第6話 ソニアとの出会い

《6話》

【中央都市エディン──ナハス裁判所入り口】


──都市の中央、シエル家の敷地の中心地にその裁判所はある──


シエル家の広大な敷地は都市の中央部にあるものの、やはりその敷地の周りに厳重な結界と護衛の天使達が居てそう簡単に関係者以外は立ち入れないようになっている。


その結界は大きな凱旋門を境としている為そこで一度門を潜る必要がある。


俺とフィーゴは門の前で一度降り、門をくぐろうとすると後ろから声をかけてくる年老いた天使が居た。


老天使『これはこれは…シエル家の"愚息"ではないか…。君の妹、いや同族殺しをしたシエル家の恥さらしと言うべきか…まさか"極刑''とは、大変お悔やみ申し上げますのぅ?』


『それによりにもよってこの様な、信用に値すらしない悪魔如きに助太刀を頼むとは…シエル家の跡継ぎがこれか…熾天使の未来もお先真っ暗というもの…フォッフォッフォ…♪』


(──は…?このクソ老いぼれは何を言ってやがんだ…?)


俺は耳を疑うことしか出来なかった。一瞬勢いで反論しかかったが先程フィーゴからはなるべく君は喧嘩を売られても無視すれば良い、代わりにすべて俺が反論すると言われていた為何とか踏みとどまる。


しかし、あまりに露骨に喧嘩を売ってるとしか思えずフィーゴの方を見る。


やはりフィーゴも頭に来ているようではあるが、俺の方を見て微笑を浮かべ軽く首を横に振ると、俺に任せろというように口を開き…


フィーゴ「何の為に来た。裁判はアンタら死に損ないの老いぼれ天使の"見世物"じゃないぞ…これだから暇な老いぼれは困る」


(うぉ…意外とちゃんと悪口だ…)


明らかにやれやれというような雰囲気を纏いながらフィーゴは更に畳み掛ける。


「あー、アンタが挑発をしているとして、一つ言葉を返すのであれば、アンタらルクス家の後継は俺の妹に殺されるほど弱く…そして、自分の思惑通りいかなければ他者にそれを向けて発散する"クズ"だろう?


後継の育成が出来ていないのは貴様ら先代の責任だろう。恥さらしはどちらだろうな。」


……まさに俺が言いたい事をすべてフルカウンターでぶつけてくれた気がする。


しかし、フィーゴの話しぶりからしてルクス家の先代か先々代か…の老いぼれはほとんど気にも留めない様子で


老天使「フォッフォッ…年寄りは労るものだぞ?お主には、目上の存在への敬意が足りぬ。ま、お主が丁寧に育てていた妹が極刑になってもその態度を取れるか楽しみじゃのぅ。」


などと言いながら先に門をくぐっていき、俺はその背中に蹴りを入れてやろうかという気持ちを抑えて…とある事を思いついた。


──俺は、"ヤツ"の上着のフードのようになっている部分にとある物をバレないように投げ込む。


それを実行した後、ヤツが俺達の前から完全に居なくなるとフィーゴから話しかけられる。


「ほぉ…ディガル君はそういった機転が効くんだな…?」


「いや、あの"老害"なら口を滑らせるんじゃないかって…それにフィーゴが代わりに全部反論してくれたから冷静に頭を回せただけだよ。」


そうだ──別に失敗したら失敗しただ。少しでもヤツが何かを喋れば……


「老害か…うまく言ったものだな…望みは低いがその証拠になる可能性もある…少し期待しておこうか。」


そう言って俺達も門をくぐった瞬間、目の前に女天使が空からサッと降りてくる。


人間で言うメイドに近い姿だろうか…黒と白を基調とした服に薄い青色の長い髪がよく映えている。


「おかえりなさいませ。フィーゴ様」


「あぁ、ただいまソニア。んで、妹の状況はどうだ。」


「特に変わりなく…、"極刑"の可能性があるっていう者の態度ではありませんよ。まだ若いというのにどこにあの精神力があるのか…」


「アイツの精神力は正直俺なんかの比じゃないさ。だからこそ俺は自分自身よりも次期トップに妹を推薦した位だからな…」


フィーゴはソニアの頭に軽く手を乗せ撫でて


「…ッ…///ところで此方の方は…。あ~…なるほど…フィーゴ様が昨日言われていた"証人"ですか。確かにフィリス様が言うとおり''面白い"存在なのは間違いありませんね…。まさに特異点……」


フィーゴといいこのソニアといいちょくちょく俺の存在について含ませたような言い方をする…。ここは聞いておいた方が良いか…


「ソニアさん初めまして、俺はディガルって言います…その面白い存在っていうのはどういう意味の面白いですか?」


「あら…自分の存在について理解していないのですね…。でも来たるときにきっと分かります、それくらい貴方の存在はイレギュラー、世界のバグのようなモノですから…」


「んーと…結局教えてくれないんですか…?」


苦笑いしながら、俺はもう少し縋ってみる。


「そうですね…流石に何も教えないのも面白くないし、少しヒントとしてこんな古い言葉があるの


───闇に生まれし光を持つもの天魔の救命の双翼にして理の平衡を保つ───


ってね。」


「ソニア…少しヒント与え過ぎじゃないか?まぁ、別に構わないんだが…」


とフィーゴそうは言うが俺にはあまりピンと来ない。俺がクエスチョンマーク丸出しの顔で見つめていると…


「フフ…でも、本人はあんまり分かってないっぽいですから…今のうちにシエル家だけじゃなくエルゼ家にも良い印象を抱いて貰わないと。」


「エルゼ家…ソニアさんはシエル家の天使じゃないんですね…オーラはシエル家の護衛達より明らかに強いのでてっきりシエル家の天使かと…」


「ソニアはエルゼ家の中でも特に優秀な天使だからな…それに幼少期から俺の側近みたいな感じで動いてくれているから俺の熾天使の力の影響で天使の力も向上している。」


「まさかオーラまで読み取れるなんて…ホント面白い存在ね…」


「え?これって悪魔特有の能力じゃないんですか…!?」


ソニアは更に意外そうな表情をし、ここまで自覚が無いのは中々無いわねと小さく前置きしたように感じる。


「なるほど…これも自覚してなかったのね…天使の光の量やオーラを読み取る事ができるのは同じ瞳を持つ熾天使位なのよ…。」


「え…。」


「とにかく、その話も後で詳しくするよ。一旦…裁判所に向かおう」


「えぇ。あまり時間も残されてませんし、作戦会議も必要でしょうから…♪」


「わかりました…。」


自分の存在がイレギュラーだっていう話は聞いたが、正直俺からすりゃこの悪魔の肉体ですらイレギュラー過ぎる訳だし……オーラが見える云々の話も色々と謎ばかりだ。


でもフィリスは少なくとも元気らしい、さあ早く会いに行こう…!


《6話完》

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