コラボメニュー



「あーダリぃ……やっと終わったぜ」

「肉も炭の質も悪かったな、まぁ学校行事なんてこんなものだろう」


「はは……」

「あ? なんだ陽。何笑ってんだよ」


「えっごめん」


「何を怒っているんだ翔馬?」

「チッ」



バスから降りて、予約していたカラオケまで歩く。


学校の最寄り駅にそれはあるとはいえ……さっきから雰囲気が最悪だ。

主に翔馬のせいで。


愛想笑いにすら突っかかられるとは思わなかった。

やっぱり爆発寸前だ。



「そういえば陽、お前バーベキューの時に少しも手伝いに来なかったな。薄情な奴だ」

「こっちも手間取っててさ」

「まったく……数少ないお前の使える所なんだからよく考えろ」

「次は飛んでいくよ、ごめん」



次は泰斗からそう言われる。

翔馬が追い出したから、と口から出かけたが押し留めた。



「そうだぜ、なぁ真由?」

「え? ああ確かに〜! なんで手伝ってくれなかったの?」

「あー……ごめん」


「ちょ、ちょっと陽君は別に悪くなくない? そもそも別グループだし。手際悪い私が悪いから」

「美咲は悪くないよ!」


「はは……そうそう、俺が悪いから。気がきかなくてなくてごめんね」



何か違和感の様なモノを感じる。

ずっと――鈴宮さん達とグループを組んだ後からだ。



「ったくよぉ……」

「全く。気をつけるんだな」



――“楽しくない”、ここに居ても。


クラスの、カーストトップの集団に混じっているのに。


なんでだ。

ずっと、俺はここに居たはずなのに――





「すいません、予約してた朝日です」

「はい……朝日さんですね。機種はどうなさいますか?」


「LOVEDOMでお願いします」

「それではこちらの部屋番号31になります。ご一緒にフードメニューはいかがですか?」


「ああ、それは要らな――」

「あ……」


「? 美咲、なんか言った?」

「な、なんでもない!」


「そう? すいません、要らないです」

「承知いたしました。それではごゆっくりお楽しみ下さいませ」

「はい、ありがとうございます。じゃあみんな先部屋行って……ってもう行ってるね」



受付番号が書かれたボードを受け取ってから、後ろを見るともうすでに全員部屋へ向かっていた。



「ちょっ真由」

「早く歌お~美咲~」

「マジ、カラオケ好きだよな真由」



ズカズカと先頭を歩く翔馬。

後ろに付く泰斗。

美咲へ腕を組んで引っ張る真由。


いつもの光景。

聞こえる遠い声を。

走って追いかけ――ようとして足を止める。



「……」



いつもならそうしていたけれど、なんとなく今はそんな気が起きなかった。


どうせ、俺は歌えないし。

荷物はもう後で置いたら良いや。



「コーラにカルピス、紅茶と……美咲は水——」



ドリンクバーでいつも通り、4人分のドリンクを台に載せて――



「――も、持とっか?」

「! びっくりした。大丈夫だよ」


「でも……」

「良いから良いから。筋トレみたいなもんだよね」

「そ、そうかな?」



歩いていたら、美咲が走ってこちらに来た。

このグループの中じゃ……彼女だけ他の3人と違って優しい。


それは嬉しい。けれど、逆に申し訳ない。

俺なんかには構わなくても良いのに、そう思ってしまう。


あとは――



《——「美咲に何やらせてるんだ?」——》



俺が美咲に手伝わせてるのを見たら、あの三人が色々言ってくるんだ。



「……でもちょっとお腹減ったかな。小腹程度だけど」

「!」

「美咲も何か頼みたいのあったら、ちょっと言ってくるよ」

「えっ、あ……」

「何でも良いよ。頼みにくいやつでも、俺が頼んだ事にするから」



さっき、彼女は露骨に何か頼みたげだった。

かつ、あまり周囲に知られたくない感じで。


注文タブレットを操作しているのが俺なら、周りもそう思うだろうし。


……ただ、そんな頼みにくいモノとかあるか? アレかな、運動部だからあんまり食べてると思われたくないとか?

