第4話 魔法との出会い

「魔法?」

 セリスが聞き返す。

 その手には屋台で買ったであろう焼き鳥の様なものが握られている。いつの間に……。

「そう、魔法。街では売ってるって聞いたよ」

 六歳の知識として、この世界には魔物がいて、剣や魔法で戦う人々がいる事は知っていた。ある時どうやったら魔法が使えるようになるか祖父に尋ねたことがあったのだ。

「魔法なら村でもレインもしょっちゅう使ってるでしょ」

 セリスは焼き鳥?を頬張りながら答えた。

「そうじゃなくて魔物とかをやっつけるやつだよ」

 セリスが言っているのはこの世界では一般的らしい魔法具と呼ばれる物のことだ。魔法具は前世で言う、電化製品の位置づけで手に触れて念じると使用者の魔力を使って様々な効力を得る道具の事だと認識している。例えば、この世界にはガスなどは普及していないようなので、かまどを使って調理することが一般的なのだが、その着火の際も魔法具があしらえておる事が多く、オレも祖父の家でも使っていた。ただ、炎を長時間維持するものではなく、あくまで薪や炭への着火としての機能しかない。また、飲食用の水を発生させる魔法具もあったが、これもやはり大量の水は作れなく、洗濯などには川の水を使用している。


「うーん、魔法ね。商人の娘としてはあんまり効率がいいとは思わないけど、せっかくだから、お店をみにいってみよっか」

 たしかあっちにあったはず、とセリスはオレの手を引いた。すぐに歩き出すかと思ったが、セリスは一度こちらに向き直り、オレの目の前に焼き鳥の様なものを差し出した。

「串肉、おいしいよ」

 オレの分も買ってくれていたのか。オレは礼を言って受け取った。


屋台区を抜けて、少し人通りが穏やかな道へ出る。いや、これは道を少し戻っているのか。商業区の端にその店はあった。いかにも古びた木製の建物で趣がる。絵本に出てくる森の中の魔女の家を彷彿とさせる。

「魔法具やはもう一つもう少し奇麗な店があるんだけどね」

「え、じゃあそっちがいい」

 何故この店を案内されたのだろうか。

「いやーあっちの店は冒険者の客がよく出入りしていてね。なんか近づきにくいんだよね。いや、お客さんを見た目で判断しちゃいけないんだろうけど体の大きな大人に囲まれるとちょっとね。あの人たち鎧とかで足元見えてなかったりするし」

 あー、なんとなく分かる。オレもこの体を意識してから、周りが大きく感じて怖いと思うことはある。ましてや冒険者など聞くからに体格は良さそうだ。

「それにこういう趣ある建物の方が、魔法! って感じがして、良いものありそうじゃない?」

 オレも確かに魔女の家を想起したし、そういうものなのかもしれない。


「ごめんくださーい」

 セリスも恐る恐るといった感じでドアを開ける。

 チリン、とドアについたベルが鳴る。

 小さめのコンビニ位の大きさの薄暗く静まり返った室内、壁際にはランタンがいくつか灯っている。埃っぽい空気を吸い込むと、自分の場違い感を認識する。


 すると奥にある長机に置いてあった、いかにもと言える魔女帽子が動いた。いや、よく見ると帽子をかぶった頭が動いたのだ。

 眼を丸めた店員と思われる魔女?と目があう。

 数秒の後、

「い、いらっしゃいませ」

 ボリュームを若干間違えた裏返った声が店内に響いた。


「あの、この子でも使えそうな魔法ってありますか?」

 セリスが店内に歩みを進めながら言った。

 セリスは度胸があるな。

「その子が魔法を?」

 そう言いながら店員らしき女性は自身の眼鏡を少し上げオレを見つめた。

「ダメですか?」

 何か資格とか必要なのだろか?

「いいえ、ダメではありません。ただ珍しいなと。いえ、この店にお客さんが来るのが珍しいのですが……」

 え? とオレとセリスが口にする。

「いえいえ、こちらの話です。申し遅れました。私は『マリー=ベルノート』と申します。」

「レインです」

「セリスといいます」

 それぞれ名乗る事になった。

「レイン君はどの様な魔法をお探しで?」

「えーと、魔法の事は全然知らないんですけど、自衛が出来たらと思って……」

「うんうん。知らない事は別に悪くないよ。じゃあ属性鑑定はした?」

「ぞくせいかんてい?」

「殆どの人間は魔力があるけど、それは必ず一人一属性なの。それを事前に調べて、その属性の魔法を覚えるのが一般的だよ」

 そうなのか。

「じゃあとりあえず、属性鑑定をしてみようか」

 そう言ってマリーは屈むと、下の棚から水晶球の様なものを取り出した。大きさはリンゴほどだろうか。

「じゃあこれを握って魔力を流し込むだけだから。やり方は家で魔法具とか使ってるでしょ? それと同じ要領」

 なるほどと思い水晶球を手にする。何となく眼を瞑り両手に力、もとい魔力を込める。

 うっすらと目を開けると、手元の水晶球は青く光っていた。

「うん。水属性だね」

 マリーは納得したように呟き、オレから水晶球を受け取った。

 水属性……、これは使い勝手がいいのだろうか? 自衛、つまり攻撃に使うとなると、火とか雷の方が良いイメージではあるが。何もわからない。

「そういえば、属性っていくつあるの?」

「基本的には火、水、地、雷、風、光の六属性だよ」

「基本的にはっていうのは?」

「えーっと、これは学問的な話になっちゃうんだけど、属性には普通の人の使えない闇属性や、聖属性っていうのがあるの」

「どうしても使えないんですか?」

「うん。闇属性は魔族が扱う属性で、聖属性は昔大聖女様が行使したとされる魔法で現在使える人はいないんだよ」

「あとは別属性ってわけじゃないけど、種族とか一部の固有の魔力特徴があって、それは亜種属性って言われてるよ」

「ちなみに私は地属性だよ」

 セリスがオレに話す。何かが頭に引っ掛かる。

「え? セリス家で着火とか水の魔法具使ってなかった? っていうかオレも水以外の魔法具使ってたけど」

「あー、魔法具はね中に魔力の変換機が入っててどの魔力属性でも同じ効果が得られるようになってるの」

「……じゃあ、炎の変換機を使えばオレにお炎の魔法が使えたりするんですか?」

「お! 呑み込みが早いね。そうそう、その通り。さらにそのアイテムに魔法式を組み込んでおけば、君でもすぐにファイヤーボールとかも使えるよ。ただし問題があって……」

「問題?」

「魔力の返還はすごーく効率が悪いってこと。使う魔石によるけど、一般に出回ってるのは、変換率が三割未満が殆ど。多分家庭で使われてる一割未満じゃないかな? あ、効率とか変換率って分かる?」

 マリーはオレにそう尋ねたが、オレは聞こえていなかった。だから魔法具は着火だけなど、効力が限られていたのかと腑に落ちたと同時に心配になった。水属性で自衛ってできるのかなあ。



 


 

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