第23話 代行者〜射手座〜

「さてさて、誰に頼もうか」


先程王に言われたことを思い出す。少し気分が晴れないので気分転換のつもりで美しい景色を見ようと天界五大景の一つ天葉に訪れた。


この天葉には天界にしかない美しい花が咲いている。


トクソテスはこの花が好きでよくここに訪れる。何も考えずただボーッと花を眺めていると「トクソテス様」と声をかけられた。


「ああ、君達か。久しぶりだね」


一度だけ一緒にお茶をした女神達が後ろにいた。


「はい、お久しぶりです。トクソテス様。あの、よろしければ一緒にお茶でもしませんか」


女神が顔を赤らめ恥ずかしそうに誘う。


「もちろんだよ。君達の様な美しい女神達ともう一度ご一緒できるなんて光栄だよ」


女神達の腰に手を添えエスコートする。


「ありがとうございます。トクソテス様」


女神達にとって黄道十二神の神にエスコートしてもらえるのは光栄なこと。


「気にしないで。偶然でも会えて嬉しいよ」


トクソテスがそう言うと女神達は気まずそうに目を逸らす。女神達はトクソテスと偶然会えたのではなく狙って会いに来たのだ。


トクソテスがよく天葉に訪れることが女神達の間では有名なこと。だから、ここに来れば会えるという仕組み。


ただ必ず会えるというわけでもない。天葉はとてつもなく広いし、トクソテスも毎回違う場所にいる。女神達の取り合いもよく起こる。


簡単にいうと早いもの勝ち。


「ええ。本当に運が良かったです」


他の女神達より早く見つけられたことを喜ぶ女神。


「そうだね。じゃあ、行こうか」


自分を女神達が取り合っていることは知っている。


指を鳴らして天葉からでて知り合いがやっている店に移動する。


「ここは?」


「俺のお気にりの店だよ。ここは紅茶とケーキが最高に美味しいんだよ」


「そうなんですね」


トクソテスのお気に入りの店に連れてきてもらえて喜ぶ女神達。


「俺のオススメでいい?」


「はい。それでお願いします」


「じゃあ、頼んでくるから少し待ってて」


そう言って女神達を席に座らせ頼みにいく。


「マーリー。久しぶり。元気にしてた?」


この店を切り盛りする下級神に声をかける。


「はい。トクソテス様の方こそ元気ですか?」


いつもと少し様子が違うと感じるマーリー。


「うん。元気だよ。いつもの四つお願いね」


「かしこまりました」


そう言って準備する。


「あっ、マーリー。紙とペンある?」


「そこにあります」


紅茶の準備をしていたので指を差して場所を教える。


「ありがとう」


紙とペンを取り自分に仕える下級神ナキエに指示を書いた手紙を送る。


その手紙を近くにいた鳥に頼んでナキエのところまで送ってもらう。


「助かったよ。マーリー」


ペンを元の場所に戻し女神達の所に戻る。


「お待たせしました」


トクソテス達の席に紅茶とケーキを置いていく。この紅茶とケーキは天葉に咲く唯一の花で作られている。


この店のみだけ花を使用する許可がでている。


「すごくいい香り」


うっとりした顔で香りを嗅ぐ女神。


「美味しい」


一神の女神がそう言うと他の女神達も紅茶とケーキに手をつけ「美味しい」と呟く。


「だよね。俺好きなんだよね」


甘い蜜に蝶々達が引き寄せられるような魅力的な笑みを浮かべる。




「ナキエ様。トクソテス様からこちらを預かって参りました」


手紙をナキエに手渡す鳥。


「トクソテス様から?」


手紙なんて珍しい、いつもなら呼びだすのにと不思議に思うもすぐに女神達と一緒にいるからかと推測する。


「ありがとう」


鳥の頭を撫でる。


ナキエが手をのけると鳥はどこかへと飛んでいく。


『ナキエ悪いんだけど今すぐ取り掛かってほしい案件がある。人類中から俺に似た人間を見つけてきて欲しい。なるべく早く見つけてきてくれるとありがたい。頼んだよ』


封を開けると神に書かれていた内容をトクソテスの残像が現れ話す。全て話すと紙は燃えて塵となって消えた。


「はぁー」


呆れて何も考えられず深くため息をつく。


「(とうとう、人間にまで手を出すつもりなのかと。いや、でもそしたら美しい子を捜せと命じるのでは?いやでも、あのトクソテス様だし。普通に人間に手を出しそうで怖い)」


トクソテスは牡牛座のタウロス、獅子座のレオンの二神と三名景といわれている。


三名景とは天界で最も女遊びが激しいく他の神々の追随を許さない神のことを指す。


その中でもトクソテスは最も女遊びが激しいことで有名だ。


それはトクソテスの神力故なのか、それとも性格が関係してそういう神力になっのかわからないが二神以上に酷く人間に手を出そうとしても何らおかしくないと思うナキエ。


だが、もしそうなったら非常にまずい状況になると想像が容易にできた。


これ以上考えると頭がおかしくなる。まだ、起きてもない状況に慌てても仕方ない。なったらなったでその時考えればいい。


それに、ナキエはトクソテスに仕える下級神。命令に背くことはできない。例え嫌なことでもやるしかない。


「仕方ない。こうなったらトクソテス様に似た人間をなんとしてでも見つけてやる」


トクソテスに似た人間なら最悪なんとかなると判断したナキエ。


だから大丈夫だと自分に言い聞かせる。



七日後。


あれから、トクソテスに似た人間を捜すも全然見つからない。一人くらい見つかってもいいのに誰一人トクソテスに似ていない。


女遊びや男遊びが激しい人間はたくさんいるが根本的な、ところが全く似ていない。


そもそも神と人間が似るなんてあり得ない。どうしたら見つかるのかわからず、発狂したくなる。


トクソテスの指示にはなるべく早く見つけて欲しいとあった。そのせいで、余計に焦って冷静な判断ができなくなっていくナキエ。


条件を緩くしてもう一度捜そうと神力を使う。


そうして、さらに七日が経ち漸くそれらしい人間を一人見つけることができた。


これ以上捜しても見つかることはないだろうと判断し、その人間の情報を集めまとめていく。

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