第15話 夜の学校のプールで
職員用出入り口のドアを閉めた時である。物音がした。水が滴るような。謙吾に嫌な予感がよぎる。
「波野、早く帰ろうか」
夏。夜の校舎。人ならざる存在が闊歩するには、またとないステレオタイプなシチュエーション。現に前日の朝っぱらと夕方に度肝を抜かれている。未知なる存在の登場と、そのライバルの出現となれば、次に来るのはそれら絡みの小競り合い又は不可思議現象の勃発と、各種メディアコンテンツ展開では相場が決まっている。
そんな謙吾の不安を他所に、ときめく女子高生は、
――これは企画外の天然肝試し化になっているのではないでしょうか。だとしたら、吊り橋効果云々がよもや起こることになり、龍宮くんが……いや、なんかおかしくない、これ。いやいや、逆に私が怖がって龍宮くんにしがみつく! って、そんな!
何事かラッキーを求めているのか、妄想にふけっている。
目を閉じて身を捩っている雪花さえ、何事かが影響をしてそうさせているのではと心配しつつも、しかしながら、謙吾はやはり物音の正体を無視できない気持ちになっていた。仮にそれを無視して帰ったとしても、きっと気になってやきもきするであろう。怖い物見たさというのも、全くなかったとも言えない。
「波野、ちょっとここにいてくれ。物音が何なのか見て来るから」
謙吾の説得をそのまま受け入れるはずもなく、正気に返った雪花は強く同行を申し出た。
――確かに一人でいる波野に何事かが起こるかもしれない可能性もあるか……
「分かった。じゃあ、一緒に行ってみようか」
「ウ、うん。イッショにね」
数秒間隔で聞こえる音。エンジン音も近隣の生活音もない校舎周りの静けさが、その音の確実な出所へ近づかせた。プールである。
入口の金網フェンスは施錠されていなかったので、二人は鞄を置き、靴を脱いでプールサイドへ。誰もいない。水泳部や、あるいは夕方誰かが使用したとしても、この時間までにはある程度乾いているはずなのに、現場は足をびしょびしょにさせるくらいに水たまりが点在していた。謙吾はじっとりとした汗が生え際から滲んでくるのを感じた。
プール周りに設置されたライトは照らされていなかったが、少し屈んでよく見れば、注水口から一滴、また一滴と垂れているのが見て取れた。
――プールなら水音くらいするか
奇怪極まりないことではなく、実に物理的な現象だと確認できた上に、謙吾はサワ関連という一抹の不安が解消され、
「チャリ、取りに行こう」
現場から引き返そうとして、
――あれ? でも、ならなんであんな大きさに音が聞こえたんだ?
浮かぶ単純な疑問。プールと職員用玄関は隣接しておらず、しかも校舎を曲がらなければならない。夜で自動車の往来が無かったとはいえ、その距離の水滴の音が聞こえるはずはない。とたんに給水がけたたましい音で始まった。
再び、嫌な予感が沸き上がる。そんな体感のまま反応のない雪花を見れば、目を点にして突っ立っていた。
「ア……アレ……」
指差す方向を辿る。プールの水がゆっくりと竜巻状の水柱になっていた。それを見逃していた視神経の怠慢に喝を入れている暇ではなかった。それが瞬く間に孤を描いて二人の前まで伸びたかと思うと、人の形になったからである。手足の生えたスリムで半透明な雪だるまが溶けかかっているとしか見えない。
まるで幽霊な容姿と軟体的な動き。一歩出すと、足元から頭上へ順に波状な揺れを見せる。その不気味さが悪寒を催させ、背中を滝登りする。
“バク バク バク バク”
「逃げよう」
雪花の手を引いて駆け出す。転倒危険のためプールサイドは走らないことなどと言っている場合ではなかった。
――こいつ、何なんだよ
