第五十三話 再会

 2人は魔闘技を使うと、剣を構えて走り出す。

 だが――


限界突破オーバーロード常時回復オートリカバリー


 レイは2人が会話をしている最中に詠唱を済ませ、いつでも発動できる状態にしてあった限界突破オーバーロード常時回復オートリカバリーを発動させると、右手で片手剣を横なぎに振って2人を横なぎに斬り払う。


「ぐっ!」


「何だと!?」


 2人は咄嗟に受け身の体勢を取りながら、その勢いで後方に跳ぶ。

 そこに、レイは小さく詠唱を唱えながら追撃を仕掛ける。


「魔力よ――」


「ぐっ」


 僅か1歩で距離をつめて来たレイが振り下ろした片手剣を、ザクはすかさず剣で防ぐ――が、勢いで負けてズザザと後ろへ後退する。


「はっ!」


 そこに、ルーカスが右手の片手剣を振り下ろす。

 レイは今、剣を振った直後。今から反対にいる俺に斬りかかるなんて、限界突破オーバーロードによる身体強化を加味しても無理だ。

 そんな確信がルーカスにはあった。

 だが、その確信は直ぐに打ち破られることとなる。


「――聖光線ホーリーレイ


 ルーカスに向けられた左手から、極大の光線が放たれ、すぐ目の前にいるルーカスを飲み込まんと襲い掛かった。

 準備されていたのか……!


「!? ぐあああああ!!!!」


 ルーカスは直ぐに魔力を自身の剣に全力で流し込みながら、その場で立膝をつくと、その剣で聖光線ホーリーレイを受ける。ルーカスの剣が、魔力を良く通すミスリル製だからこそ出来た芸当だ。


「はっ!」


 レイはそんなルーカスを一瞥すると、斬りかかってくるザクの剣を右手の片手剣で受ける。


「……よし」


 そして、聖光線ホーリーレイを撃ち切ったレイは即座に、攻撃を受けきり、隙が生まれたルーカスに近づくと、一閃。


「がっ……」


 鮮血が散り、ルーカスの頭と胴が泣き別れとなって地面に崩れ落ちた。

 更に――


「……来たか」


 背後から迫る黒い光。レイはそれをその身に受ける。

 すると、いつものように力が更に強化された。


「よし……」


 レイは再び片手剣を構えると、黒い光を警戒して避けるように後ろへ下がったザクに視線を向ける。


「ふぅ。何とか勝てそうだ」


 もし、限界突破オーバーロード常時回復オートリカバリーを発動する前に攻められていたら、負けていた可能性も多少はあった。

 レイはそのことにゾッとしつつも、そうならなかったことに安堵の表情を浮かべる。

 一方ザクの心情は最悪に近い状態だった。


(くっ 聞いてはいたが、まさかこれほど強いとは……Aランクのルーカスが殺られた今、Bランクの俺に勝ち目はないか……)


 もはやこの戦況は絶望的。加勢に来られそうな人がいないか探すも、皆目の前の敵で手いっぱいのようだった。だが、徐々に押してはいるようで、このままなら恐らくこの盗賊団は――滅ぼせる。

