第29話 洋介と真澄

「ね、ちょっと聞きたいんだけど」

「あ? なんだ?」

 真澄から洋介への詰問の始まりであった。すでにいつもの十字路で謙吾、サワ、沖水とは別れていたし、雪花ともすでに違う通路になっていた。

「あの数字、どうやって決めたの? バーの高さの」

「どうでしょうねぇ。こういう時に趣味のマジックって使えるんだよねぇ」

「なんで、そんなこと?」

「そうしんと面白くないって。緊張感とかな」

「ふーん、そうかもね。それと、龍宮君が高跳びの選手だったって、あんた知ってたんじゃないでしょうね」

「何でそう思う」

「別に。興味はないけど。あの勝負、どう転んでも二人に接点が設けられるようになってない?」

「両方負けてたら、どうすんだよ」

「あんたのことだから、『んじゃあ、負けちまったんだから互いに言いあうべ』なんてこと言って結局おんなじことになるんじゃないの」

「それくらいはね、しておかんと」

「なんで?」

「夏だしよ。高三の」

「それはそうだけど」

「ま、俺は中学ん時からいろんな大会を見るのも好きだったからな」

「もう分かったわよ。全くもったいないわね。スポーツバカじゃなければ」

「何言ってんだよ。こないだの模試だって志望校A判定だぜ。ちゃんと頭ついてきてるだろ」

「だからもったいないって言ってんのよ」

「そうかい。でもまあ俺はこのまんまだしよ」

「そうね。あんたが秀才風醸し出したら気持ち悪いことこの上ないしね」

「まったくひでえな」

「そう? 慣れたもんでしょ」

「違いねぇ。んで、あの二人はどうよ」

「さあ。龍宮君もアレだしね。ここまできてまだ気づいてないのかしら。気づいて何も反応しないとしたら、それこそノミ以下の心臓ね。それに」

「それに?」

「サワさんと沖水さんよ。あの二人が刺激になって雪花がもっと奮闘してくれればいんだけどね」

「あの二人は美人だからな。雪花嬢ピンチだしな。謙吾は謙吾で……」

「どうしたのよ、黙って」

「いいや、あいつはどう思ってんのかなって」

「何をよ」

「誰かを好きになるってこと。まだ自覚してねぇみたいだし。ホントに思春期男子かい、あいつは」

「あんたは振られたばっかりでしょ」

「きっついねえ。傷心の身に。ときめきは生きる糧だぜ」

「分かってるわよ。ま、私も人のこと言えないけど。妻と子供のいるひとはね。もう振られるの目に見えてるし。まあ、始まる前に終わっている状態」

「それでも恋してるんだったら、多少はヤル気とか出てくるだろ」

「まあね、私が振られたら愚痴聞きなさいよ」

「へいへい」

「あんたはしないの、恋」

「次の自分の恋よりもあいつら見てる方がおもしれぇかな、今は」

「いじりがいがあるからね」

「まったく女子ってのは怖ぇえな」

 腐れ縁ならではの気の置けない会話はいつまでも続いた。

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