その水人間から逃れようとするものの、入口は正反対。そいつが身をばねのようにして伸ばし、二人の頭上で再び弧を描き着地すると足元から姿を整え、人の似姿になり立ちはだかる。それまでの走路を取って返して逆走する。フェンスをよじ登るという選択肢も頭をよぎるが、またしても走路を阻まれ、角に追い込まれてしまった。水幽霊は、両手を伸ばし、うようよとブレイクダンスの動きで近づいて来る。謙吾は雪花を抱きかかえて庇う。ここに至っては男気の見せ所である、などと悠長なことを言ってはおれず、それとても反射的な行動。謙吾に対処の方法など皆目見当がつくはずもなく、せめて女子は守らねばなるまいというせめてもの強がり。
想い人の腕の中の雪花は、さっきのしがみつく云々の妄想とは真逆だが、急接近が実現したわけで、顔が使用中の給湯器になる。
急に腕に重みを感じ、雪花に目を落とす。目を閉じて脱力した雪花がいた。
「おい、波野!」
肩を揺すり、少なくとも息をしていること確認した。さぞかし怖いために失神したのだろうと推測した。思い寄せる異性に抱かれたのが嬉しくてとはつゆほども思いもせず。
という人間二人にかまけているわけはなく、プール水の化け物がのそのそと近づいて来る。まさにその手が謙吾の顔を掴もうとした瞬間、
「たわけがー!」
えらい勢いでサワが金網を飛び越えて現れたかと思えば、その人間型の軟体水の横っ面に、物の見事なキックをぶち込んだ。それは大きく逆サイドまで吹っ飛んで行った。
「ケンゴよ。大丈夫か」
「俺は大丈夫だ。けど、波野が」
二人の元にサワは悠然と歩み寄った。
「気を失っているだけだな」
雪花の顔を覗き込み判断を下したサワの言葉に、謙吾は幾分平静に戻ることができた。
吹き飛ばされた水人間は用具室の壁にぶつかり、弾け飛んだが、みるみるうちに水滴達が結集し、それはプールサイドの溜まっていた水たまりさえも同化してゲル状な動きで、再び人間型になっていった。身を躍らせている様子からして、決して陽気なサンバではなく、サワのキックでどうやら逆鱗に触れたようである。
「何なんだよ、あれは」
「説明は後だ」
手にはあのスマホ型ツールを構えてサワは、背に謙吾と雪花を隠し、臨戦態勢を整える。
猛烈な勢いで突進始めた軟体水。三人を標的にというよりも、サワめがけて拳やら手刀やら蹴りを連続で繰り出している。サワは防戦一方だが、うまい具合に決定打を受けない身のこなしである。海中にも武道や格闘技のノウハウがあるのだろうか。ジェット・リー主演のDVDを三日前に見たばかりだが、それにも引けを取らない攻防である。
人間型イルカと水幽霊との格闘に目を奪われていた謙吾だが、どうにかしてサワを有利にする方法を思案しなければならない。しかし、そんなてっとり早い手段がプールサイドに転がっている訳はない。雪花を放ったらかしにもできない。謙吾はひとまず辺りを見渡す。武器にならずも、激しい一戦に身を置く二人の注意を反らすくらいのことができるグッズはないものか。音が鳴るものはマズイ。騒音になり人目につくのは避けたい。戦いが繰り広げられている現在もよくも人が来ないものだと、謙吾は内心ビクビクしているくらいだ。同様の理由で発光関係での反撃も却下。
となれば。
「ブッ」
サワの動きが止まった。同時に水の化物の動きも。塩素くさい水が上半身にぶちまけられたのだ。雪花をプールサイドに寝かせ、謙吾はプールの水面を手で掬いそのまま二者に放ったからだ。
「よくやった! ケンゴよ!」
言って、サワの蹴りが水幽霊の膝と思われる辺りを猛打。いきおい、それはプールに落ちてしまった。
「やったのか?」
「まあ、頭を冷やすのにはちょうどいいだろ」
謙吾に近づくサワは、プールの中から視線を外さない。
「ひとまず波野を……」
と体を反転させようとしてまたしても謙吾は有り得ない現象を目撃した。プールの水面がざわつき、まさにネッシーでもご登場かのように、水面が小山状に隆起しだした。上半身はあの水の雪だるまだ。さすが水分。豊富な水量を下半身から吸収し、半身を巨大化させているのだろう。
