第5話 悪魔、はじめての天界へ

《5話》

【天魔結界内部】


フィーゴの足にしがみついたまま結界に入り5分程経っただろうか── 


先程結界に突入する前にフィーゴから


(ディガル、君は肉体が悪魔だし、何か違和感があるかもしれない)


という話を聞いていたが、やはりこの3分間視界がグラついていた…。


(感覚で言えば船酔いの吐き気が無い版と言えば分かりやすいだろうか…)


明らかに自分がこの天界の結界に異物として引っかかっているという感覚があった。


しかし、俺自身はフィーゴにしがみついたままなので割とマシなのかもしれない。目を開けてグラつくのならば少しの間目を閉じておくか…


現に3分間を過ぎたあたりからは船酔いのような状況は一気に収まり眩い光が目を閉じていても明るく感じられる程だ。


"ついたか…"と目を開くとそこは流石天界と言える程美しい一面の緑の草原と、蒼い空が広がっていた。


俺が元いた源氏世界でもこんな美しい景色は中々無いだろう、世界の美しい景色○選!の一つと言われても全く見劣りしない。


空間自体にまるで生命力が溢れているかのような感覚だ、フィリスやフィーゴが纏っている光のオーラはこの空間特有のものなのかもしれない。


俺がその景色に見惚れていると、フィーゴが再び声をかけてくる。


「そろそろ手を離しても問題無いだろう、何か違和感はあったか?」


「違和感というか…視界が少しの間グラついていた感じがしていたかな…だけど、もう今は治まってる」


「なら良かった。本当ならば、裁判の場所まで君を足にしがみつかせたまま飛んで行っても良かったんだけど…君は妹の救世主になる可能性があるからな。重要な証言者がそんな情けない姿は妹に見せられないだろう?」


なんて言いながら、フィーゴは俺にニタニタとした表情で笑う。


さっきまでこの天使に尊敬の念まで抱いていたが、そういった配慮までしやがるのか…クゥー完璧男じゃねぇかよ!イケメンだし!マジで天使悪魔以前にしてこいつに人間性?いや天使性か?に勝てる気が全くしない…


「アンタがフィリスの兄でホントに

良かったよ…」


ともはや悔しさすらわかず本心でため息をつきながらそういうしか無かった。


そういうと、フィーゴは再び少し真面目な顔に戻り


「俺からすれば良かったのはコチラだよディガル。君がフィリスに対して"特別な感情"を抱いていて、証人として来てくれて助かるんだよ。さ、急ごうか…♪」


……やっぱりさっきの尊敬の念は撤回で(苦笑)




【天界─天使領─中央都市エディン】


あの後だだっ広い草原と蒼い空を数分飛んでいると、見るからに近未来感溢れるようなビル?やタワー?に近い建築物、それに巨大な神殿が見えてくる。


先程フィーゴからはこの中央都市は天使族の中でも熾天使が多く住んでいて、この都市の実権は御三家の一つシエル家(フィーゴやフィリスの家)が握っているらしい。


(この大きな都市の実権を持ってるとはやっぱシエル家とんでもないな…やっぱ令嬢で合ってた…)


フィーゴに案内されるまま、近未来感溢れる大都市の中を飛んでいく俺達……


やはり熾天使が住む領地というだけはある。同じく飛んでいる天使や地上を歩いている天使、皆"光のオーラ"の度合いが強いと感じる。


(表現の仕方がわからないから、ひとまずはオーラとしてこれから表現する)


流石にフィリスやフィーゴよりかは劣るが、バルディオルのヤツよりは明らかにオーラが強いような気がする。


──そのまま天使達を眺めながらフィーゴに続いて飛んでいると、その中でも一際オーラの光が強い女の天使が目に入る。


オーラの強さはフィリスと同じ、いや少し少ないだろうか……。あまりジロジロ見るのも申し訳無い気がする為、ちらっとだけ容姿を確認しようと目線を向けた……が、何故か俺は数秒彼女から目が離せなくなった…


時間にしては3秒にも満たない時間ではあっただろうが体感時間で言えば10秒ほどだろうか…そしてその女天使は此方をジッと見詰めてくる。


顔も容姿もフィリスに負けず劣らずとても美しい美少女、いや美女の方があっているかもしれない……いや、それより!


「え……なんで目が離せな…!?」


俺は焦った。まるで心の中を見透かされて、感情をグチャグチャに掻き混ぜられたような感じがする…


「ディガル君、どうかしたか?」


「え!?あ…いや、何でもない…大丈夫だ。急に叫んで悪い、フィーゴ」


フィーゴが気にしたように声をかけてくれた瞬間に、その感覚から逃れられ、やっと目が離せられた。


──そしてもう一度振り返るとその天使の姿は無かった。


……何だったんだろうか…、あの心の中まで見透かして力をこそぎ落とされたような感覚は…。そう言えばさっき悪魔をよく思わない天使も居ると聞いたし、アレは精神攻撃か何かの一種なんだろうか…。


とにかくフィリスが待っている、早く行かないと…しかしながら何だか腑に落ちないまま俺はフィーゴの後について都市の中央に急いだ。


《5話完》

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