第4話 ねんね

「――おにいちゃんっ、お風呂気持ち良かったですっ」


 食後。

 皿洗いをしていた俺のもとに、お風呂上がりのラレアが顔を見せにやってきた。


 濡れた銀髪にタオルを乗せて、その身に纏うのはキャミソールとホットパンツ。


(……ちょっとえっちくない?)


 改めて言うまでもなく、ラレアはスタイルが良い。

 手足が長いだけじゃなくて、女性としての部位もそれなりに豊満。

 見てはいけないと分かっていても、キャミソールの胸元に視線が吸い込まれてしまう。


(――いやダメだダメだっ)


 兄として、俺はすんでのところでグッと視線を引き上げた。

 良からぬ考えは捨てる。

 義理とはいえ妹なんだから、そういう目では見ないぞ……。


 そんな決意と共に俺もやがて風呂に入り、今日はもう寝るだけとなった。

 ガス栓と戸締まりを確認して、自室に向かう。

 折り畳んでいた布団を展開し、常夜灯は点けずに寝転がった。


(ふぅ……)


 ラレアと出会ってからの新生活、その1日目が終わろうとしている。

 まだ半日も経っちゃいないのに、色濃いと思える時間だったな……。


「あの――おにいちゃん」


 そんな折、ふすまがそっと開いてラレアが顔を覗かせてきたことに気付く。

 ……ん?


「おにいちゃん、まだ起きてますか?」

「ああ……起きてるけどどうした?」

「実はですね、お願いがあり申すの心です」


 間違って覚えている感じの言い回しを披露しながら、ラレアが俺の布団にゆっくりと踏み込んできて――


「お、おいっ……!」


 こともあろうに、モゾモゾと寝転がってきたのである。

 途端にふわりと広がる良い匂い。

 俺と同じボディーソープとシャンプーを使っているはずなのに、ラレアから香る匂いは一段とフレグランスで、俺の照れを加速させるには充分過ぎる材料だった。


「な、何やってんだよ……っ」

「あのですね、実はわたし、1人だと寝られないんですっ」

「!?」

「さびしんぼで、暗いのが怖い怖いなのでママと寝るのがニッカポッカでしたっ」

「そ、それ多分ポッカ要らない……」


 ポッカが付くと鳶職の幅広ズボンになっちゃうからな。


「つーかちょっと待ってくれ……だからって俺とラレアが一緒に寝るのはマズいんだって……」

「え……どうしてですか?」

「ど、どうしてって……分かるだろ……?」

「わかんないですっ」


 む、無知なのかこの子……?

 ひょっとしたら……パイオツカイデーのお袋さんが純粋培養したのかもしれないな……。

 

「うぅ……いっしょにねんねしたらダメですか?」


 うるうる、と夜目が利く暗闇の中でラレアの碧眼が上目遣いに涙ぐんでいる。

 うぐ……その目は卑怯だろ。

 拒めなくなる……。


「ダメ、ですか……?」


 もう一度問われて、俺は悩む。

 悩みに悩んで……、


「くっ……じゃあアレだぞ? ま、マジで一緒に寝るだけ、だからな……?」


 と告げた。


 いやそりゃさぁ……拒否出来るわけないじゃん。

 異国の地に1人でやってきて、やっぱり心細い部分もあるんだろうし……。

 それを思えば……一緒に寝るくらいはしてやってもいいかと考えた。


「……ありがとうございます、おにいちゃん」


 就寝間際ゆえにだろうか、紡ぐ言葉は静かだった。


 照れ臭くて、俺は寝返りを打って背を向ける。

 すると、そんな俺の身体に腕が回され、ぎゅっと抱きつかれてしまう……。


「えへへ、おにいちゃんあったかいです……心も、身体も♪」


 くぅ……耐えろ俺……。

 耐えるんだ……。


 加速し続ける照れ臭さ。

 良からぬ情念さえも湧き上がりそうになる中で、俺はグッと辛抱。

 寝るまで結構時間が掛かりつつも、こうしてなんとか無事に……同居1日目を終了したのである。






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