 ザクはそのことにどこか複雑な感情を浮かべると、レイをまっすぐと見据え、口を開いた。


「……俺は死ぬだろうな。だが、諦める訳にはいかない!」


 ザクは闘気を漲らせ、魔力で自身を全力で強化すると、大地を割らんばかりの気概で地を蹴り、レイに斬りかかる。

 人生で最高の一振り。

 だが――


 パキン……


 レイの一閃で呆気なく折られてしまった。そして、そこにレイの追撃の一閃。


「がはっ」


 ザクの胸がざっくりと斬られ、鮮血が舞った。だが、それでもザクは戦意を衰えさせること無くレイに斬りかかる。


「!? 凄いな」


 レイはその剣を後ろに跳んで躱すと、目を見開きながらザクに心からの称賛を送る。

 だが、それで戦況が変わることは無く、再びレイの右腕が振られ――


「がっ……」


 ザクの首を斬り落とすのであった。


「……あ、ノイズは!?」


 少しぼーっとしていたレイは、はっとなると、ノイズがいるであろう方向に視線を向ける。

 すると、そこには地面に仰向けで倒れるグルドンに首に、満身創痍となったノイズが片手剣を突き刺している光景があった。


「はぁ はぁ……頭がいなければ、負けていたかもしれませんね……」


 ノイズはそう言うと共に、バタリと仰向けになって倒れる。


「やばっ」


 レイは急いでノイズの下へ駆け寄ると、大回復グレートヒールを使ってノイズの傷を癒す。


「ああ、ありがとう。そっちも終わったようですね」


 ノイズは疲れた様子で立ち上がると、優し気な顔でそう言う。大回復グレートヒールで傷は癒えても、体力までは流石に回復しないのだ。


「で、そっちは――ヤバいな」


 バラック率いる他の仲間が戦っている方に視線を向けたノイズは悪態をつくようにそう言う。そして、そんなノイズの言葉にレイも同意するように頷いた。

 別の所では、11人の襲撃者と、30人近くの”黒の支配者”の面々が戦っていた。だが、いくらルイの強化があるとは言え、それで覆せるほど甘くはなく、上級魔法の連発でどんどん押されていた。1人2人と倒れている仲間もいる。一方襲撃者の方は多少の消耗はあるものの、これと言った問題はなく、しっかりと戦っている。

 すると、ふとレイの頭の中に、このままでは危ない。逃げるなら今しかないと囁くような声が聞こえて来た。

 だが、レイはそれを無意識に払いのけると、気づかれていないうちに詠唱を紡ぐ。


「――光輪月の舞踊ムーン・ワルツ


 そして、数多の月型の光がレイの頭上に現れ、背後から襲撃者たちを襲う。


「はあっ! ……な、マズい、後ろ!」


 正面にいる盗賊たちとの戦いに気を取られていたことで、反応がかなり遅れつつも、何とか1人が気づいて皆に呼びかける。

 そして、その言葉に呼応するように全員背後をチラリと見て、一気にマズいという顔になる。

 正面の盗賊――特にバラックを警戒しつつ対処しながら、後ろから迫る光輪月の舞踊ムーン・ワルツに対処するのは、流石にキツ過ぎる。

 そうしてどうすればいいのかと思案している内に、不規則な動きで飛ぶ月形の光が襲撃者たちを襲った。


「くっ ぐう!」


「くっ」


「はああ!!」


風圧壁ウインドウォール!」


 だが、流石は高ランク冒険者と言うべきか、何とか致命傷は回避する。だが、全員無傷とはいかず、そこそこの傷を負ってしまった。

 そこに、レイとノイズが突撃する。


「はあっ!」


「はっ!」


 まず初めに限界突破オーバーロードによって身体能力がかなり上がっているレイが近づき、剣を振る。


「魔力よ。地獄の炎となれ。獄炎球ヘルフレアボール!」


 だが、襲撃者の1人が短縮詠唱で上級火属性魔法、獄炎球ヘルフレアボールを放ったことで、レイは即座に攻撃を止めると、後ろへ下がりながらその身体能力を生かして華麗にかわす。


(くっ 何て威力だ)


 かなり詠唱を短縮しているのにも関わらず、その威力は完全詠唱に近いものを感じ、レイは思わず冷や汗を流す。だが、直ぐに冷静になると直ぐに片手剣を構え、魔力を練り、その襲撃者を見据える。

 一方、その襲撃者はちっと舌打ちすると、口を開いた。


「やるな。お前がこの前、少年冒険者を殺した奴だろ? ザクさんは……ちっ 殺したのかよっ」


 その男は遠くで転がるいくつかの死体を見るや否や、強い殺気を露わにしながらそう言う。


「皆はそっちを頼む。この2人は俺がやる――は……」


 その男は他の仲間にそう言うと、レイとノイズに近づき――そしてレイの顔を正面から見据えた途端、まるで時が止まったかのように唖然とする。そして、それはレイも同じだった。レイも、まるで亡霊でもいたかのような目で、その男を見ていた。


(な、何で、どうして? どうして……)


(何故だ。何故お前がここにいるんだ……)


 2人は混乱する。

 ありえないのだ。あり得るはずがないのだ。

 これは違う。似た人だ。

 2人はそう自身に言い聞かせようとするが、何より相手の反応が、それが真実であると雄弁に告げていた。


「レイ――」


「リック――」


 そして、2人は互いの名を呼んだ。

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