第22話 代行者〜蠍座〜



「あの、俺は何をすれば」


漸く落ち着いたイチイがスコルピオに尋ねる。


スコルピオは「俺のために戦え」と言うだけで具体的な説明は何もしなかった。


イチイは誰と戦えばいいか何と戦うのか何をすればいいかわからなかった。


だから尋ねたのに「お前と同じ他の代行者を殺せばいい。お前には簡単だろ」と答えているようで答えになってないことを言う。


スコルピオはイチイの過去を知っているし、たった六日間だけど観察していたので、イチイが簡単に人を殺せることを知っていた。


イチイを代行者に選んだ最大の理由はそこだった。他の候補者達も人を殺していたがイチイほどではなかった。


「(いや、そういうことじゃねーよ。人に頼むんならちゃんと説明しやがれ)」


化け物の返答に殺意が湧くイチイ。こいつが自分の部下だったら容赦なく殺してやるのにと想像するも実際にはやらない。


やったら最期。確実に殺される。


化け物を殺す方法がわかるまでは従順でいようとする。


「そういうことなら、確かに俺が適任だな。誰を殺せば」


化け物からの詳しい説明は諦め、殺す相手だけを教えてもらおうと考える。


「しらん」


「…は?」


スコルピオが放った言葉につい声がでた。


「(はあ?ふざけんな。このクソ化け物が!しらんだと。ならどうやってそいつらを殺せと。そこら中にいる人間片っ端から殺せばいいのか?このクソヤロー)」


化け物に向かってそう叫びたいが何とか我慢する。


「では、どうしたらよろしいでしょうか」


苛立ちを抑えるあまり敬語になり、引きつりながらも笑顔を作るイチイ。


「それを考えるのはお前の役目だ。俺の仕事ではない」


それくらい自分で考えろと訴えるスコルピオ。


「(うん。やっぱり殺そう)」


ある意味似たもの同士の一神と一人。





「(アスター。代行者が決まった。降りてこい)」


さっきまでギャーギャーと喚き散らしていたイチイが静かになったので、今のうちにとアスターに呼びかける。


「お呼びでしょうか、スコルピオ様」


天界から降りて挨拶をするアスター。


イチイはいきなり現れたアスターを見てなんて美しい存在だ。自分のものにしたい。


一瞬でアスターに魅入らされた。


アスターの容姿が今まで見てきた何よりも美しかった。アスターは下級神であるが容姿は上級神にもひけをとらない。


黄道十二神は別格。


「そいつが、俺の代行者だ」


顎でイチイをさす。


「初めまして。私はアスターと申します。以後お見知りおきを」


イチイに頭を下げ挨拶する。


「俺は鬼童イチイだ。よろしく」


近くで見たらアスターの美しさに感動するイチイ。見た目では男か女かはわからない。


でも、イチイには関係なかった。もうアスターを自分のものにすることしか頭になかった。今いる女全て捨てでも手に入れたいと願う。


アスターと話しをしたいが何を話せばいいかわからず固まる。


イチイが話しかけるのに戸惑っているとアスターはスコルピオの方に近づいていく。


「待って…聞きたいことが」


アスターの腕を掴みスコルピオに近づくのを阻む。何とか話しかけられたがここからどうすればと悩んでいると一つだけ質問することがあったことを思い出す。


「何でしょうか」


「代行者って何をすればいいんだ」


スコルピオが何も説明しなかったことを今は心の底から感謝する。


「…スコルピオ様。まさか、何も説明されてないのですか」


イチイの質問にまさかそんなことはと思いつつもスコルピオに尋ねる。


「別に問題ねぇだろ」


そう言うスコルピオに開いた口が塞がないアスター。


何の説明も無しにこの戦いに参加させるのは流石に可哀想だと思いスコルピオの代わりに説明する。


ことの始まりから今に至るまでのことを話し、これから何が起きるのかイチイは何をしないといけないのかを説明する。


「…となります。何か質問はございますか」


アスターの説明はとても丁寧でわかりやすい。


おかげでイチイは自分のやるべきことが何なのかはっきりした。


「とてもわかりやすかった。お陰様で助かったよ」


いつも女を落とす時にする笑みを貼り付ける。


「それはよかったです」


「だけど、一つだけわからないことがある」


「何でしょうか」


アスターは自分の説明が悪かったのかと心配する。


「神ってのは尊く美しい存在だと思っていたんだが、実際は化け物なのか」


「ああ?」


アスターが答える前にドスの効いた声を上げる。イチイの化け物という言葉に反応して。


最初に現れたときは仕方ないと許したが、今のは違うと怒りを爆発させる。


スコルピオにとって化け物という単語は地雷の一つ。


「おやめください。スコルピオ様」


イチイを殺そうとするスコルピオを必死に止めるアスター。


「邪魔だ。どけ」


神力でアスターを吹っ飛ばす。


「スコルピオ様。イチイ様を殺しては駄目です。もし、殺してしまえばスコルピオ様も死んでしまいます」


今まさに神力を放ちイチイを殺そうとしていた手がアスターの言葉で止まる。


「どいうことだ」


「スコルピオ様。神と代行者は一心同体。どちらかが死ねば必ずもう一方も死ぬ。そうルールに記載されてます。スコルピオ様は私にイチイ様を代行者として紹介しました。その時点でスコルピオ様とイチイ様は同じ卓に乗っているのです」


スコルピオの神力で口から血が流れるが、今は拭う余裕もなく必死で説得する。


アスターの説得で何とか神力を纏うのを辞めたが、スコルピオとイチイはアナテマが始まる前から最悪な状態になった。


「それとこちらをご覧ください」


神力を使い全身鏡をだすアスター。


アスターに言われるがまま鏡を見る。鏡に映った今の自分の姿をみて言葉を失うスコルピオ。


「スコルピオ様を含む十二神の神々は人間界におりますと皆様その様な姿にされてます」


スコルピオが静かな間に説明をする。ある意味何も言わない今の方が恐いと感じるアスター。


「いつまでこの姿だ」


静かにそう尋ねるスコルピオに体の震えが止まらないアスター。


「それは、わかりません。王曰く、己の罪を認め反省したら元に戻るとおっしゃっていました。なので、スコルピオ様次第かと」


スコルピオに睨みつけられながら早口で言う。


「罪を認め反省したら…か」


そう呟くと壊れたように笑い出す。





「スコルピオ様。今からイチイ様の体に代行者としての証を刻んでいただきます」


スコルピオが落ち着いたのをみてそう声をかける。


「証か。どこでもいいのか」


「はい。問題ありません」


アスターがそう答えるとイチイの首の後ろを掴み神力を注いでいく。いきなり、首を掴まれて驚いたイチイは必死に抵抗するが「動くな」と殺気を込められ動けなくなる。


「これでいいのか」


首の後ろに入った紋章を見せる。


「はい。大丈夫です。では、私はこれで失礼します」


急いで天界に戻ろうとするアスターに「あっ」と手を伸ばすも気づかれることなく消えた。


しばらくアスターのいたとろをジーッと眺めているイチイに「(こいつ。まさか…)」と一瞬頭に変な考えが浮かぶも、ありえないと否定し考えるのをやめる。



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