第24話 代行者〜射手座〜

「トクソテス様。ナキエです」


扉を叩き声をかける。


「入っていいよ」


トクソテスの許可何でたので部屋に入るナキエ。


部屋に入ってすぐいつもと変わらない光景が目に入る。いや、いつもよりマシな光景が目に入る。


「トクソテス様」


女神達の甘ったるい声がナキエの耳に入る。


ナキエが見た感じ今回はなな神の女神達しかいない。酷い時は部屋いっぱいになるくらいいるし、女神だけじゃなく天使にも手をだす時がある。


というか、人間以外の種族には全て手を出している。


「どうかした?」


女神達がトクソテスに抱きつき体中にキスを落としているのも意に返さずに尋ねる。


「言われていたものを見つけました」


もし、女神達の前で人物をさす言葉を言えば怒りを買うので気を遣って遠回しに言う。


「ごめん。何か頼んだっけ?」


二十一日前に王から言われたことをすっかり忘れていたトクソテス。そのため、詳しく話して欲しいと言う。


「(嘘でしょ。トクソテス様。私にここで言えと)」


トクソテスの指示に絶望する。


「ちょっと貴方、トクソテス様が待ってるでしょう。早く言いなさい」


「貴方如きがトクソテス様の時間を奪っていいと思っているの」


中々話そうとしないナキエに苛立ちトクソテスに見えないよう睨みつける。


女神達のナキエに接する態度に一瞬感情が消え真顔になるトクソテス。


トクソテスの変化にいち早く気づいたナキエは「王の命令でトクソテス様に似合う人間を見つけました」と報告する。


ナキエの報告に女神達は一瞬何を言っているか理解できなかったが理解した瞬間顔を真っ赤にしてナキエに襲いかかろとする。


パチン。


ナキエを自分の後ろに移動させる。


「あーそうだった。思い出したよ」


王に言われたことを思い出す。


「トクソテス様」


女神達はトクソテスに抱きつき自分達と楽しいことをしようと誘う。


「俺も君達と楽しみたいけど、今回は諦めて帰ってくれ。王の命令には逆らえない。わかるよね」


王の命令は絶対。それに逆らう神は神ではない。トクソテスは遠回しに女神達に警告する。


「エキナ。見せてくれ」


女神達が部屋から出ていくと誰を選んだか報告しろと指示する。


エキナは水晶に手を置き神力を注いで一人の人間を映し出した。そして、その人間に関わる情報を全てトクソテスの頭の中に流し込む。


「流石エキナ。君に任せて正解だったよ」


トクソテスがそう言うとエキナは頭を下げた後部屋から出ていく。


トクソテスはエキナが選んだ人間を一目見て気に入った。


勘だがこの人間なら自分の力を上手く使えるだろうと感じた。


自分の代行者が決まったので、早く了承を得て戦いが始まるまで天界でゆっくり過ごそうと考える。


パチン。


人間界に降りてきたのはいいが男が今どこにいるか確認せずにきたので、男に会うまで町を散策する。


トクソテスの姿は普通の人間には見えないので問題ない。


町の中を散策して三時間たった頃、遠くからこちらに向かって歩いてくる男が自分が捜していた人間だと気づく。


パチン。


一瞬で男の前に移動する。


男は急に現れた何かにぶつかり鼻を押さえてぶつかった何かが何なのか確認しようと顔を上げる。


トクソテスは男とぶつかり鼻を痛そうに押さえる男に距離間を間違えたと少し反省する。


「ば」


「(ば?)」


「ばけものー」


ぶつかった何かがわかった瞬間そう叫びながら全力疾走でその場から逃げる。


予想外の出来事にトクソテスは暫くその場から動けなかった。それは、予想していた男の反応があまりにも違いすぎていたため。


ぶっちゃけると神の自分が現れれば喜んでその身を捧げてくれると思っていた。


現実は現れた瞬間化け物と叫ばれ、声をかける暇もなく逃げられた。


トクソテスはまさか人間に神である自分の存在を否定されるとは思わず戸惑ってしまう。


「化け物か」


念のためため自分の姿を確認しようと神力を使って全身鏡をだす。


「うん。化け物だな、これは」


自分の姿を確認した瞬間男が言った通り化け物だと認める。


この姿でどうやって神だと信じられる?


どうやって説得すればいい?


「まぁ、なるようになるか」


今更何か考えても上手くいかないかもしれない。それなら、流れに身を任せた方が楽だと思い男の元へ移動する。




「さっきのは何だったんだ」


全力疾走で家まで帰り疲れた体を休ますようにソファーに寝転がる。


暫くして目を開けると「やぁ」と化け物の顔が鼻と鼻がくっつくぐらい近くにあった。


「おっと、叫ぶ前に俺の話を聞いてくれるかい」


男が口を開こうとするとその前に手で押さえつける。


男はあまりの速さに一瞬何が起きたかわからなかった。もし、逆らったら殺されるかもしれないと思い必死に頷く。


「いい子だね」


男の口から手を離し頭を撫でるトクソテス。女神達によくやる癖がでてしまう。


トクソテスは男の隣に座る。


男はトクソテスに頭を撫でられたことで恐怖とは別の感情が生まれた。


よく人は見た目で他人を判断してはいけないという。男は自分もその意見は正しいと思っていた。


なのに、自分は見た目が醜い化け物だからと勝手に恐怖し逃げ出した。


「(きっとこんな姿で生まれて言葉では表せないくらい悲惨な日々を送ってきたんだ。俺だけはこいつを愛してやろう)」


化け物を哀れな目で見つめる。


「(あれ?何か俺哀れられてる?まぁ、よくわかんないけど利用させてもらおう)」


男の目が恐怖から哀れみに変わったことに一瞬戸惑うも、すぐにその感情を利用しようとする。


「実は君に頼み何あってここにきたんだ」


「頼み?俺でよければ力になるよ」


「本当?それは助かるよ。でも、話しを聞いてから決めてくれ。君の生死に関わることだから」


そう言って男に頼みの内容を話しだす。それがどれほど危険で残酷なことなのかも。


「…ってことだ。俺の代行者になってくれるかい?」


「もちろんだ。俺は君を助けるよ。必ず生き残ろう」


男はトクソテスの手を取り代行者になるという。


ただ、トクソテスは一つだけ言ってないことがある。それは、己が何の罪を犯したか。


男はトクソテスが神なのに醜い姿で酷い扱いを受けていることに腹を立て助けることを決めた。


だが、実際はそんな扱いは受けていないし寧ろトクソテスの方が酷い扱いをしていた。お互い納得しているとはいえ女神達はトクソテスの寵愛を望んでいる。


わかった上で関係を続けているので酷い扱いをしているともいえる。


まぁ、トクソテス自身は己の罪を自覚していないので男に言えなかった。




「(アスター代行者が決まった)」


神力を使ってアスターに呼びかける。


「お呼びでしょうか。トクソテス様」


「うん。あの子が俺の代行者」


男にこっちにおいでと手招きする。


「初めまして。私はアスターと申します。以後お見知りおきを」


頭を下げ名を名乗る。


「俺はアネモネです。よろしくお願いします」


慌てて頭を下げて名を名乗る。美しい人だと見惚れてしまうアネモネ。


「では、これからアネモネ様の体に代行者としての証を刻んでもらいます」


「証を刻む?」


アネモネがアスターの言葉を繰り返すように呟く。


「はい。その証がないと代行者として認められずアナテマには参加できません」


「どこでもいいのか」


トクソテスが男の右肩に手を置く。


「はい。大丈夫です」


アスターがそう答えると手に神力を集め右肩に射手座の紋章を入れる。


「これでいいのか」


「はい、問題ありません。トクソテス様、これより天界には戻れませんのでご注意下さい。では、私はこれで失礼します」


トクソテスなら天界に戻ろうとすると思い先に忠告する。


「えー、本当に?」


アスターが天界に帰り自分も帰ろうと試すが何度やっても戻ることはできない。


「これからよろしくね」


仕方ないと諦めアネモネと過ごすことに決めた。


「こちらこそよろしく」

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