第12話 ふりょー
「――ふおおおおおおおおおお!! ここがわたしたちのお城ですかぁっ!!」
翌日の放課後を迎えている。
無事にアオハル同好会の申請が通ったとのことで、早速ミーナ先生に案内される形で文化部棟の一室を訪れている。
はしゃぐラレアを筆頭に、眞水も「ちょっと感慨深いわね」と足を踏み入れていく。
「じゃあ矢野くん、これ鍵ね。部活が終わったらしっかり戸締まりして返しに来ること」
ミーナ先生に部室の鍵を渡される。
このあとは別の仕事があるそうで、俺たちに付きっきりではないらしい。
まぁ当然か。
「ミーナ先生、今回はありがとうございます。面倒だろうに顧問になっていただいて」
「ううん、気にしないで(成績優秀な君という将来への投資だから……w)」
「え?」
「あ、ううん。なんでもないよ。それじゃあね」
ぱちっ、となぜかウインクしながら、金髪美人ハーフ教師は立ち去っていった。
なんかよう分からんが……まぁいいか。
「――さあさあっ、いよいよアオハルどーこーかいがしどーしますよっ。ナマズっ、準備はよろしいですかっ?」
「眞水! 誰が地震予知出来るっていうのよ!」
部室に入ってドアを閉めると、中では早速漫才じみた光景が。
賑やかだな、まったく。
「大体ね、始動するのはいいけれど、アオハル同好会って結局何をするのよ?」
「アオハルっぽいことですっ」
「具体的には?」
「それについて色々考えたのですが、やりたいことが多すぎてひとつにまとまりませんでしたっ。なのでわたしのやりたいことリストをひとつずつ消化していく形にしようかなと思っていますっ」
まぁ、この同好会はラレアの私物みたいなもんだ。
好きにやってくれればいい。
「で、今日は何をするんだ?」
「よくぞ聞いてくれましたおにいちゃんっ。今日はふりょーになろうかなと思っていますっ!」
「……不良?」
「うぃっ。ふりょーと言えばアオハルの花形ですっ」
花形かは置いといて、まぁアオハル時代にしか見られないもんではあるか。
それ以上の年齢でやってたら単なるダメな大人だもんな。
「なのでわたしはふりょーに憧れていますっ。アニメもやってましたよねっ。――ひよこ食ってるヤツいる? いねえよなぁ! って!!」
突っ込むまい。
「そんなわけでっ、今日はふりょーになりますっ。さあマミズっ、来てくださいっ!」
「どぅえっ! ちょ、ちょっと……!」
ラレアが眞水を連れて部室の外へと飛び出していった。
……自由だなぁ。
一体何をしでかすつもりなのか。
俺もひとまずラレアを追いかけてみる。
すると――
「――わたしたちはふりょーですっ! なので自販機を占拠しますっ!」
そう言ってラレアが校内自販機の横にしゃがみ込んでいた。
不良=自販機の横でたむろ……。
まぁ確かにコンビニとかの便利な場所にたむろってるイメージはあるな。
「うぅ……なんで私まで……」
眞水も恥ずかしそうに付き合わされている。
ラレアもそうだが、黒セーラーのスカートがいつの間にかスケバンレベルにまで伸ばされていた。
「――よーよーっ、そこの道ゆくにーちゃんねーちゃんっ! キャッシュレス社会を生きるふりょーの俺らっ! 一昔前と違ってカツアゲが出来なくなったこの悲しみっ! 分からねえだろうなこの苦しみっ! 同情するなら有り金ぜんぶ置いて立ち去ってっ、また稼いだらこの場に顔見せろってっ! いえええええーい!!!」
なんかラップを歌い始めてるな……。
「さあマミズも一緒にせぇーーーーの!」
「どぅえっ!」
「せぇーーーーーーの!!」
「よ、よーよー……そこの道ゆくにーちゃんねーちゃん……」
――きゃー、何あれかわいー♡
――写真撮っとこ♡
――見城さんって結構ノリいーんだねw
2人の周りには早速人だかりが出来始めていた。
話題の編入生と去年の文化祭ミスコン1位が揃ってそんなことをしてりゃあ、そりゃこうなるわな……。
「おいてめえらぁ、見世モンじゃねーぞこらぁ!」
ラレアがイキッてるものの、率先して見世物になり始めたヤツが言っていい台詞ではないな……可愛すぎて威嚇性能もゼロだし。
――なあ、あの2人にアレやらせたのって矢野らしいな。
――す、すげえ。矢野は俺たち凡人男子に特殊シチュエーションを見せてくれる神様ってことだな!
矢野様ありがとうございます、と自販機を囲ってる大勢の男子が俺を拝み始めていた。
なんだこれ……俺なんもしてないんだが……。
「よーよーっ、そこの道ゆくにーちゃんねーちゃんっ! 今日あちーからよー、きちんとよー、つめたい飲み物飲めよなチェケラ!」
とりあえずひとつ言えることがあるとすれば――カオスであった……。
◇
「――今日は楽しかったですねっ!」
夕暮れ。
完全下校時刻を迎えたので、俺たちは帰路につき始めている。
ご機嫌なラレアをよそに、眞水はメンタルに大ダメージを負ったのかしなびていた。
まぁ正気が削られそうな世界観に触れたら仕方ないな……。
そんな眞水をねぎらいながら家に送り届け、俺たちはやがて自宅に到着。
「ふぅ、やはりアオハルなことをすると気分そーかいですねっ。ですがマミズには悪いことをしたような気がします」
台所で麦茶を飲みながらそう語るラレア。
ちょっと気を落として見える。
一応フォローしておくか。
「別に気にしなくていいぞ。あいつ人前に出るのは嫌いじゃないからな。ミスコン出てるくらいだし。単純に新たなノリへの適応がまだ出来てないってだけさ」
「……そーなんですかね?」
「ああ。本当にイヤなら最後まで付き合わずに途中で帰ってるって話だ」
最後まで付き合った時点で、悪くない、って判断だったに違いない。
「だからこれからも遠慮せず付き合わせてやればいいさ」
「うぃっ。でも一応謝罪のLINEは送っておきますっ」
とのことで。
多分このあと、ラレアと眞水の仲はひとつ深まるんだろうな。
それもきっと、アオハルの一部に違いなかった。
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