第2話 必殺の一撃を放て! 対決! 微動戦士ザンネム!
2-1
「ジンさん、起きて。遅刻しますよ」
「んん……」
陽子が体を揺すっていた。
そうか、もう朝か。
なんだかあまり眠れた気がしなかった。頭が、重い。
なんだかとてつもない悪夢を見ていたような気がする。古くなった我が家のリフォームが完了してウッキウキで向かったら、自宅のあるはずの場所にロボットが立っていたなんて内容だ。俺は映画に出てくるようなオシャレな家を想像していたのに、醜悪な機械人形が屹立していたのだ。夢の内容を思い返すと、とてつもない悪寒がしてきた。
いやあ、それにしても嫌な夢だった。本当に嫌な夢だった。うん、きっとアレは夢に違いない。自宅をリフォームしたらロボットになるなんてそんな無茶苦茶な話があるわけがない。夢は深層心理の反映らしいが、こんなアホな内容になったってことは相当疲れてるんだな。そうだ、相当に疲れてるんだ! 今度温泉にでも行こう。そうしよう。
無理矢理に体にスイッチを入れて、ベッドから起き上がる。随分と寝室が広くなっていた。そう、我が家はちゃんとリフォームをしたのだ。
陽光が豊富に差し込むリビングを抜け、浴室に向かう。からっと乾燥した更衣室で手早く歯を磨き、髭を剃る。浴室に入ると、大きな浴槽が目に入った。成人男性が横たわっても余りあるほどのサイズだ。飛び込みたい気持ちを抑えて、シャワーで汗を流す。今から、あの浴槽に浸かるのが楽しみでしょうがない。
身支度を整えて食卓に向かう。まだ、朝食を楽しむだけの時間はあった。テーブルの上には、トーストとサラダ、ウインナーソテー、コーヒーが乗っていた。
湯気の立っているコーヒーを啜る。やはりコーヒーは豆から挽くに限る。この芳醇な香りが、細胞の一つ一つを目覚めさせていく。
「佳美奈と志門は?」
「もう出ましたよ。今日は朝練がありますから」
「……朝練なあ」
キャベツとレタスをひとまとめにフォークで刺す。ざくざくと音が鳴る。志門の野球はともかく、佳美奈の習い事はどうしても歓迎出来なかった。好きなことを好きなようにやってくれるだけで良いと、習い事を始めるまでは思っていたのだが。
「ごちそうさま」
食器をキッチンまで運ぶ。白を基調とした大理石風のキッチンは、広いだけでなく使い勝手も良さそうだ。キッチン上・下の収納が充実しており、陽子と俺が山ほど買った調理器具の数々が丸ごと収まっている。調理スペースも広々としており、効率良く料理が出来るよう調味料・乾物・器具が無駄なく配置されている。IHコンロの上には、香草と共に牛肉が煮込まれているのが見えた。今夜はビーフシチューだろうか。また、仕事へのモチベーションが上がる。
玄関は新鮮な空気に満ち溢れていた。大きく、息を吸う。新緑の香りが肺を満たしていくような気がした。
「ジンさん、今日は遅くなります?」
「いや、定時で上がれると思うよ」
「ビーフシチュー作って待ってますから」
「それはもうとっとと帰るしかないな!」
軽いキスをする。左手にゴミ袋とカバンを持ち、右手を妻に振る。今日も笑顔が眩しい。
玄関を出て、エレベーターを下り(ん? エレベーター?)、ゴテゴテとした原色のライトが光る廊下をくぐり抜け(これはまさか……)、生物認証のドアを開けて外に出る(…………)。
5メートルほど歩き、振り返る。
深いため息を、吐く。
わかっていた。
わかっていたが、やはりこちらが現実だったのだ。
住宅地のど真ん中。品性の欠片もない巨大ロボットが、立っていた。
スーパー庭付き一戸建てロボットツヴァイフォーマー第2話
「放て必殺の一撃! 対決! 微動戦士ザンネム!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます