにいる謙吾に詳細は聞こえてこない。むしろその分、台所の様子が気になり、ザッピングが落ち着かない。
それを打ち破るものが一人。洋介ではない。
「よーし、私も手伝ってやろう。ほら、ケンゴよ。活きの良い魚であろう」
サワの手には、木の笊には盛られたイカ五杯と、マグロの切り身やアジなどの計一〇匹。どこから仕入れて来たのかは知れないが、見た目確かに艶やかである。
「これ、どうすんだよ」
「どうって、食べるに決まっておるだろ。」
「だから、どうやって料理すんだよ」
「活きが良いのだ、そのままいけるだろ」
「いけねぇよ。俺達は魚類じゃねぇんだ。生魚、頭から食えるわけねぇだろ」
「何を言っている。イルカも哺乳類だが、生で魚介類を食っているぞ」
「んなこと言ってんじゃねぇよ」
などとやりあっていると、沖水も立ち上がって来るものだから、
「今回は雪花と清白の二人にまかせよう」
二人を制するために、謙吾は汗をかく羽目になった。
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