第6話 楽しいハロウィン



 翌年のハロウィンの晩、こっそり家を抜け出したエヴァンゼリンはコートにマフラーという冬の装いで墓場に向かった。


 初めて出会ったときのように倒れこんでいたら、約束を守らなかったと思われてしまうからだ。

 ただの口約束であったが、エヴァンゼリンにとっては一年間待ちわびたかけがえのないものだった。


 墓場のマグノリアの木の下でジェフリーを待った。

 ランタンの灯りが大きく揺らぐと、いつの間にか隣に彼がいた。


「エヴァ、元気だったかい?」


「ジェフリー! 会いたかった」


「僕もだ。さあ、うちに招待しよう」


 ジェフリーがランタンの灯りを消すと、エヴァンゼリンを抱きかかえる。

 エヴァンゼリンは星空が迫ってくるように近くに見えることすら、ジェフリーの魔力だと思わずにはいられなかった。



 ジェフリーの家は、以前訪れたときと変わらず窓がなく、けれどろうそくとランタンの灯りで優しく照らされとても暖かだった。

 ただ、ちがっていたのはテーブルの上にたくさんのお菓子が置いてあったこと。


「まぁ! お菓子がたくさんあるわ」


 彼は、人間に近づいてはいけないと思いながらも、小さなお客様が来ることを心の底では望んでいたのだ。


「君によろこんで欲しくて」


 恥ずかしそうに頬をかく彼に、エヴァンゼリンも持ってきたプレゼントを差し出した。


「もらった、ブローチのお礼がしたくて、ハンカチに刺繍をしたの。気に入ってもらえるといいのだけれど」


 ジェフリーは人からプレゼントをもらったことなどない。

 空色の糸で彼の名前が縫い取られていた。

 柔らかなハンカチからは、彼の知らない陽の光の匂いがした。



 二人は、ホットワインの湯気の中で語り合った。

 エヴァンゼリンは、丹精こめて育てたバラのことや、身長が2インチ伸びたこと、嫌いだった肉も食べられるようになったことを夢中で話した。


 ずっと、彼にあったら話そうと思っていたことばかりだ。


 頬を薔薇色に染めながら熱心に話す彼女の様子を見て、ジェフリーは自分のことのようにうれしく思った。


 灰色だった彼の時間を、エヴァンゼリンが虹色の花で飾ってゆく。


 二人はこうして毎年、ハロウィンに会う約束をした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る