出会い



【IYAHUU知恵袋】


【あなたの質問に二件の回答が届いています】




【いつき さん】

20〇×/9/9 18:10


陽キャの人について

それっぽい人と仲良くなれました

昼休みに一緒に昼寝する関係になれました


でもやっぱりあまり中々話は出来ません

色々話したいし聞きたいこともありますが、話すのが苦手過ぎて辛いです


良い方法ありませんか

後、これは友達だと言えるでしょうか



【回答(2件)】


【小池 さん(カテゴリーマスター)】


休み時間に一緒に居る関係であれば友達だと言えるでしょう。

少し特殊ですが笑。


話すのが苦手とのことですが、無理やりに話してもよくありません。

現状維持とは言いませんが、ゆっくりと友達との時間を過ごせば自然と声が出るようになると思います。

そもそもその友達の方は、静かな貴方と合うから一緒に居るんじゃないでしょうか? 焦らなくて大丈夫ですよ。


貴方の学園生活に幸あれ。



【名前非表示 さん】


昼休みに一緒に昼寝wwwwwどんな状況?w

多分あんた、居眠りして夢でも見てるんじゃないww

ちょっと散歩して目覚ました方が良いよwww






「……」ガタッ





陽視点




《——「陽は……ありのままで、その子と居れば良いんじゃないか」——》



電話を切ってからも、俺は歩いていた。

その言葉は、いまだに頭の中で響いている。


本当の自分なんて、自分が一番分からないけど。


大木の下で昼寝していた時も。

喫茶店でプリンを食べた時も。

好きなアニメについて話している時も。


その時は、作らない自分で居られた気がした。

彼女達の優しさに甘えているだけかもしれない。

人の考えていることなんて分からない。


もしかしたら――そう考えればキリがないけど。

でも、俺はそのままで良いと言ってくれた。



「やりたいこと、か」



もう俺は、翔馬達のグループじゃない。

だから、我慢しなくて良い。


やりたいこと。

やりたいことって何だ?


例えば……あの大木の下で、お昼を食べたい。

放課後。まだまだあるお気に入りの店に一緒に行きたい。

アニメだけじゃなく原作も読み進めたい。そしてまた彼女と話したい。



「まだ、遅くないよな」



学校だって色んな行事がある。

まだ友達にすらなれていないんだけど。

悪くないって思うんだよ、これから先の学園生活が。



――カーストトップから落ちるのも悪くないな。



そう思った瞬間に、どこか身体がみなぎってくる。

今すぐ、何かをやりたいと訴えてくる。



《——「なぁ陽。お前曲入れんな、下手な上に声デカくて不愉快なんだよ」——》



「……」



思い出す、その声。

初めてカラオケに翔馬達と行って、彼と二人になった時言われたっけ。



《——「陽君って歌上手いね!」——》



美咲にはそう言われたけど、確かに他の三人は微妙な反応だった。

気を使ってくれてたんだと思って、そこからは翔馬の無茶振りでしか歌わなくなった。


ただ、一人でいない為だけに付き合った。

今になって、その我慢が溜まっていた事に気付く。

中学の頃は友達とよく行ってたし、歌えないのは結構ストレスだったのかもしれない。


そういえば——あのイカサマカラオケの時、歌ってて凄く気持ちよかったな。



「……歌うか」



呟いて。


家の最寄り駅、近くにあるその場所に足を向けた。

下手なら下手なりに、俺だけで歌えば迷惑を掛けない。


そうだ。なんで気付かなかった?

いや、でもそうか。

一人が嫌だった自分が、一人カラオケすることになるなんて——



「ん?」

「!?」ビクッ



秋。すっかり日が落ちた夜道。

月の光が、その灰色の髪を照らしていた。



「……柳さん?」





「驚いた。家近かったんだね」

「知ってた」

「えっそうなの?」

「駅同じ」

「あぁ、たまに一緒に降りてたんだ」

「」コク

「気付かなかった……ごめん」



全く気付かなかった。

もう半年ぐらい経ってるのに、意外と気付かないんだな。



「車両、一番離れてるとこ、だから」

「ああなるほど」



そりゃ俺からは見えないわけだ。

ホームから近い車両に乗ってた自分じゃ、振り返らない限り目に入らない。



「……昨日、みずきと居たの見た」

「え」

「」ジトォ



学校から出るの、柳さんも結構遅かったんだな。

そんなジト目で見られると、悪い事したみたいに思えてくる。


《——「「もっ、もう私の身体ぐらいしか……釣り合うモノがないかと……っ」——》


いや、そりゃ心配になるか。

多分あの暴走っぷりは彼女達も知ってるだろうし。



「あー、一緒に自習室で勉強してたんだ」

「……そ」

「柳さんは散歩?」

「」コク

「へぇ。首に掛けてるの……高そうなヘッドホンだね」

「」ブイ

「二千円?」

「万」

「良いの付けてるなぁ」

「」ドヤッ



夜道を歩きながら彼女と話す。

不思議な感覚。

誰かと一緒に帰るのなんて、中学ぶりだ。


何もなければこのまま話していたいけれど。

今は、目的地がある。



「それじゃ、俺行くとこあるから」

「……家?」

「ううん、カラオケ」

「!」

「え」

「」ソワソワ



わ、分かりやすくそわそわしてる。

でも柳さんって歌わないよな。


ま、声掛けるだけ掛けてみようか。



「一緒に行く?」

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