第22話 呪文(11/22の分)

「ヘイ、テレビを付けてくれ」

 香坂が呼び掛けると、かしこまりましたと音声入力AIは律儀に返事をしてパッと画面が明るくなる。生首になる前は良さがわからなかったが、動けない身となってからは便利さを痛いほど痛感している。それに、呪文を唱えて魔法を使っているようで楽しいのも事実だった。

「すっかり使いこなしてるねぇ」

 背後でにやにやと笑うヒロコの気配に、少しだけ恥ずかしくなる。留守番用にと使い方を教えて貰った時、機械に話しかけるなんてと躊躇って小声になってしまい、何度も聞き返されるハメになったのだ。

 何度か一緒に留守番をして使い方を覚えた今、意味もなく今日の天気を尋ねたり雑学を聞いたり、良い話し相手にすらなっている。

「助かってるよ、一人でも暇にならなくて」

 そう言えば、と香坂は思い出す。

「ヒロコくんは一人暮らしだろ? 寂しい時とか、AIに話しかけたりしなかったの?」

 思いがけない質問だったのか、少し考えた後で照れ笑いを浮かべる。

「それこそ、千鷲さんやテンシさんたちと飲んだりしてたから寂しくはなかったかなぁ。テンシさんがムードメーカーだったから、居なくなってから飲み会も減っちゃったけど」

 千鷲が来た際に、音信不通だと答えていたのを思い出して香坂は申し訳ない気持ちになる。

「そんな顔しないでよ。あの人が連絡もせずに姿を消すのなんて、良くあることなんだから」

 そのうち帰って来るって、と返すヒロコの表情を見る気にはなれなかった。

「こういう時、AIが教えてくれれば良いんだけどな」

「そうだね。そしたら、おじさんが元に戻る方法だってすぐにわかるのに」

 二人の会話を聞き取ったAIは、聞き取れませんでした、とだけそっけなく返事をした。

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