第13話 六日戦争開戦

「さて、ある意味では現代に至る紛争になってしまったきっかけともなる第三次中東戦争、別名六日戦争について説明するわね」

『現代に至るって、元々そーじゃないの?』

「この時までは、イスラエルはユダヤ人のみの国だったのよ。この戦争でイスラエルがぼろ勝ちして広大な地域を占領したから、イスラエルの領内にパレスチナ人がいるという結果になったわけ」

 問題になるガザについても、この時に占領されたわけだな。


「この戦争の発端は、ある意味では現代の状況と極めて似ているところがあるわね。似ているというより、政治力学としての帰結と言った方が良いかもしれないけど。この時代の大国……アメリカとソ連はベトナムの件で揉めていたわ」

 この時代のベトナムも話し始めると非常に長い。

 ただ、結論としてホー・チミンが率いるベトナム共産主義勢力と、アメリカが支援する南ベトナムとが争っていたわけだな。

「で、ソ連はこのままだと旗色が悪いと感じて、中東あたりで一騒動起こしてアメリカをベトナムから引き離そうと目論んだわけ」

『あー、今もウクライナでロシアがちょっと良くなくて、中東でって面もあるかもしれないわねー』


「ソ連の目論見はあくまで一騒動だったんだけど、アラブ側はそうはいかないわ。おまけにアメリカは前話の水利権をめぐる争いで調停案を出していて、それにこだわったために当初及び腰だったの。結果、アラブ側は『イスラエルを地上から消し去る大チャンス到来』と盛り上がったのよ。盛り上がりだすと止まらないからどうしようもなくなったわけ」

 アラブ側は日頃から、政治体制が未熟な部分の言い訳もイスラエルのせいにしているから、盛り上がった時にブレーキをかけるのが難しいんだよな。

「唯一例外だったのがエジプトのナセルだけど、彼もシリアの件で失敗してしまったこともあったし、アラブの大義を無視することができなかったわけよ。ただし、盛り上がっているだけできちんとした連携やら計画がないのは変わりがないわ」

 戦争が始まる前から勝った気になっていたら、ダメだよな……。


「一方のイスラエルも、全面戦争までは望んでいなかったけれど、最終的には踏み切るしかないと判断して計画を立てたのよ。負けると滅亡だからイスラエルは必死に考えたのよ」

 片や必死で、片や始まる前から勝ったつもりとなると、まあ、結果は明白だな。

「結果として、開戦からすぐにイスラエル空軍はエジプト空軍を壊滅させたの。具体的には集合箇所を見つけ出して先手を打って襲撃、滑走路を破壊して逃げ道をなくしたうえで破壊していったのね。その日のうちに北のシリアやヨルダン空軍も大体撃破して、制空権を確保したわけ」

 こうなると、アラブではもうどうしようもなくなるな。

 それでもソ連が本格介入すればどうにかなったのかもしれないが。

「ソ連もアラブと心中するつもりはないからね。アラブ側が負けているにも関わらず『勝っている』という発表をしていたから、そういうことにしておいて放置していたのよ。結果としてイスラエルが二日目以降も攻勢をかけるわけ」

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