第4話 フィリスの兄との対話

《第4話》

【天使・悪魔領結界付近】


(飛び立ってからどれほど経過しただろうか。多分十数分くらいかもしれない…)


俺はフィリスを極刑から救う為に俺はフィリスの兄である飛び立ったフィーゴの足にしがみついたまま天界付近までやって来た。


(やはりフィーゴは天使の中でも最上位、明らかに俺の体感したことのないような速度で飛翔している…!)


そもそも俺は悪魔になったばかりであり、背中に翼が生えていることに気づいてからまだそれほど飛んだことすら怪しい。


だからやはり身体がどうしたってこわばってしまう…


だが、こんなところでビビってるとは思われたくない…そもそも俺はフィリスを助けに行くんだ。


(もっと胸を張っていきたいものなのだが…)


それでも…まだまだ慣れるまでには時間がかかりそうだ。


そんな事を思いながらも彼の足から絶対離されないようしがみついていると、フィーゴが声をかけてくる。


「それなりに速度上げて飛んで来たが…そろそろ速度に慣れてきたか?もう少しで結界に到達するが…悪い、あまり時間が無いものでな…」


フィーゴはあまり顔や態度には出さないが、そもそも妹が処刑される可能性があるのだから内心穏やかでは無いだろう。


そんな状況で一応対立種族である俺に対しこんな風に配慮する辺り、やはり出来た天使なのだろう…


「まぁ…なんとか。目は開けれるようにはなって来たけど、にしてもどうやったらそんな爆速で飛べるんだよ…!」


俺はついそんな事を聞いてしまった。


「基本は慣れだ、この速度で目を開けられるようになれば後は身体を順応させればそのうち飛べるだろう」


(あー、やっぱこういうのって結局慣れだよな…つまりこの兄天使もきっと隠れて努力したんだろうな…それとも稀にいる生まれつきの才能だろうか…後でしっかり聞いてみるか…しかしまだ一番核心的な話を聞いていない)


「向こうに到着する前にアンタに聞いておきたい。なんでフィリスが極刑を食らうんだ。さっき言ってたが、俺を殴ってきたアイツ(ルクス・バルディオル)に何か関係があるのか?」


「あぁ…さっきは俺の妹自慢を聞かせてその話を忘れていたな。」


「そこは自分で認めるんだな…」


「まぁな、俺は妹を誇りに思っているからな。だからこそ俺は妹が失態を犯したとは思わない。」


「失態…?」


「あぁ。その失態とは俺の妹がそのルクス家の恥晒しを拷問の末殺害したというものだ。天使族の中で同族殺しは重罪になる。」


フィリスにも恥晒しって言われてた気がするが…


「……ちょっと待てよ…俺は怪我とかしてなかったし、フィリスにその辺で勘弁してあげて欲しいと言った時、フィリスも鎖を解いていた。」


「あぁ…ディガル、君の言う事が正しいと俺はずっと思っているよ…フィリスが嘘をついているとも思わない」


「だが実は、妹は君と共謀してルクス家の跡継ぎ潰しを企んでいたのではという疑惑がある。ルクス家の上層部は結構ややこしくてね…」


フィーゴはそう言いながら、


「そもそもあのような輩を潰した所で何になるって話だがな…」


(あのようなっていう言い方がしっくり来てしまうのは笑えるな…)


「なぁ…天使族の中で悪魔に対してここまで親切なのってアンタらシエル家の天使だけだったりするか?」


「どうだろうな、少なくともシエル家は悪魔との共存は無理でも戦争をしないことは望んではいる。昔から天魔の争いでは多くの血が流れている歴史があるからな…」


実際に俺は大きな戦争は一度しか体験していないが、とフィーゴは前置きしながら語る。


「だが、勿論悪魔に対してよく思わない家もある。家のまとまり以外にも最終的にやはり個人でかなり違うしな、だが確実に言えるのはルクス家は悪魔を良しとしない一族なのは昔から事実だ。だからルクス家の"一部"はずっと悪魔領での統治を担当しているからな。」


「なるほど…だから俺は見せしめみたく殴られたのか…」


「ディガル君が殴られてたってのは別の意味があるかもだが…ま、それはじきに話す」

 

別の意味、何か俺自身に疎まれる要素があったのだろうか……少し気になるところだな…


「そろそろ結界に入るからな、ディガル君は肉体"自体"は悪魔だから少し違和感があるかもだ…ただ、俺に基本は任せてくれて構わない。意識だけはしっかり保ってくれたら良い。」


「あぁ……!」


とにかく全ては実際に天界に入らなければ始まらない。俺はこの会話を通してフィーゴへの信頼が高まったと感じた。


さあ、天界に乗り込みに行って、フィリスを助けに行くぞ…!


《4話完》

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