「でか!」
謙吾は素直に驚く。
「生き物ならそれらしく落ち着けよな」
水の巨人が腕を振るう。ひらりとサワは後退。どうやら敵の標的はサワに絞られたらしい。左右交互にその腕が襲い掛かっていく。
攻撃をかいくぐりながら、サワはスマホ型ツールの画面をいじろうとする。が、そうはさせまいとしているのだろうか、巨人の腕のスピードが上がる。巨人が両腕を掲げた拍子をついて、すばやくタップしようとするが、敵もさる者で即座に腕を叩きつけるため、サワはその対応で手いっぱいだ。
「おい、そのツールならあいつをどうにかできるってことだよな」
「そうだが、こうも立て続けに打ち下ろされていたら、反撃もできん」
「時間稼ぎが要るってことか」
「そうなる」
この場において、進撃の雪だるまが陳情に従ってじっとしておいてくれるなどといった悠長なことはまるで期待できることではなく、失神中の雪花には危害が加わらないよう注視している必要もある。となれば、その時間稼ぎをできるのは謙吾だけに絞られる。
「つってもな」
彼にもそれは重々理解できているようだが、策を立てるなど戦国時代の軍師でもない謙吾には容易に浮かぶものではない。とはいえ、こんな騒動がバレてしまうのは時間の問題である。早々に片を付けるのに越したことはなく、それができるのはサワの手に握られているツールのみ。
「この水の怪物に俺が……? 怪物?」
言いながら、謙吾はさっきサワが言ったことが妙に気になった。
「おい、サワ。お前、これが生き物だって言ったよな」
“トクン トクン トクン”
その鼓動が疲労や焦燥なのか、打開策の閃きによる高揚感なのか確かめる時間はない。
「ああ? そうだ。だったらなんだ。今はそれよりもだな……」
暴れまわる野生獣に麻酔銃を使いたいのだが、照準を絞る暇さえないという状況にあるのだが、その言葉を遮るように、
「時間稼ぎはどれくらい必要なんだ?」
「いや、ほんの十数秒あれば」
「なら、俺がやる」
「何を言っている。ケンゴよ。お前ができることなど……」
再びサワの言葉を遮る。
「あれが生物だというなら、俺にでもできることがある。とっととやっちまえよな」
言って謙吾は水の巨人に向けて走り出した。
「ケンゴ! 戻れ!」
サワの制止を無視して一気に巨人に突っ込んで行った。化物とはいえ水である。難なくその中に入ることに成功。
「お前、いったい何を?」
サワは謙吾が正気を失って末の暴走にしか見えていない。
「早くしろよ」
水製であるせいか、くぐもって聞こえる。その謙吾の表情からも声を絞り出したのだというのが分かる。
謙吾の様子を呆然と見つめるサワは、続けて巨人がのたうちまわり始めたのを目の当たりにする。
異物を排除したいとでもしているのだろうか、軟体水は身をくねらせ続ける。
「そういうことなら、早く言え!」
謙吾の時間稼ぎに便乗するしかない。すばやくツール画面をタップしていく。サワが必要と言った十数秒。
「あれ……?」
小首を傾げつぶやくサワ。しきりにタップし続けるが、まるで反撃どころか、反応さえもないツール。しかし、それを言いたいのは水中で呼吸もままならない謙吾である。
さすがに軟体水の動きが徐々に平静に戻っていく。それに反比例するように、体内の謙吾の表情がますます険しくなっていく。口が開き、グラスに注いだばかりの炭酸飲料のように無数の水泡があふれる。
「お前、ふざけんなよ!」
半ギレに謙吾がなるのも無理なからぬこと。すでに一分を過ぎようかとしているのだ。水の張った洗面器に顔を突っ込んで一分はどうにかこうにかこらえられたとしても、そこは人体化した水の、しかも大暴れしているその中である。我慢できる時間も著しく短くなっておかしくはない。
