夕焼け



「…………」

「おい、いつまで布団中潜っとんねん」


「…………」

「おかんー、ねーちゃん死んどるー」



タイムリープの能力があるなら、うちは今日絶対使ってたで。


なんやあれ。

ピタゴ○スイッチか?


一番テレビで流したらあかん映像やけどな(笑)。

はぁ……!



《——「お、俺はほんと何も見てない」——》



そう、明らかに気を使って言ってくれた彼。

でも結局自分からバラしてもうた。



《——「あー。大丈夫だよ、意外とみんなこういうのもってるから。多分」——》



その優しさがまた刺さる。

むしろ、いっそのこと凄い蔑んでくれた方が。



《——「引くわ……そんなキモい欲望、向けられるツヴァイが可哀想だよね(苦笑)」——》



存在しない記憶を再生。

あの優しい優しい朝日様が、うちだけにその蔑んだ視線を……!



「……ぐへへ」



あ、アリやな……い、いやいや違うやろ!



「なっなんか布団の中からキモい声が……ねーちゃんの怨霊や! 悪霊退散! 悪霊退散!」

「うあああ痛い痛い痛い! やめーや怜花!」


「み、未練あり過ぎてお化けやのに足ついとる」

「死んでないわアホ……」


「ひえっ、おかん助けてー!」



妹にゲシゲシと蹴られたので、たまらず布団から出た。


……結局、アレからほとんど話せずそのまま別れた。

ハゲに一緒におるとこを万が一見られたら駄目やからってことで。


元はと言えば、うちがドラマCD安く売るって話やったのにその話一切してへん。

はぁ……。



「あー、あかんあかん!」



とりあえず、抱き枕(ツヴァイ様カバー着用済)に飛び込む。

もしこれでうちが学校休むー! とかなったら、それこそ朝日様が気病むんや。



「……ごめんなぁ、ツヴァイ様……」



せっかく買った念願の抱き枕カバー。

なのに、ずっと暗い気分なのは失礼やろ。



「よっしゃーー!!」



気合入れるで。

……いや、というか逆に考えるんや。

ドラマCDの話してないってことは、また学校でその話をせなあかんわけやで?


あの口ぶり、彼はかなりそれを欲しがっとる。

つまり、またあっちから話しかけてもらえる!



「計画通り……(暗黒微笑)」



ああ早く月曜にならんかなぁ……。



「……病院行く? ねーちゃん」

「これは重症やなぁ……こんなんじゃ一生彼氏出来んで」


「…………実は今日、男の子とカラオケ行ってたんや」


「 」

「 」


「し、死んどる……」







「無事帰れたかな……」



帰宅して、見るからに落ち着きを無くしていた彼女を思う。



《――「こここっこれはな! 友達にあげるやつなんや!!」――》


《――「あ、そうなんだ。別に木原さんのでも大丈夫だけど」――》


《――「ははははは!! いやぁ流石にうちもそこまで、なぁ?」――》



もう彼女のモノだって分かるんだけど、それを言ったらまた死んでしまう(?)から言わなかった。



《――「でもちゃんと主人公が渡した雪のネックレス付けてるんだ。上半身裸なのに、それだけ付けてるのはなんか良いね」――》



でも、そんな感想を言ったのがまずかった。

口を滑らしてしまった。



《――「わ か る で !」――》


《――「うちが二次創作の抱き枕カバーになびかんかったのは――いやちょっと靡いてたけど――この公式様の溢れんばかりのツヴァイ様理解や! 最初はこんなんいらん言っときながら結局、寝るときにまで付けとるお気に入りっぷり! この首元に顔を埋めんのが楽しみでしゃあないんや、もう良い匂いするに決まっ」――》


《――「あ」――》



結果、彼女は自分で爆死した。


見ていて凄い面白かったんだけど、ちょっと同情した。

アニメキャラだけれど、木原さんは彼へ嘘を付けないみたいで。



「……流石に学校は来てくれるよな」



俺としてもまぁ、ちょっとびっくりしたけど……別にアレぐらい普通だろう。

いや普通じゃないかもしれないけど。

ただ“そういう”のは、誰だって隠してるだけで買ってる人もたくさんいるわけで。


たまたま。

不幸にも。

俺に、見つかってしまっただけだ。



「……ごめん、木原さん」



それよりも自分の方が姑息で、醜い。


次、月曜日。

彼女と話す口実作りの為に、ドラマCDの事についてわざと触れなかった。

更に言ってしまうと、その名目で連絡先も交換したい。


直接伝えれば良い――そんなこと、俺が一番分かってる!




「ほんとどうしたんだよ、俺は……」




怖い。

彼女達と、友達になりたい。

しかしその手が伸ばせない。


思えば柳さんに“ああ”言えたのは、昼寝から起きたばかりだったからだろう。

本音が、ポロっと出てきてくれたから。


それはそれでどうなんだ、と思うけれど。


でも、でも。

その繰り返し。


ただ――ここ最近の日々は、どこか楽しい。



「……っ」



2DKのマンション。

一人では広すぎるはずのこの場所なのに、今はどうにも窮屈で。


夜。

時刻は既に19:25、日が沈む一歩手前。

家から飛び出した。


あて先なんてないけれど。

外に出れば、綺麗な夕焼けが俺を出迎えてくれた。











▲作者あとがき


今日は夜にもう一話投稿します。

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