黄金への旅路

秘密と始まり



「……♪」

「ヒメっちご機嫌やな〜」

「」コク


「なんかええ事あったんか?」

「……ひみつ」

「教えてやーヒメー」

「ムリポ」


「……」



五限を終えて、ヒメちゃんに愛花ちゃんと私が詰め寄ります。


あの昼休みの後、教室に帰って来た彼女は凄く機嫌が良さそうでした。


“何か”あったんでしょう――朝日君と。

分かりやすいです。

もともとヒメちゃん、昼休みの行動は謎に包まれていましたが……一体何をしてるんでしょう。



「えー教えてやー」

「私も、気になります」

「……そんな気になる?」


「気になるで!」

「ひみつ」


「ズコー!!」

「あはは……まあこれ以上はやめとこうか、愛花ちゃん」

「うーん。せやな、見る限り具合悪い秘密やなさそうやし」


「」コク



六限の準備もありますからね。

でも、気になるのは気になります。


お昼……秘密の会合……だ、ダメじゃないでしょうかやっぱり!



「また顔赤なっとるでーみずき」

「……なんでもないよ」


「へんたいよくできました」

「あっなっなに言ってんですか!」

「みずき?」



……これは友達の為です。

今日――彼に直接聞きます!



「決めました!」

「? なにをや?」


「……ひみつです」


「」ズコー

「みずきも秘密かいな!!」



でも、どうやって?

彼に話しかけた後、更に一対一で話すなんてテストで100点を取るより難しいです。

確か、ヒメちゃんはずっと朝日君の方見てたよね……?




陽視点




「最近駅の方からな、ウチの生徒がうるさいって苦情がちょくちょく来てんぞー」

「……」



……猛烈な視線を感じる。

五限が終わってから、今の帰りのHRまでずっと。



授業の間、時折感じるそれ。

その先は――鈴宮さんだった。


柳さんの様に変な本を見せびらかす事なく、ただ見るだけ。



「公共施設もそうだが、学校内でももちろんだ。良いかーあんまり騒いで帰んなよ? そんじゃ解散ー!」



そんなこんな、担任の話も終わってようやく学校が終わり。


結局あまり授業に集中出来なかった。

一体何なんだ、俺なんか鈴宮さんにやったか?


それとも柳さんのこと?

分からない、まあ何かあったら話しかけてくるだろう。

丁度良い。あまり翔馬とは鉢合わせしたくないし、少し席に座っていようか。



「今日はどうする?」

「ワタシ仕事休み~」

「マジ? どっか行こうぜ」



スマホを触っていると通りがかる翔馬達。

どうやら、彼女は休みらしい。多分遅くまで遊ぶんだろう。


……まあ関係ないけど。



「じゃーうちらは部活行ってくるで」

「」ブンブン


「うんっ行ってらっしゃい」



そして、彼女達も部活へ。

俺もそういうの入っていたら違ったんだろうな。


翔馬達に合わせて入らなかったのを、今更後悔している。

もう遅すぎるけどさ。


……そういえば鈴宮さんは部活に入ってないんだろうか。



「……」



そして、どうして未だに見られているんだろうか。


話しかけて来ないのか……?

なんでだ?



「……はぁ……」



ため息ついてるし。

俺って話しかけにくいんだろうか?

一度話した相手ならそんな事ないと思うんだけど……だとしたらショックだ。


ワックス付けるのミスったかな。それとも昼寝して崩れたか?

……うん、もうこっちから行こう。悩んでいても仕方ない。



「どうかした? 鈴宮さん」

「!!」


「ずっと見てたから、用事あるのかなって」

「……あ。あー。いやその、特にこれといっては無いというかですね」


「? そうなんだ。なんか俺に付いてた?」

「あー別に違くて。ちょっとその、聞きたい事があってです……」



ずっとキョロキョロしながら、俺に視線を合わせてくれない。

……やっぱり茶髪のせい? 一応これ地毛なんだけど、威圧感与えちゃったかな。


とすれば、立ち止まって話すのは彼女に悪いか。



「鈴宮さんはこのまま帰り?」

「あっいや、自習室で勉強して帰ります……」


「そっか。やっぱり成績良いのはちゃんと理由があるんだね」

「あっその、あの……ありがとうございました!」



……なんで過去系?

まあ良いけど。



「自習室まで歩きながら話そうか。勉強の時間取っちゃったら悪いしね」

「あっ、はい……」



鞄を肩に掛けて、彼女と教室を出る。

自習室は一階の別校舎にあるから、結構歩くんだよな。



「そういえば鈴宮さんって好きなものあるの?」

「えっ。あっ、私はプリンです……」


「へぇ、甘いもの好きなんだね。結構通だったりするの?」

「……あ、その、プッチンするのしか知らないです……」


「ははっ意外とそれが一番美味しいかもよ。今夜買って帰ろうかな」

「ぜ、ぜひ……」



ちょっと無理やり話題を振ってみたけど、やっぱりガチガチだ。

バーベキューのときは、最後の方はあんまりそんな感じじゃなかった気がするけど。


……このまま話してたいけど、彼女に悪い。



「話逸らしちゃってごめんね。で、俺に聞きたい事ってなに?」

「! そ、その——ヒメちゃんとは、どういう関係ですか!」


「あー……」



やっぱり柳さんの事だった。

でも——関係か。

昼休み、グラウンドの隅で集まるだけの奇妙な関係。


正直友達とは言えない。

かといってただのクラスメイトなんて希薄な関係ではない……と思いたい。

しかしながら、もしかしたら来週には無くなってしまってもおかしくない。


……どういう関係なんだ?



「ど、どうなんですか? そのっ、や、やらしい関係とか……」

「えっ」



聞き間違いか?

やらしい? なんでだ。

そういう要素あったか?



「ななっなんでもありません!」

「?」

「や、やっぱり……聞かなかったことにして下さい」

「分かった。ただその、心配するような事は柳さんとはしてないよ」

「……朝日君はそんなことしなさそうですもんね。失礼しました……」



小さい声でそう言う彼女。

謎の信頼があるけど、まあ受け取っておこう。


悪い気はしないから。





「――そ、そのっ。“知識は黄金”! なので……」

「……なんか自分が恥ずかしくなってきたな——あ、着いたよ」



そんなこんな、話していたらあっという間だ。

見えた『自習室』の部屋の表示。



「!」

「それじゃ頑張ってね」

「は、はい」



自習室まで彼女を送り届けて、すぐに彼女は見えなくなった。

まさか一年生でココを使う子が居るなんて。


話には聞いてたには聞いてたけど、初めてきた場所。

ぼーっと眺めながら感慨に浸る。


半年以上来ていた学校。それでもまだまだ触れていないところはあるんだな――





――「……でさー! ユーヤ先輩が次の休み一緒に映画行こうって〜」

「やば! もう相思相愛じゃん?」――





「……?」



しかし、次に聞こえてきた声に耳を疑った。

“自習室”の、少し空いた窓から漏れる声。


当然鈴宮さんのものではない。

そして俺は、この人達の声を知っている。


なんだったら――顔もバッチリ思い出せる。



――「先輩と同じ大学行きたいな~勉強頑張らなきゃ~」

「二年から受験とか意識高すぎでしょ、あたし達」――



ずっと聞こえる高い声。

一応もう一度部屋の表示を確かめてから、俺は踵を返した。




「……確か、ほうじ茶が好きだったかな」




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