「よし! ケンゴよ、今行くぞ!」
サワがようやく指を止め、画面を軟体水に向けた。事態打開の一矢が放たれた。まぶしくない柔らかい光が巨人の全身を覆う。
「俺ごとかよ!」
謙吾がイメージしていたのとはどうやらまるっきり違う反撃だったらしい。下手をしたら自分も処置されてしまうのではないかと、ありったけの絶叫をする。
「あ、そうか」
巨人を包む光はそのまま、改めて画面をタップし直し、改めて謙吾にかざす。巨人に放たれたのとは違うが、これまた穏やかな明かりがロープになって謙吾を柔らかに縛ると、一気に水の中から引き抜いた。
「速えよ!」
その勢いもまた謙吾の予想よりもかなりスピーディだったようで、ふらつきながらプールサイドへ戻る。
「ケンゴよ。お前は何を考えておる」
自分の拙速な行動をはるか遠くに追いやって説教モードである。
「他にあるのかよ、策が。お前、あれが生物だと言ったろ。生物なら免疫反応があるはず。抗原抗体反応ってやつだ」
ずぶぬれで膝に手を置いて肩で息をする謙吾。発熱、くしゃみと同じ原理を思いついたのだ。
「いや、そういうとだな……」
サワの声量が劣勢になる。
「しかしな、それならばそうと私に一言をだな……」
どうしても優勢に持っていきたいらしい。
「ケンゴよ。さすがに無謀だぞ。もっと熟慮してだな……」
「おい、あれ!」
畳み掛けるサワの説教が耳障りそうで、水の巨人がどうなったのかとプールを改めて見た反応が驚嘆であった。
下半身はプールに浸かったまま、その縁に上半身をぐったりと伏せる沖水滴がいた。
ダッシュした。水も滴るプールサイドは危険真っ盛り。級友を野放しにはできず、沖水を引き上げた。プールサイドに横たえる。全身ずぶ濡れであった。
「そのうち起きるだろ」
冷たいサワの声を背中で聞きながら、
「おい、沖水、おい」
揺すってみた。頬を叩いてもみたが、まぶたは閉じられたまま。
「でもなんで沖水が? それにあの化物は一体どこに……」
「そこに寝ているではないか」
「あ?」
サワが気もなく指さす。目を閉じた沖水を。
「だーかーら! あれがこやつだと言っているのだ!」
「ハァ―――――――――――――――ッ?」
サワが正体を明かした時に負けず劣らずの反応だが、抑え気味の声はTPOを考慮に入れて自制が利いていた。それでもそれなりの声。雪花が目を覚ますには十分だった。
「龍宮くん」
ガバッと起き上って一足飛びで近づく。謙吾の合い向かいで沖水を見下ろす。気を失っている間に何が起こったかは知らないが、いつのまにか留学生とクラスメートがいて、しかも後者がプールサイドでぐったりして気を失っている。雪花が心音を確かめてみると、それは聞こえたが、呼吸が止まっていた。
「人工呼吸……か……」
謙吾が沖水の気道を確保しようと、その額に片手を乗せた。
「それはダメです!」
これまでにない絶叫を響かせる雪花に、目が点になる。
「いや、けど早くしないと……」
「私、普通救命の講習受けたことがあるから、私がします!」
その強い目力に、
「いや、俺も受けたことあるだが。じゃあ、まわかせるわ」
身を引くしかない。よく考えなくても、女子同士の方が良いだろう明々白々が謙吾はすっかり頭から抜けていた。
膝立ちになる雪花の肩を
「私がやる」
とだけ言って、サワはスマホ型ツールを沖水の胸元に当てると、一度、ビクンと沖水の身体が撥ねた。
「AEDの代わり?」
雪花は優れた受講生らしく、自動体外式除細動器の代わりとなった外国の携帯電話の技術力に感嘆をした。
「おいさすがに電気ショックってのは……」
スマホ型ツールをポケットにしまうサワに指摘。講習会でも心停止など意識不明の人の体の水滴は拭いてからAEDを使用すると注意を受ける。ここは水場である。水滴どころの騒ぎではない。全員感電の未来予知ができる。
