対決の時
「如月さん、大丈夫ですかね」
「大丈夫だ。あいつはあれで黒帯の持ち主だからな。大抵の男は簡単に投げ飛ばされるだろうよ」
守屋刑事の落ち着いたダミ声が腹に響く。心配なのは一緒だ。
今俺たちは例の公園で身を潜めていた。いつでも飛び出せる場所にいて、雪乃に扮した如月刑事を見守っている。
時刻は23時をまわろうとしていた。「今日」という時間は、残りわずかだ。誰もが「場所が違うのではないか?」と思い始めたその時、全身黒に身をまとった人影が現れた。
「
守屋刑事の拳に力が入る。俺もごくりと唾を飲み込んだ。
「
男が如月刑事の側に歩み寄る。彼女はまだスマホから顔を上げない。
この場所からだと、男の顔のほくろまでは見れない。俺は迷わず奴に向かって歩き出していた。
「お、おいっ」
守屋刑事の声がはるか遠くに聞こえた。でも俺の体は歩みをとめることはなかった。それは
「お前が、空か?」
急に声をかけられた男は、驚いて俺の方を振り向いた。その顔は月明かりに照らされ、ハッキリ見ることができた。
間違いない。左目の下の泣きホクロ、
「誰だ?」
「何故殺した? 何故…
「……!」
俺の言葉に
俺には分かっていた。
俺はそのことだけを考えて、
すると、フワッとした可愛らしい声が聞こえてきた。
『ボクちゃん、待ってたよ』
その声は、
「
『もうやめよう。私がずっと側にいるから、もう寂しくないでしょ?』
俺をすり抜け、彼女は
斗真がベンチから立ち上がり、何か言おうとしているのが見えた。全てがスローモーションだ。
「やめろ!
『ごめんね、ボクちゃん』
その
俺がその気配に気を取られたその瞬間、腹部に強烈な痛みを感じた。
「えっ?」
「お前が、俺たちの
『ボクちゃん!』
「くっ…くくく。邪魔な奴は排除」
次の瞬間、
その時、強烈な爆風が起きた。音もなく激しい空気が如月刑事をぶっ飛ばした。薫くんに吹っ飛ばされた時と同じ現象が起きたのだ。
「み…
「は、ははは。面白い。いつも空はへまを犯すんだ」
『ユニ…だったのね、空を返して。そして、この人を傷つけることはゆるさない』
目の前にいる
そしてもう一人、ユニと言われた男は自信満々な笑みをたたえ狂喜に満ちた瞳で
「死人に会えるなんてな。面白い。面白いぞ! 良いだろう、お前の足をスキャンさせてくれるなら、空のこと考えてやっても良いぞ。マザコンの空ちゃんは、暗闇で膝を抱えてお前が来るのを待ってる」
異様だと感じた理由はこれだ。空とユニ、彼らは同一人物でお互いを認識し合ってる。
俺は痛みに耐え、目の前の豹変した男と
これ以上、
「や、やめろ…」
「いいぞ、
瞬間、
「
『騙されない。ユニ…』
「くっ…」
俺は守屋刑事に助けを求めるも、周りの皆は白黒の世界で止まっているかのように見える。
「
俺の声は届かない。
「こいつを殺して、楽にさせちゃダメだ」
『……』
「君の想いを聞かせてくれ。薫くんと同じとこに行かないでくれ」
一瞬、
「
腹の痛みが背中、全身を巡る。それでも俺は
『ボクちゃん…』
その時、
「くっそ、
「ははははは、殺せ! 俺が死ねば空も死ぬぞ」
『ゆるさない…』
そう言うと、
「
俺は叫び、彼女に飛び付いた。触れることは出来ないとわかっていても、俺の体は動きを止めない。
でも違っていた。
俺はしっかりと彼女を抱き締めていた。彼女の哀しみ、悔しさ、恐怖。それだけじゃない、楽しかった思い出も全部共有するかのように、俺は彼女をしっかりと抱き締めていた。
「君があっち側に行くなら、俺も一緒に行くよ。もう苦しまないで」
『ボクちゃん…』
「俺が殺る」
何より、
「お前のことは許さない」
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