二回目の出会い



「なに、翔馬?」



カラオケルームに入ったと思ったら、また外へ。

歩いて歩いて上の階、トイレ前。


俺はほとんど歌う事なんて無いから別に良いんだけど。

それでも、今の翔馬とは二人にはなりたくなかった。

だがそんな願望——叶う訳もない。



「美咲と何やってた、お前?」

「え……美咲は手伝ってくれてただけだよ」


「嘘吐くんじゃねぇよ!」

「!?」



人目をはばからず、叫ぶ翔馬。

思わず仰け反って壁に背中がぶつかる。



「良いから吐けよ、何やってた?」

「嘘じゃないって……ドリンクバー前に行列出来てたから、それ待ってる時に美咲と話してただけで」


「あ? 何を話してたんだよ」

「え——それは、その……」



“コラボメニュー”と言いかけて、口を噤んだ。


《——「ほんとキメェよなアイツら、現実見ろよ」——》


よく翔馬は学校で、漫研部の部室を見て馬鹿にするよう笑っていた。

アニメとか漫画とか、そういったモノにハマる人達を明らかに下に見ている。


だから、美咲のそれを言う訳にはいかない。

彼女が隠しているのは、そういうことだから。



「お、お腹減ってたからさ。何か頼もうかなって……」

「それで“あんな”顔になるかよ、あぁ?」


「えぇ……ぐッ!?」

「この際だから言っとくぜ、陽」



胸ぐら、掴む大きな腕。

息が苦しい。


そのまま俺を睨む彼。



「美咲“と”真由は——オレのもんだ。分かったか?」

「ッ……」


「返事しろや、オラッ」



背中、強く押し当たる壁。

血気迫る翔馬の目。


……美咲も真由も、“まだ”彼とはそういう関係なんかじゃない。

付き合ってなんか居ない。

でも翔馬は——いずれそうするつもりなんだろう。


まるで所有物の様に、彼は彼女達を。



「っ」



それが。

俺の中で、途轍もなく不愉快で。



「なんなんだよ、それ……ッ」

「あ?」


「絶対うまく行かないよ。そんなんじゃ」



思ったことをぶち撒けた。

瞬間、ゾクッと背中が冷える。


“また”やってしまった。

今日の俺はどこかおかしい。

でも、不思議と清々しい自分が居て。



「んだと? テメェに何が――」


「「——あっ」」



迫る彼。

同時に、俺達とは違う声が二つ。


目が合う。



「す、鈴宮さん?」

「また……お前らか」



そこに居たのは、バーベキューの時の3人だった。


目を丸くする彼女達。

多分、俺も。



「ど、ども……」

「その……そういうのは駄目だと思います……」

「」ジー


「あ?」

「ちょっみずき!」



タイミングが良いのか悪いのか分からない。


見られたくない所を見られてしまった。

けれど、助かった。



「じゃれ合ってただけだぜ、なぁ陽」

「そうだよ、気にしないで鈴宮さん。行って行って」



今の翔馬に彼女達を近付けたくない。

彼が、何をするのか分からない。


開放された身体で、笑って手でジェスチャーを取る。



「じゃ、じゃれ合いならしゃあないな! 男やしな!」

「……」

「行くでみずき! うちの十八番聞かせたるで〜!」

「」ジー

「ひ、ヒメ!」



そのまま部屋に入ってくれた。

……柳さんがずっとジッと見ていたのが怖かったけど。



「チッ……陰キャ共が調子に乗りやがって」



それよりも、三人を睨んでいる彼のほうが怖かった。

何かを企んでいそうで。


もしその“何か”があったら、俺は——



「今回は見逃してやるが、次“ああいう事”があったら覚えてろよ」

「……俺は、美咲も真由も狙ってないよ」


「ハハッお前なんて相手にされる訳ねぇだろうが」

「そうだね。だから安心して」


「ったくよぉ……要らねぇ時間取らせやがって」



ようやく気がすんだか、俺達の部屋まで戻る翔馬に。

俺は、嫌な予感を拭えないまま後を付いていく。


あの部屋に居る彼女達に、何も起こらない事を――ん?



「――!」ビクッ

「――あ」

「――ひゃっ」



視線を感じて振り返ると、どうやらコッソリ見られていたらしい。三人がドアから顔だけ出していた。

綺麗に、だんごを連想させるよう縦に顔を並べている。今ちょっとだけ崩れたけど。


……可愛いなあれ。

見ていて癒される――って。



「?」

「?」

「?」


「っ」



立ち止まってそれを眺めていたから、今度はハテナマークが綺麗に3つ並んでいる。


何やってるんだ俺は……。

どこか恥ずかしくなって、俺は元の部屋へ走って戻った。












▲作者あとがき

100☆突破!! ありがとうございます。

中々しんどい展開が多いのでぱっぱと投稿してしまいます。

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