2-3
Go Ahead! TWEI FORMER!
作詞・作曲 KAKURO
そびえ立つ僕らのこの街に
百の武器 千の勇気
みんなの平和を守るため
stay free stay peace
さあ今こそ飛び立つ
Go ahead! TWEI FORMER!
群青広がるこの
Go ahead! TWEI FORMER!
さあ放て正義の刃 天地斬
「……儀武さん?」
「はい?」
「なんですかこれ?」
「主題歌です!」
「主題歌ってこのロボットの?」
「スーパーロボットです」
「いや、まあ、そこはこの際もうどうでも良いんですけど、これ歌ってるのってひょっとして……」
「CLAYです!」
「……え? えええええええ!?」
開いた口が塞がらない。
CLAYと言えば、この函斗市出身の日本を代表する4人組ロックバンドじゃないか。ほとんどどJ-POPを聴かない俺ですら、あの青色のケースのベストアルバムを持っている。まさかそんなバンドがこんな悪趣味機械人形のために曲を書き下ろすなんて。
「あれ? 仁様『俺はジャズしか聞かない』のではなかったのでは? てっきりCLAYなんてどロックなバンドなんてご存知ないかと」
「悪意のある聞き方をしやがって……俺だって同郷の有名ミュージシャンくらい知ってるわ」
儀武がなんかいつも以上にニヤついてる気がする。それはそれとして。
「どんな汚い手を使って主題歌なんか作らせたんだ? 弱味でも握ったのか?」
「仁様は私のことをなんだと思ってるんですか……正規ルートで依頼しましたよ。同郷のよしみってことで、結構破格で受けてくれました! まあ、補助金は使いましたけど」
「ほ、補助金!?」
ってことは税金じゃないか!
「ちなみにこれくらいでした!」
儀武がうんと背伸びして耳打ちする。俺は腰を抜かした。
「ひええ……こんなクソロボットにそんな金が……」
「クソってなんですかクソって! ほら、敵が向かってきますよ!」
200mほどだろうか。感覚的には、ちょっと石でも投げたら届くんじゃないかって位置まで敵機が近づいてきていた。俺は抜けた腰に喝を入れてなんとか立ち上がる。それにしても——
「なんか子供が積み木を重ねて作ったような……」
「あれが今週の侵略者『カマセーヌ星人』が駆るスーパーロボット『微動戦士ザンネム』です!」
噛ませ犬? 残念? 確かに弱そうな外見ではあるが、敵が誰であろうと次に戦うことがあるとしたらこうしようと画策していた作戦がある。俺はLボタンとRボタンを同時に押す。
「……じ、仁様?」
ツヴァイフォーマーが剣を構える。
「じ、じ、仁様? いきなり
マイクのスイッチを入れる。今回は入れ忘れたまま叫ぶなんて失態は犯さない。
「ちょ、ちょっと仁様!? 何してるんですか!?」
儀武がコントローラーを奪わんと飛び掛ってくる。俺はひょいと腕を上げる。この高さなら届くまい。高身長に産んでくれてありがとうお母さん・お父さん。俺は儀武と距離を取ってマイクに向かう。
「よーし、父さん張り切っちゃうぞ!」
「やめてええええ!」
「パパ! 何してるの!」
「天地斬!」
衝撃波が唸りを上げて飛んで行く。ザンネムが真っ二つになり、爆散する。燃え上がれ、燃え上がれ、燃え上がれ、ザンネム。
「フハハハハ! 見たか正義の力!」
「ちょっとお!? 何してるんですか! 戦闘開始1秒で必殺技使うスーパーロボットなんて聞いたことないですよ!」
「勝てば良いんだよ勝てば。そもそも持てる力を出し惜しみする理由って何かあるか?」
無いだろう。戦力の逐次投入は愚策だとあらゆる歴史が証明している。儀武は涙目で歯噛みしていた。何故だろう、少しも心が痛まない。
晴れ晴れとした心で敷地に着陸する。いやあ、今夜のビールはとても美味いだろう。
帰路、儀武がずっと恨みがましい目でこちらを見ていたが、気がつかないフリをしていた。
「……棚橋さん」
「はい?」
「スーパーロボットの戦いにはロマンと矜持ってものが」
「儀武さん良いんですか? もう17時3分ですけど?」
儀武は腕時計を一瞥すると、こちらに視線を向けながらじりじりと後ずさりを始めた。
「……一度棚橋さんにはスーパーロボットの礼儀と作法を叩き込んだ方が良さそうですね」
吐き捨てるように言うと、足早に去っていった。こんなモンにも礼儀とか作法なんて大袈裟なものがあるのか。まあどうでもいいことだ。今はとにかく祝杯を上げたい。
「陽子。ビール冷えてるかな? 今日はサッポロクラシッ……ぐはっ!」
回し蹴り。胴体にめり込んでいた。体が壁に叩きつけられる。佳奈美に蹴られたと気がついたとき、俺は既につやつやのフローリングの上に横たわっていた。
佳美奈。俺の娘。棚橋家の長女。涙目で、こちらを睨んでいた。
「パパの馬鹿!」
そう言うと、大股で自室に行き、バタンとドアを閉めてしまった。
「ふんっ!」
「グエッ!」
志門がボールを投げてきた。軟式球ではあるが、力強いストレートが俺の鳩尾に吸い込まれた。俺は悶絶する。息が、出来ない。
フローリングの上でのたうち回って、苦しみに耐える。親、いや人に向かってボールを投げるとは何事だと叫びたかったが、息を取り込むことで精一杯だ。
ようやく呼吸だけがままなるようになってくると、陽子がこちらを覗き込んできた。その目は、光が無かった。
「……なあ、そんなに俺悪いことしたのか?」
「自分の胸に聞いた方が良いと思いますよ」
陽子はそれだけ言うと、キッチンに戻り夕食の準備の続きに取り掛かった。
全身から脂汗が出ていた。
まともに歩けるようになるまで、もう少し時間がかかった。
俺が家族に総スカンを食らうようなことを何かしたのだろうか。痛みに耐えながら考えたが、何も思い当たらなかった。俺はただ家族とこの街を守っただけなのに。
第2話 了
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