第4話 アメジストの約束

「わたし、ヴァンパイアになってしまったの?」


「血を吸われただけでは、ヴァンパイアになんてならないよ。

 僕が血族にしようとしなければね」


「ううん。ヴァンパイアになってもいいの」


「そんなことを言うものじゃない」


「でも、どうせ死んでしまうなら!」


 エヴァンゼリンは堪えきれずに涙をこぼした。

 不安と緊張で押しつぶされないように、必死で耐えていたのだ。

 頬をぬらす銀色のしずくを、ヴァンパイアは手でそっと拭ってやった。

 それは、父のものとも母のものとも思え、エヴァンゼリンは安心して泣き続けた。


「僕の見立てでは、君は泣き虫だ。あんまり外にも出ないね。肉も嫌いだ」


「どうしてわかるの……?」


「血というものは、心臓から送りだされる。

 君の心を映し出す。

 ……悲しいことが続いたね」


 エヴァンゼリンはすがる気持ちで、彼に問う。


「わたしは、大人になるまで生きられる?」


「怖がらないで外に出るといい。毎日、太陽の光を浴びて、好き嫌いしないでなんでも食べる、そうすれば大丈夫。どんなヤブ医者か知らないが、君はちゃんと大人になるまで生きられるよ」


「ほんとうに!?」


「ああ、本当だとも。そうだね、バラを育てるというのはどうだろう? 君なら美しい花を咲かせることができるだろう。それが大きくなるころには、君も丈夫になってるさ」


「これは夢なの? わたしの希望を写しているだけ?」


「夢だといいたいところだがこれが夢だと、君はまた死におびえなければいけないんだね……。仕方がない、誰にも言ってはいけないよ?」


「うん。あなたのこと誰にも言わないわ」


「では、この出会いが現実であることの証にこれをあげよう」


 小さな手のひらに置かれたのは、指を突いたブローチ。

 金の台座に薄紫色の透明な宝石が座っている

「あなたの瞳と同じアメジスト。大切にするわ」


 エヴァンゼリンがブローチを大切そうに両手で包み込むのを見て、ヴァンパイアは小さな青空を守れたことをうれしく思った。


「さあ、お眠り。夜が明ける前におうちへ帰してあげよう」


 彼の声に、体が自然と従いまぶたが下がる。

 エヴァンゼリンは、促されるままに名前と屋敷を教えた。

 魔力なのだろうか? とても心地がいい。


「ヴァンパイア、あなたの名前を教えて」


 まどろみながらも、彼女はこれだけはどうしても聞かなければならないと思った。


「僕の名はジェフリー」


「ジェフリー、また会ってくれる?」


「じゃ、僕の言ったことを守って元気になったら。また来年のハロウィンにこの場所で……」

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