太陽



「君の瞳は一億ゴールド〜♪」


「ノリノリだね愛花ちゃん!」

「」シャンシャン



愛花ちゃんが歌って、ヒメちゃんがタンバリンを鳴らす。


私達がカラオケに行くとだいたいこんな感じだなぁ。

ヒメちゃんはタンバリンだったり操作タブレットの合いの手? 機能を使って盛り上げてくれます。

まるでDJさんみたいですね。やり過ぎて曲が別物になってる時もありますけど。



「——失礼します、フードメニューご注文のお客様ー」


「おっ!!! どうもどうも」

「あ、こっちです。ありがとうございます」

「」ペコ


「失礼しました、それではごゆっくり」



そして運ばれてくる、愛花ちゃんが頼んだコラボメニュー……オムライスにソーダフロートにパフェ。

結構ボリュームありますね。



「この2・2・3セットが今のトレンドなんや! 富士山より良い眺めやなぁ」


「み、見てるだけで凄い重量感」

「」ウッ


「あー最高や。缶バッチも無事ツヴァイ様やし……被りもない」


「良かったね愛花ちゃん」

「うん」

「んふふ、ありがとなぁ二人共。ウチの部活仲間はカラオケ苦手やからほんま助かったわ〜」



楽しそうに写真を取りながら話す彼女。


愛花ちゃん、いつもこのアニメの絵とか漫画とか描いているのを知ってますからね。

本当に大好きなんでしょう。

グッズ集めの楽しみとかはあまり私は分かりませんが。



「このフードメニューは奢りやで、好きなんもっていってーや」

「……パフェ以外でしょ?」


「それは死んでも渡さんで!」

「あはは、分かってるってー。ヒメちゃんどうする?」

「オム」

「はーい。じゃあソーダフロート貰うね!」



私、甘いの大好きなので嬉しいです。

アイスも乗ってて凄く贅沢……。


こんなの普段飲みませんし、楽しみです!



「あっ次みずきの番やったな、ほら」

「そうでした、ありがとうございます! えっと……」



《♪》



操作タブレットで曲を選べば、流れる音楽。

歌うのも大好きです。


歌っていたら、身体の中の溜まった何かがスッと出ていく感じがするんですね。

最初は人前で歌うなんて緊張して絶対ムリでしたけど。


この二人の前だったら、大丈夫になりました。

きっと楽しいのも、この二人の前だから――



「かわゆい声やなぁ〜パフェが進むわ〜」

「」シャンシャン


「〜♪」



歌いながら、このカラオケルームに入る前を思い出します。



《——「気にしないで鈴宮さん。行って行って」——》



あの二人がやっていたのは、本当に“じゃれ合い”だったんでしょうか。

でも笑う朝日君は、確かに助けを求めているようには見えていませんでした。


まるで早く行ってほしそうに。

私達と、関わる事を避けるように。


でも、それが逆に私は不安で——



「ッ」


「——え?」

「へ? ヒメっち? なんで再生停止——」



流れる曲が急に止まって、静寂に包まれて。


人影。

そこには、二つ。


店員じゃない。

男の人、二人。

ドアノブに手が掛けられて。



「——よう」



現れたのは、バーベキューの時の怖い人。

朝日君は……翔馬と言っていた彼です。

イキリハゲの人。


そしてもう一人。確か名前を――大河原泰斗。

テスト成績が常に上位だから名前と顔を知ってる。

私達を見下す様な目が苦手です。


でも、なんで。



「泰斗は階段で“アイツ”が来ねぇか見張っとけ、万が一来たら追い返せ」

「? こんなとこで何するんだ、翔馬。というかなんで見張る必要が――」


「――良いから行け泰斗! さて、ようやく借りを返せるぜ——」



ずかずかと、私達の部屋に入ってくる彼。

何の遠慮も無く。


気持ち悪い笑みを浮かべながら。



「柳とか言ったな、お前」

「……」

「ひ、ヒメっち」


「喋れよネクラ、謝罪するまで帰らねーぞ」

「っ……」


「や、やめて下さい」

「あ?」



ヒメちゃんは喋る事が得意じゃない。

普段から黙っていて、必要最低限の言葉しか発しない。



「あ……あの時は、ごめんなさい」

「お前が変わりに謝っても意味ねぇだろバーカ」


「う……」

「み、みずき……」



頭を下げたけれど、全く聞く耳を持たず。

気味悪く、さげすんだ目で笑ったままこちらを見る。



「マジでキモいわ陰キャ共が、コレ集めてニヤニヤしてんだろ?」

「!!」

「ちょ、ちょっと」


「こんな下らねぇもんに必死になってよぉ、現実見ろよ」

「やめて下さい。返して——」

「みずき、別にええって……」


「ああ? ハハッ要らねぇよこんなゴミ!」

「じゃあ返して下さい」



机の缶バッチを持って笑う彼。



「どうしよっかな——」

「——帰って」

「ッ!」



席を立つヒメちゃん。

素早い動きで、彼のバッチを持つ手を掴む。


そのまま空いた彼女の手は、彼の持つそれを奪おうとして——



「ぅ……っ」

「ハハハ! この俺に力で勝てるわけねーだろバーカ!」



翔馬さんが強引にヒメちゃんを振りほどく。

彼女は体勢を崩して、そのままソファに座り込んで。



「っ」

「あん時みたいに“武器”がねーとムリなんだろ? ネクラがイキってムカつくんだよ!」


「……っ」

「おら、とっとと謝れや。『ごめんなさい、もうイキりません〜』ってな!」



そして、そんなヒメちゃんに大声でまくし立てる彼。

彼女の目頭に、薄く涙が溜まって赤くなっている。


いつも無表情な彼女のそれが、崩れていく。

見ていて苦しい。


……なんで。悪いのは、この人のせいなのに。

どうして、こんなことを。



「……や、やめて下さい……」

「う、うちらが謝るから——」


「あ? 俺はコイツの口から聞かねぇと気がすまねぇんだよ」



無茶苦茶を押し付けて、また気持ち悪く笑う彼。


弱い私達が嫌になる。

どうにもならない。



「……っ」



そんな中、口を開けるヒメちゃん。

コレまで見た中で一番気色の悪い顔の彼。

無力感と絶望が私達を包む中で。




「——何やってるの、翔馬」




ドアが開けられ、その声が部屋に差し込んだ。


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