第五十一話 盗賊退治へ――

 リック視点


 30分後、どうやら全員集まったようで、ここのギルドマスター、ギルアスさんが話を始めた。


「今回の依頼は知っての通り、リベリアルとスリエを繋ぐ街道に現れた盗賊団の討伐だ。詳しい話は、これからその盗賊団を実際に目撃したAランク冒険者、ルーカスに頼むか。と言う訳で、ルーカス。盗賊団についての情報を、出来る限り皆に伝えてくれ」


「ああ、分かった」


 すると、ギルアスさんの隣に立っていた細身だが引き締まった肉体を持つ銀髪の若い男性――ルーカスが口を開いた。


「その盗賊団の人数はおよそ20人前後。弓術師、魔法師、戦士と隙無く手札をそろえており、一人一人の強さは平均Cランク冒険者クラス。だが、Aランク冒険者クラスの実力者が最低2人いることが確認できた。1人は純粋な剣士、もう1人は片手剣を補助として使いつつ、メインは光属性魔法を使う魔剣士であることが分かった。だが、他にも手札はあるかもだから、これだけだとは思わないでくれ。では、これで話は終わりだ」


 ルーカスさんの言葉を聞いた俺たちは、考え込むような仕草を取る。無論俺もだ。

 てっきり1人2人の強者がいるから強いのかと思っていたが、それではまるで個ではなく、群としても強いというふうに思えてならない。こりゃ警戒する必要がありそうだな。今までの盗賊団みたいに、統率のへったくれもない集団……という考えは改めるべきだろう。

 すると、ギルアスさんが口を開く。


「で、その盗賊団の拠点と思わしき場所は、既にAランク冒険者の斥候が偵察に行って、見つけて来てもらっている。流石に戦力を見ようとしてバレたらマズいということで、今回は場所だけの偵察に留めてもらった。では、これからそこへ向かって、夜中に急襲するとしよう」


 あ、もう見つけてもらっているのか。なら、話は早いな。

 で、作戦は夜襲と……シンプルだが強力な戦い方だ。


「では、馬車は既にギルド前に用意してある。交流とか戦闘時の細かい取り決めはその時に決めてくれ」


 こうして、俺たちは盗賊団の拠点へ向かうこととなった。

 会議室の外に出た俺たちは、多くの人からの視線を浴びながら冒険者ギルドの外に出ると、扉の横に止まっている2台の馬車に、それぞれ分かれて乗り込む。

 そして、全員が乗ったところでギルアスさんに見送られて、俺たちが乗る馬車は走り始めた。

 すると、グルドンさんが直ぐに口を開いた。


「は~あ。んじゃ、戦闘方法だけでも交流しておこうぜ。リックとか知らんだろ? どうせお前らもうろ覚えだろうし」


 グルドンさんの言葉に、全員軽く頷くと、口々に口を開く。

 まずは俺から。


「俺は見ての通り魔法主体だ。使うのは火、土、風の3属性。だが、腰に差しているように剣術もそこそこ得意だ」


 そう言って、俺は話を締めくくる。

 すると、皆一斉に「ほう……」と感嘆したような声が上がった。


「まさか三属性持ちとは。そりゃ知らなかった。あ、因みに俺は拳闘士だから」


 グルドンさんは感心しながらも自身の戦い方を言う。

 拳闘士とは、簡単に言えば格闘家だ。拳で殴ったり、足で蹴ったりといった攻撃を主にする。だが、グルドンさんみたいな強者なら、魔闘技で体に魔力を纏わせることで、身体能力を強化するなんてことも余裕で出来るだろう。あれって使いこなすのはめっちゃ難しいけど、練度次第では身体能力が5倍以上になることもあるらしい。

