007 限定条件

 呪力にはもちろん限りがある。


 ステータス上はSSSと書いてあるが、=無限ではないい。


 今日は朝から昼に狩り、夜にも狩りをしていた。


 残りの呪力を考えなきゃいけない。


 だが、もう一つ大事なことがある。


 ――人間と戦う。


 この三か月で、俺は何度か冒険者と小競り合いをしたことがある。

 といっても、お互いに殺すつもりなんてなく、狩場での言い争い程度のものだ。


 だが母親の取り乱していた様と、俺たちが見かけた男たちの風貌、さらに奴隷商人は腕っぷしが強いとも聞く。


 いずれはあるだろうと思っていたが、相応の覚悟をしておく必要がある。


『――1キロ先』


 こっくりさんの声が、俺の思考の覚悟を揺るぎないものにした。


 しかし、俺の表情に気づいたのか、イヴが声を掛けてきた。


「もしもの時は、私が全員――やります」


 兵士の時もそうだったが、イヴは俺のことを一番に考えてくれている。

 宿でも、食べ物でも、できるだけ負担にならないようにいつも一番安いので構わないと言ってくれる。


 わがままなんて一切言わない。どんな時もだ。


 だが――。


「俺たちは二人で一つだ。イヴ」


 そんなことはさせない。


『――200メートル』


 かなり近づいてきた。

 歩幅を緩め、足音を消していく。


 すると、火がみえてきた。


 小さな明かりだが、こっくりさんの指定した位置と同じだ。


 俺がそう認識した瞬間、『案内を終了します』と消えていった。


 視界をかがめ、岩陰からのぞくと、十数人の男たちがいた。

 その横には、猿ぐつわをされている少女がいる。


「おい、こんなとこでのんびりしていいのかよ」

「少し休んだら出発だ。どうせこの時間、冒険者は酒を飲んでるよ。兵士だってすぐには動けない。なんだお前、心配なのか?」

「そういうわけじゃねえけどよ……」

「大丈夫だ。夜に狩りにでる冒険者はほとんどいねえ。それに今回は上玉だぜ。平民の癖にそこそこの魔力を持ってやがる」

「こいつもバカだよな。平民が魔力を持って歩いててもいいことねえのによ。顔も可愛いし、いくらになるだろうなあ」

「ほとぼりが冷めたらまた帝都に戻ろうぜ。一年は遊んで暮らせるだろうしな」


 その掛け合いに、今すぐにでも飛び出しそうなくらいはらわたが煮えくりかえる。


 だが奴隷はこの世界において絶対的な悪とされているわけじゃない。

 生きる手段として自らを売ったり、悪いようにせず、働かせる為に買う人もいるからだ。

 もちろん、自身を奴隷として売る人もいる。


 だがこいつらは違う。


 私利私欲の為に罪もない子供を捕まえ、その彼女の前で恐ろしい雑談を楽しんでいる。

 いま彼女の心は恐怖でいっぱいだろう。


 ――許せない。


 そんな俺の横で、イヴが下唇を噛んでいた。

 血がにじむほどに強く。


 自分自身を重ね、俺以上に感じているのだ。激しい怒りを。


 だがここで飛び出せば彼女がどうなるのかわからない。

 それをわかった上で、俺の指示を待っている。


 あくまでも冷静にいこう。


「イヴは後ろに回ってくれ。――俺が注意を引く」

「わかりました」


 そしてイヴは身体を屈ませながら少し遠回りしていく。

 呪力を流し込んでいると、姿が見えなくとも近くであれば位置がわかる。


 イヴが奴隷商人の後ろ側に到着したと分かった瞬間、声を上げる。


「ま、魔物だぁ!」


 俺は、叫びながら前に出る。

 丑の刻参りの良いところは武器を持たないでいいことだ。


 丸腰に見えるだろう。


 男たちは騒ぐぎながら、俺の後ろにいるかもしれない魔物に注意を向けた。


「なんだと?」

「どれだ?」


「あ、あそこに!」


 必死に俺は闇夜に指を差す。俺から視線を外したバカどもにイヴが――。


「――バカが」

「……は? ギャアアアアアアアアああああああああ」


 男の一人の右足を――遠慮なくぶった切った。血肉が飛び散り、一斉にイヴに視線を向けた。


 既に少女はイヴが移動させている。

 

