第11話 その手があったか
「――アオハル部っ、人柱ぼしゅー中ですっ!」
そこはかとなく物騒な呼びかけを行うラレアの隣で、俺は額の汗をぬぐっている。
翌日の昼休みである。
まだ5月の半ばだっつーのにクソあっちぃ外(中庭)に顔を出して、俺とラレアとおまけに眞水も一緒にアオハル部の4人目を募集しているわけだが――
――ラレアちゃんと
――俺も俺も!
――バスケ部やめるわw
とまぁ、案の定な現象が起こっている。
危惧していたこととも言えるが――、
――男子しか寄ってこない。
別に4人目のメンバーは男子でも構わんっちゃ構わんが、今こうして寄ってくる連中は全員が全員、下心丸出し。
……アオハル部はラレアが楽しくアオハルするための部活だ。
そういう連中はお断りである。
「はいはい、変態どもは消えなさい。用無しよ」
眞水が冷たい態度でそういった連中を追い払っているが、「うひょおおー!」「あの氷の表情がたまんねえええええ!」とむしろ興奮させてしまっている……。
それに混じってイガグリが「見城さあああん! 僕のことも罵ってえええん!」とルパンダイブを敢行してきた結果、眞水のカウンター(回し蹴り)が炸裂したりしてもうカオス。
結局のところ、昼休み中に4人目を見つけることは出来なかった。
変なヤツを入れて微妙な空気になる可能性も考えると、正直3人で活動したい気持ちが俺にはある。
でもラレアはどうだろう、と思って尋ねてみると――
「わたしもおにいちゃんとマミズだけで活動出来るならそれがいいと思いますっ」
とのことで。
なら尚のこと、今はまず3人でもいいのかもしれない。
でも部の申請は4人からなわけで。
ううむ……どうしたもんか。
そんな迷いを背負いつつ、やがて迎えた放課後のことだった――
「――あ、矢野くん。ちょっといい?」
帰りのホームルームが終わった直後に、俺は担任の矢岸ミーナ先生(英語担当。金髪のハーフ美人。28歳独身)に手招きされていた。
「はい……何か?」
「ラレアさんと一緒に創部を考えている、って聞いたの。お昼に人集めをしていたのは、4人に満たないからで合ってる?」
「あ、はい、そうです……3人しか居ませんけど、特例で申請出来たりしませんかね?」
「出来るっちゃ出来るよ。それを一応伝えておこうかなって思って」
お?
「――Hayミスミーナ! 今の話もっと果てしなく!!」
ラレアも食い付いてきた。
詳しく、じゃなくて、果てしなく。
まぁ、そんなに間違いでもないか。
「今の言い方ですとっ、3人でもカワイイは作れるという風に聞こえましたがっ!」
カワイイを作ってどうすんだ。
「あのねラレアさん、3人だと部は作れないけど、同好会の設立は可能なの」
あぁ同好会。
その手があったか。
扱いとしては部活未満で、予算がそんなに出ないらしい。
でも部屋は貰えるから、そこまで悪くもない、って話を聞いたことがある。
「ほー、どーこーかい。そういうのもあるのか」
なんで某孤独のおっさんっぽい反応なんだ……。
「ではミスミーナ、現状わたしとおにいちゃんとマミズの3人が居ますので、わたしによるどーこーかいのしんせーは通るということですね?」
「そう、通るよ」
「ならばミスミーナっ――わたしは今すぐどーこーかいのしんせーをしますので受け付けていただけますでしょうかっ?」
「いいけど、顧問のアテは見つけてる?」
「み、ミスミーナ……いきなりえっちな単語はちょっと……」
「ちょっ、顧問だからねっ!? 後ろの穴じゃないよ!?」
……ラレアはまだリスニングが甘い部分もあるんだな。
それはそうと、顧問か。
同好会とはいえ、やっぱり教師の目は必要らしい。
となると……、
「ミーナ先生は無理なんですか?」
「あたし?」
「はい」
俺が頷くと、ミーナ先生はうーんと考え込むように唸って、
「一応どこの顧問でもないから手は空いてるんだけど……仕事増えちゃうのがなぁ」
「別に名義を借りるだけでもいいんですけど」
「それで矢野くんたちに何かあったらあたしの責任だし、名義貸すのも楽じゃないわけよ」
……そりゃそうだよな。
「まぁでも、去年から期末で1位を獲り続けてる矢野くんが居るなら別にいっかなぁ」
むむ……なんで急に俺の成績を持ち出したんだ?
「(矢野くんこのままなら超一流大学に行けるだろうし、今のうちに顧問として仲良くなって唾付けとけば……ぐへへ……w)」
「ミーナ先生、何か言いました?」
「えっ。な、なんでもないよ~」
美人ハーフ教師は「あはは~」とわざとらしく笑っている。
むぅ……?
「そ、それより顧問ならあたしが引き受けてあげる! ラレアさんっ、それを踏まえて書類を今ここで書いてもらってもいい?」
「うぃっ。お任せあれ!」
教卓でさらりと一筆したラレアがミーナ先生に書類を提出した。
「うん、ありがとう。じゃあ今日これを受理して、明日には文化部棟に部屋を用意しておくから楽しみにしておいてね?」
「ありがとうございますミスミーナ! ――みなしゃんっ、わたしは無事にアオハルどーこーかいを作り上げることが出来ました! おおきに~!」
おおきに~! と帰り支度中のクラスメイトたちがノリよく応じてくれる。
互いになんの協力関係も結んでないから謎のやり取りではあるものの……まぁ、こういう意味不明なノリで沸き立つのも若さ、なのかもしれないな。
◇
「――おにいちゃんっ、明日が楽しみですねっ」
夜。
怖がりで寂しがりなラレアと同じ布団に寝転がりながら、俺は「そうだな」と頷いた。
「でもアオハル部……暫定同好会だが、実際どういう活動をするんだ?」
「アオハルっぽいことですっ」
やっぱり曖昧だ。
……でもだからこそ、可能性は無限大。
実質なんでもアリな気がするし、ラレアのやりたいようにやらせてみるか。
「ま、楽しくやろう」
「うぃっ。そんなわけで今夜は明日に備えてきっちり寝なきゃダメですよっ、おにいちゃん!」
――むぎゅ。
と、俺を抱き枕か何かのように抱き締めて、ラレアはその1分後にはスヤスヤと寝息を立て始めていた。
この同衾にもようやく慣れて、俺も最近は穏やかに眠れるようになってきた。
可愛い義妹が明日から何をやらかしてくれるのか……不安はあれど楽しみにしながら、今宵はひとまず夢の世界を満喫しておこうと思う。
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