 すると、次にルーカスさんが口を開く。


「俺は双剣士だ。連携はあまり得意ではないが悪しからず」


 片手剣を1本ずつ両手に持つ双剣士。慣れるまでは結構難しいが、慣れれば手数が多い分、普通の剣士よりも厄介だ。

 その後も俺は他の人の戦い方を聞き、誰が先に前へ出るかなどを決めたりして、暇になったら雑談し……

 気がつけば2時間が経過していた。

 すると、馬車が脇道に逸れ、止まった。どうやら着いたようだ。


「よっこらせっと」


 俺は馬車から跳び下りると、うっすらと赤く染まっている遠くの空を見つめる。

 そして、皆に向き直った。

 すると、拠点の場所を突き止めたらしい斥候が口を開く。


「ここから歩いて1時間もない所に拠点があった。もう少し休んで完全に夜になったら、出発するとしよう」


「だね。馬車に乗ってて腰が痛いし、ちょっと野原に転がることにするよ」


 斥候の言葉にルーカスさんは真っ先に反応すると、そのまま野原にゴロリと転がる。


「ああ。俺も腰いてぇや。相変わらず、馬車移動は苦手なんだよ」


 グルドンさんは腰を擦りながらそう言うと、その場にどっかりと腰を据える。

 何か気が抜けるなぁ……


「は~あ。俺も休むか」


 そう言って、俺も寝転がると、ゴロリと転がって休むことにした。


 ◇ ◇ ◇


 ザク視点


 俺は暗い気持ちのまま、あいつらが死んだという場所まで来た。

 知り合いが魔物や盗賊に殺されたことはある。だが、ここまで親密な関係になった人が殺されたのは初めてだ。

 何年も指導をして、立派になった子供たちが、無惨にも殺されただなんて信じたくない。

 だが――


「……くそがっ」


 俺は大粒の涙を流しながら、地面に横たわる死体を見る。その死体はあの日、俺が餞別として与えた冒険者用の服を着ていた。

 低位の魔物が嫌う匂いをつけていたようで、死体がちゃんと残っているのは幸いと取るべきなのだろうか……


「うわあああああ!!!」


 俺はその場で崩れ落ちると、大声を上げて泣き叫ぶ。


「何故だ! 何故死んでしまったんだ! 何故、俺よりも先に逝っちまうんだよ!」


 冒険者はいつ死んでもおかしくない職業。故に、これも世間的に考えれば普通のことなのだろう。

 もし、顔も知らない子供の冒険者が死んだと聞かされても、俺は普通のことだなと思う。

 だが、親しい間柄と言うだけで、その思いは百八十度変わるものなのか……


「くっ ……せめて、仇は取ってやる。お前たちを殺した盗賊は、必ず俺が殺す。だから、安らかに眠れ」


 そう言うと、俺は出発の時が来るまでその場で涙を流しながら黙とうを続けた。


 ◇ ◇ ◇


 リック視点


 数時間後、俺たちは盗賊団の拠点に向かって歩き出した。

 道中は――無音。ただただ無音だった。

 それには理由があり、斥候の人が中級無属性魔法、消音サイレント魔力感知阻害アンチ・マジックサーチをドーム状に展開することで、俺たちが発する音を完全に消しているのだ。そうすることで、魔物は俺たちに気付きにくくなるし、盗賊の奴らも気づかない。人の接近に気付く要因は基本、音と魔力だからな。

 そんな感じで順調に俺たちは森の中を進む。


「……!?」


 すると、道案内として戦闘を歩く斥候が立ち止まった。直後、俺たちの頭の中に彼の声が響き渡る。


『あっちに魔物がいるから、こっちから回り込むように行く。気づかれないよう、細心の注意を払えよ』


 斥候の言葉に、俺たちはコクリと頷く。

 今のは中級無属性魔法、念話リマインダーで、こうしてあらかじめ魔力のパスを繋げた人と話すことが出来る魔法だ。

 今は消音サイレントを使っているせいで、こうするしか言葉を発する方法が無いのだ。まあ、俺は無属性魔法に適性を持っていないから、聞くことは出来ても話すことは出来ないんだけどね……

 そうして、斥候の言葉に従った俺たちは、より細心の注意を払って先へと進む。

 ……よし。

 どうやら無事突破したみたいだ。

 とまあ、こんな感じで慎重に進むこと約1時間でようやく――


『よし。この先に盗賊団のアジトになっている洞窟がある。皆、武器を持て。これ以上近づいたら、多分気づかれる』


 斥候の言葉で、俺たちは一斉に戦闘態勢に入った。そして、同時に斥候の言葉に頷く。

 確かにこの先で、何かしらの魔法を使っている感じがするからだ。

 何の魔法かは分からないが、恐らく探知系の魔法だろう。


『よし。じゃ、流石に戦闘の邪魔になるからここで消音サイレント魔力感知阻害アンチ・マジックサーチは解除する……』


 そして――


「行くぞ!」


 俺たちは一斉に走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る