 男のうち数名が、騙されたことにすぐに気づいたらしく。剣を取り出し、魔力を漲らせる。


 だが反対に俺は武器を出現させ、五寸釘を既に空中で停止させていた。

 残りは九人、四人を――一気に仕留める。


「――どこみてんだ?」


 思い切り恨みを込めて釘の底を叩く。

 それは全て男たちに向かって、空中で巨大化し、それぞれの身体に命中した。


 だがこれだけでは死なないだろう。


 魔物と違って防御魔法耐性ってのは、人間のほうが以外と高い。


 しかし俺の釘はただダメージを与えるだけじゃない。


 呪禁で身体能力低下、防御力低下、魔法防御力低下、呪いの効果が付与を付与している。

 もちろん金縛りもだ。


 それに五寸釘は簡単には抜けない。

 

 ただの釘じゃなく、呪力で構築したものだからだ。


「ぎゃああっああ、なんだこのガキャァッ!」

「殺せ! こいつら、冒険者だッ!」


 気づいたみたいだがもう遅い。俺とイヴは挟み込んでいる。


 短い期間だが、俺とイヴは本気の戦闘を何度もしてきた。

 

 視界の有利は、それだけ強い。前と後を両方見るのは不可能だ。


 続けてイヴがもう一人の足をぶった切る。


 残り三人、釘が刺さった連中もすぐに動くかもしれない。


 そしてそのうちの一人が、イヴに剣を振りかぶった。その動きは速い。

 血生臭い奴隷商人をしている以上、腕が立つのはわかっていたことだ。


 だからこその先行有利を取った。しかし人数差は未だ不利。


 イヴは、チャクラを解放し、禹歩うほで近づいて身体をぶつけた。

 態勢を崩した男に斧を振りかぶって、腹部を斬りつける。


「くっっぅっ、つぎぁぁああああああ」


 致命傷かどうかはすぐに判断ができないが、そんな生易しくはないだろう。


 俺は一度、五寸釘を解除。

 そうすると奴らの身体から消えるが、ふたたび出現させ、間髪入れずに打ち込んだ。


 それは強いダメージとなり、うめき声をあげながら倒れこむ。


 しかし最後の一人がとんでもない魔力を漲らせ、悪態をついて逃げ出そうとした。


「クソッ!!」


 俺は咄嗟に一本の釘を解除し、手を伸ばして釘に肉片・・を装着させた。

 だが男は気にせず、闇夜に消えていく。


 追いかけてもいいが、この暗闇の中は魔物もいるかもしれない。


 だが俺たちは顔を見られた。


 奴隷商人は組織で動いている。大元がいるだろう。

 復讐ってのは厄介だ。


「――アディル様」

「ああ」


 それに少女を放置できない。残りも全員死んでいるわけじゃない


 やるべきことは、一つだ。


「お前みたいなクソ野郎に、呪われる覚悟は必要ねえ」


 そして俺は、藁人形に釘を刺し――思い切り叩きつけた。


 次の瞬間、離れた場所で断末魔が聞こえる。そしてそれは、すぐに止んだ。


 そのとき、イヴが一人の男に狙いを定めた。

 既に抵抗できないほどの傷を負っているが、首に狙いを定める。

 行動を予測し、俺は手を前に出して止めた。

 

「アディル様、私はあなたと同じ気持ちを分かち合いたいのです」

「道徳を説くつもりはない。だが、無意味な殺しは意味がない」

「……わかりました」


 俺の気持ちが伝わったのか、ゆっくりと斧を降ろした。


「イヴ、少女を母親の元に返すぞ。残りの犯罪者たちを縛り上げて連れていく。重労働だ。魔物も集まって来るかもしれない。急ぐぞ」

「はい。ですが、戻っても大丈夫……なんでしょうか?」

「大丈夫だ。俺がなんとかする」


 二重依頼のことで兵士は怒っていた。既に上への報告は済んでいるだろう。

 どんな処罰を受けるのかがわからない。


 しかしそのとき、脳内にアナウンスが響く。


『限定条件『人殺し』をクリア。限界突破。レベルが上がりました』


 な……んだと?


 そこには、俺の新しいスキルが、表示されていた。


  New:『形代』呪力を込めて装備しておくことで、ダメージを軽減、または防ぐことができる。

  New:『陰陽五行』地面に魔法陣を展開し、敵対象にを与える。同時に自身を含む味方対象に加護を与える。


  New:『死の宣告』対象に五寸釘を差し込み『刀印』で呪いを付与する。対象の抵抗力に応じて秒数がカウントされ、0になると死に絶える。


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