第14話 六日間戦争・現代までの縮図

「国連で米ソが睨み合っている間、イスラエルは圧倒的に攻勢に出ていったわ。シナイ半島方面へ攻め、ゴラン高原にも進出し、イェルサレムも確保したわ」

「好き放題やっている、ということだな」

「六日目、アメリカの停戦要求をイスラエルが受諾した時、領土は四倍になっていたのよ」

『大勝利だったのねー』

「彼我の損害を比べれば大勝利ね。だけど、イスラエルは小さな国だから、少ない犠牲も大きな負担とはなったのだけどね」

 それでも領土が増えて人口も増えることになるわけだからな。


「と同時に、ここからがイスラエル対パレスチナの現代に至るまでのラウンドが始まったとも言えるわね。結局、この件でパレスチナ全域がイスラエルの領土になった。その支配を受け入れたくないという人達がテロに走るようになり、パレスチナ解放戦線(PLO)が生まれたのよ」

 ヤセル・アラファトの登場ということだな。

「そうなるわね。PLO自体はナセルがプロパガンダ用に作った組織だったけれど、その中身をアラファトをはじめとするイスラム過激派が抜き取っていったわけ」


「更には、この戦いで出来た構図が現代に至るまで続いているわ。アメリカがイスラエルの支援をするようになって、アラブは対イスラエルを主張してはいるけれどバラバラの状態。パレスチナ内部では過激な運動が起きているけれど、彼らには統治能力なんてものがなく、内部統治は暴力によるものばかり」

「これだけ惨敗すると、ナセルの唱えたアラブ主義も消滅してしまったようなものだしな」

「ただ、ナセルはこの後もソ連を引き込んで、紛争状態を続けることにはなるの。完全に負けたと認めると自身の政治生命が断たれるから、引き続き戦っているという状態を維持しようとしたのね」

『太平洋戦争末期の日本みたいな感じ?』

「……まあ、そんなものね。ただ、イスラエルがどんどん強くなっていって、ソ連が本格的に介入しないと勝てなくなってしまったのね。ところが、ソ連としてみると、エジプトが負けると支援者たる自分達の威信が低下するから支援するしかないのだけど、支援そのものは負担になる。だから、メンツさえ保てるなら手を引きたいという意思表示を示し始めたのね」

「支援者のソ連にまで見放されそうになったわけか」


「そういう状態の中で1970年、ナセルは心臓発作を起こして死んでしまったわ」

「病気ではあるんだろうけれど、追い詰められてやられてしまった、って感じかな」

「そう考えて差し支えないでしょうね。ナセルの死によって、アラブ世界に英雄が現れて西側やイスラエルを倒すという夢は潰え、テロや過激派で相対する時代に入っていくことになったわけよ」

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