サヨナラはあっけなく
「来てくれたんだな」
「守屋さん、ここ俺の実家なんで」
俺たちは今、清瀧寺の庭にいた。
弥勒義兄の穏やかな声、線香の香が俺たちを優しく包み込む。
「
「そうでしょうか」
「少なくとも、俺はそう思う」
守屋刑事は空を見上げ、落ち着いた声でそう言った。その横顔はどことな
「
「あぁ、精神鑑定中だ。アイツの中には、複数の人格が存在していてな。まぁ、難航してるよ。俺も直接話したが、訳がわからないことばかりだ」
「参考になるかわかりませんが、
俺は慣れないスーツを正しながら、
「彼女は日々変わっていく
守屋刑事は何も言わず、じっと俺を見つめていた。
「そしてあなたは、ずっと彼女を探してたんですね。だから女子大生失踪事件に興味を持った。違いますか?」
「さぁな」
図星のようだ。
話はこれで終わり、と言わんばかりに守屋刑事はポケットを弄る。そして何やら取り出した物を俺に見せた。
「これは、アイツが身に付けていた物だ。俺が20歳の誕生日に贈ったんだが、うんともすんとも連絡がなかったから、俺には祝うことも許されてなかったんだな、って思ったもんだ」
「これは?」
「お前が持っておいてくれ。その方がアイツも喜ぶと思う」
それは、クロスのチャームがついたネックレスだった。そう言えば、
「守屋さーん、弥勒さんが呼んでます!」
斗真の声が聞こえた。
『ボクちゃん』
守屋刑事が去った後、俺は
「
『会いたかったかな?』
俺は何も答えられなかった。
『う〜ん、最後までボクちゃんは女の子の扱い0点だね』
「いいんだよ。俺はこれで」
『ありがとう。それを伝えたかったの。ほら、体も見つけてもらったし、そろそろ旅立たないと乗り遅れちゃうからね』
「
俺、
『しーーっ。それ以上は言わないで。私も旅立ち辛くなるから』
「あぁ」
俺はそっと
「お父さんに伝えておきたいことある? 守屋さんもずっと後悔していたみたいだよ」
『うん。知ってる。あの被害者の写真を私たちに見せてくれた時、わかったよ』
「そっか」
俺は気になっていた事を、思い切って尋ねた。
「
少し驚いた表情を見せた
『うん。もう大丈夫。あとは彼自身が自分で考えて回答を出す番だよ。警察に捕まったのであれば、被害者が出ることもないでしょ?』
「そうだな」
『あのね、ボクちゃん。ううん、
「えっ?」
『大好きだよ。長生きしてね』
俺は初めて名前を呼ばれた気がして、びっくりした。俺の名前知らないんじゃないかと思ったくらいだったから、すごく嬉しくなった。
「な、なんだよ。それ」
『ありがとう。斗真くんにもよろしくね。彼を大事にしないとダメだよ。約束」
なんだなんだ? なぜここに斗真の名前が出るんだ? 俺は消えゆく彼女にツッコミを入れる。
『ふふ、
そう言うと、彼女は風と共に小さな粒となり消えていった。
「なんだよ。俺に何も言わせないつもりかよ」
俺は景色が滲んでいくのを自覚し、空を見上げた。もう二度と会えない彼女の事を想い、涙していた。
* * *
「よ、お二人さん」
俺と斗真が駅に向かって歩いているところ、吹っ切れたように爽やかなダミ声が聞こえた。守屋刑事が新品の喪服姿で後ろから歩いてきたのだ。
「守屋さん、もう弥勒義兄との話は済んだんですか?」
「あぁ〜、お前たちも帰るのか?
寺ではゆっくり休めないんで、と俺は三度説明をする。
「そうだ、
俺は守屋刑事に釘を刺す。学くんの件もうやむやにしてはならない。
「あぁ、わかったよ。また何かわかったら連絡してやる」
俺たちはいつの間にか並んで歩いていた。
「で、お前たち。これからどうするんだ?」
「まだまだ学生なんで、勉学に勤しみますよ。な、斗真」
話しかけられた斗真の目がキラキラしている。なんだ? 何か悪いこと考えている目だ。
「俺たち、探偵業を始めようと思うんです」
「俺たち?」
斗真の勢いが止まらない。
「な、
「あのなー」
「おぉーいいじゃないか。仕事なら、どんどん回すぞ」
俺のことなどお構いなしに、守屋刑事と斗真が意気揚々と会話を進めている。
「いえ、結構です」
「そう言わずに〜」
俺たちはそんなくだらない話をしながら、並んで歩いた。
全てが解決したわけじゃない。でも一人の女性を救えたんだって、自信を持って今なら言える。
俺は空を見上げ、ポケットの中のクロスを握り締めた。
END
霊視探偵 碧海 の事件簿 ~女子大生失踪事件!と怪しい彼女~ 桔梗 浬 @hareruya0126
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