第5話 魔法との出会い 2

「浮かない顔だけど、何かわからない事でも?」

 マリーがオレの顔を覗き込む。

「あの、水属性の魔法って自衛は出来るんですか」

「そりゃあもちろんできるよ」

「……」

「魔法の属性っていうのはね、多少の得手不得手はあるけど、優劣は無いものなんだよ。少なくとも私はそう思う。水属性だと確かに攻撃、防御に関して突出して優れているわけではないけど、無くてはならない属性だ。現に冒険者だとの人気魔法属性は水が一位か、二位だと聞いたことがある」

「へえ、水属性は優れているってことですか?」

「だから優劣は無いんだよ。ただ、攻撃も防御も確かに出来るとだけ言っておくよ」

「少しはやる気になったかい?」

「はい」


「で、魔法なんだけど購入型の魔法ってことでいいのかな?」

「購入型?」

「ああそうか、そこら辺の説明もいるのか……」


 マリーがそう呟くと同時に、深く低い音が聞こえてきた。その音は急速に近づいてくると、次第に地面を揺らし、マリーの魔法店を揺らし始めた。地響きが店内の家具や商品にも影響気し、ガタガタと揺らす。

 セリスはオレを抱き寄せ身を低くした。マリーは棚の下に隠れた様だ。


 少しして、三人と立ち上がる。

「いったい何だったの?」

 とセリス。

「地震?」

 とオレが口にすると、マリーも答える。

「そう、地震と呼ばれる現象だ。最近になってこの街で起こる様になった」

 そう言いながらマリーは棚を見渡し、破損したものが無いかチェックし始めた。

 この国でも地震は起こるのかと地震の多い日本を知っているオレは思う。だが知らない人にとってはやはり恐ろしいだろうなとも思う。そもそも原因は日本の時と同じものなのだろうか? そんな事を考えていると、

「だれか―!! 手伝って!!」

 外から大きな声が聞こえてくる。


 慌てて、オレたちは外に出た。

 すると崩れた建物が目に入った。はす向かいの建物が、先ほどの地震の影響だろう、見事に崩れ切っていた。もはや何の店だったかもわからない。

 そしてその傍らには、先ほどの声の主であろう中年の女性が崩れた建物を動かそうとしていた。

「中にまだ主人が取り残されてるんです」

 女性は再び叫んだ。

 周囲の人は遠巻きに見る者、己の無事を安堵するもの等様々だが手を貸そうとするものはいない。どこからか子供の泣き声も聞こえる。


 セリスがすぐにそちらに駆け寄ったので、オレも後に続くが走りながら考える。今のオレたちに出来ることなどあるのだろうか? 前世であれば救急や消防を呼ぶ場面だろう。だがこの世界、この街にそういった組織はあるのだろうか? 六歳の体でどうするべきなのか?

 建物の瓦礫の元にオレたちはたどり着いた。女性はまだ瓦礫の一部を持ち上げようとしているが、あまり効果はない。それでも動かずにはいられないのだ。状況を考えると、この瓦礫の中にまだ店長が取り残されているのだろう。それが分かってオレも何かしなくてはならない事は分かる。何かするべきだとも思う。ただ何もできなかった。

 セリスも同じようで、ただオレと立ち尽くしてしまった。


「二人とも、少し離れてなさい」

 遅れてたどり着いたマリーは息を整えながら言った。

 オレとセリスはあっけにとられてマリーを見るが、マリーはオレたちの前に立った。

 マリーはオレに振り返り、ニコリと微笑み再び瓦礫へ向き直る。


「水球の抱擁イントゥー・ルードゥ・サクァイ


 マリーがそう唱え、杖を掲げると周囲に大小さまざまな水の球が発生する。

 さらに杖を動かすと、水球は小走りの様な速さで瓦礫に取りついた。


「舞え《グラビタス》」


 次にマリーがそう呟くと水球が取りついた家の瓦礫が次々と持ち上がる。そうしてその下から現れた瓦礫にさらに他の水球は取りつき持ち上げ、外に運び出す。

 ものの数分で瓦礫の中から倒れた店主が発見された。

 女性が駆け寄り声をかける。

 店主はぐったりとしているが、息はあるようだ。

 辺りは少しの歓声と驚きの声に包まれた。

 

「先ほどの地震で被害がある方はいませんかー」

 離れたところから声がする。

 この街の消防にあたる人だろうか。オレにはそれはひどく緩慢なものに聞こえた。

 命が助かったことに安堵しオレはその場に座り込んだ。 


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