それとも普通に女の子だから食べる奴と思われたくないとか? 翔馬と泰斗が居るからあり得るかな。



「ありがと……じゃあその、これとこれ頼んでもらっても良い?」

「ああ良いよ――!? えっこれ?」


「あっ違うからね!? 別にこの“コラボ”は別に何も関係なくて、今ちょうどこのオムライスとソーダフロートが飲みたくてみたいな! 気分がね、そういう時ってない? たまに来るんだよっ3ヶ月に一回とかそんな感じでね!」

「りょ、了解」



美咲ってこんな早口で話す時あるんだ。

というかさっきバーベキューしてたんだけど……ガッツリ行くんだな。

あんまり食べれなかったのかな? 翔馬がいっぱい食べるからそのせいか?


あと美咲ってそもそもジュース控えてた様な。

まあ好みなんて変わるか。



「大分デカいけど大丈夫……?」

「だいじょーぶ!」

「分かった。3ヶ月に一度だもんね」

「あはは、うん」



ちなみに注文したらランダムでアニメキャラが写った缶バッチが貰えるらしい。

『第三王子の特製オムライス』に『第二王子の冷たく燃えるソーダフロート』。


この二つのコラボメニューはその対象だ。



「お願い……ごめんね?」

「別に大丈夫だよ。俺もなんか食べようかな、おすすめとかある?」


「!! じゃあこのパフェとかどうっ?」

「わっ分かった、了解! それにしようかな」



グイッと携帯画面を指差して迫る彼女。

思わず圧される。

当然ながら、それもコラボメニューのものだった。


『第二王子のマイペースなホワイトチョコパフェ』——ツンとしたクールな顔で横に写ってるけど、このキャラ甘いのばっかだな。



「お、お願い」

「分かった。俺も甘いもの食べたい気分だったんだ」

「そう? なら良かった……」



何がマイペースなのか分からないけど、まぁとにかく頼もう。パフェは嫌いじゃないし。


……で、これも当然缶バッチ付きだ。

さっきからもじもじしてるな美咲。


うーん。これはもう――



「あー、バッチ? が付いてくるっぽいけど、なんかに使うならあげるよ」



この注文だと、合計3つの缶バッチ。カラオケコラボ限定のものらしく……でっかく『限定!』って載っている。



「! ほ、ほんと?」

「うん」

「あは、家でちょっと缶バッチ使うから貰おうかな……別に特別欲しいってわけじゃないんだけど」


「うんうん。ならあげるよ」

「ありがとう!」



……いや、流石にこれは分かりやすいというか……。


美咲ってバレーひと筋って感じだから意外だったな。

別にそんな隠さなくても良いのに——と思ったけど、俺達のグループじゃそうなるか。


あと缶バッチってどう使うんだ……?



「じゃあ頼んどくね」

「うん! ありがとっ。缶バッチあるし、受け取るのは私がやるよ」

「了解。じゃあ行こうか」



そんな風に話し合って。

思えば結構時間が経ってしまった。



「——♪」


「おいおせぇぞ陽」

「何を手間取っている」



カラオケルーム。

入ったら、真由が歌っているところ。

相変わらず自分の世界に入っている様で助かったよ。

いつもだったら3人から言われていた。



「ごめん、たまたまコーラが大人気過ぎて行列が出来ててさ」

「全く……ん? 美咲、何かあったか?」


「な、なんでも無いよ」



謝りながら、3人に飲み物を置いていく。

後は座ってタブレットを操作——って高いなこれ!

ソーダフロート、1000円もする。パフェに関しては2000円。


まぁコラボってそういうものなのかな。

注文、と。



「……」

「(大丈夫、頼んだよ)」



こちらをジッと見ていた美咲に、無言で伝わる様に笑って応える。

頭を下げる彼女。



「——!」



そして悪寒。

見れば、翔馬の鋭い視線が俺に向いていて。



「おい陽。ちょっと来いや」



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