「これでよいのだ。それに、ケンゴ達の言う電気とは少しばかり性質の違うものだ。まあ概して電気だと理解するくらいしかケンゴにはできんだろうがな」
筋が通っているのか通ってないないのかのサワの返答。
沖水は何度かむせた後、重々しく身体を持ち上げた。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
謙吾が立ち上がろうとする沖水の手を取り、その支えになる。
「! おっ、沖水さん、大丈夫?」
空いている方の手を、慌てた様子で雪花が支える。
「おーい、何してんだ?」
フェンスの向こうに和泉灯がいた。放課後といっても時間経過し過ぎている夜分。プールに忍び込んでいるとしか見えない生徒と留学生に担任が注意をするのは当然である。
「先生こそ」
「残業&忘れ物だ。なんで、龍宮と沖水がびしょ濡れになってんだ?」
「いや、これはエキサイトというか、ハプニングというかで……」
謙吾の言い訳にもなっていない返答の末を待たずに、
「何してるか知らんが、とっとと帰れ。あ、波野、私の車に乗っていけ」
「いえ、私自転車で……」
「明日でいいだろ。どうせ講習もあるんだし。物騒だろ、チャリとはいえ。早く来いよ」
担任は教員らしい職務を全うしようと、帰宅の催促し、歩いて行ってしまった。腕時計を見れば、もう二十時をとっくに過ぎていた。一同、足早に校門へ向かう。置いておいた荷物も忘れないようにして。ここに放置してしまったら、何のために夜の校舎に来たのか分からなくなる。
校門の前に和泉が立っており、軽自動車がハザードを点灯させていた。
担任からの心遣いを無下にはできず、雪花は助手席へ。
「龍宮くん、じゃあ……」
雪花は視線がサワと沖水に向かった。
「ん? ユキカよ、私の顔に何かついているか?」
それは無意識だったようで、サワの言葉に自身がそうしていたことに戸惑いつつ、
「ううん、じゃ、さよなら」
声色が弱々しくなっていった。その横から
「その二人は龍宮に任せるぞ」
和泉の指令。助手席のドアが閉められると、クラクションが小さく一つ鳴り、軽自動車は三人から遠くなって行った。
「ケンゴよ、帰るぞ」
「謙吾さん、私が言うのも何ですけど帰りましょうか。まだ髪がよく乾いてないもので」
二人はそんなことを言って歩き出していた。沖水の制服は、いつの間にか乾いていた。謙吾は相変わらず濡れっぱなし。それでもこの状態で帰るより仕方ない。
「何だよ、二人して。あ、そうだ。なんでここに来てんだよ。サワ」
「調査だ。調査。留学中だからな。夜の島内を見学していたのだ。それより、貴様こそ何しに来たんだ。最後のはあれか、よもやケンゴから接吻を期待していたのではあるまいな?」
「随分な言いぐさですね。蘇生術の一つを変な意味に歪曲しないで下さい。そもそもあのような姿になったのはあなたが」
登場理由を尋ねただけなのだが、そこから即行で喧噪に発展してしまう。
「うっせーよ! お前ら!」
「ケンゴが怒ったー」
一喝しようとしてみたが、サワはふざけながら走り出して行った。
「謙吾さん、お話がありますので自宅まで来てもらえますか? 他聞ははばかれますので」
そう言って沖水も走って行った。その姿はどう見ても同級生の姿。彼女があの水の幽霊だったなんて、サワの与太話としか思えないのだが。
立ち止まって二人の背中を見る。謙吾は舌打ちのような、ため息のようなどちらともつかない口の動きをさせた後、下唇を軽く噛んでから、頭を掻いた。
“ドド ドド ドド ドド”
――まあ、聞くことにすっか
まだ鳴り止まない鼓動のまま、ゆっくりと歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます