第19話 試し試される枠とバチ その2

「あなたのだいたいの人柄。防御の硬い能力を持っているということ。そういうことはおかあさんから聞いている」


 人柄って。オリカはどんな評価してくれてるんだ? 気になる。


「ただ、人から聞いたことばかりでなく、自分自身で接してあなたのことを知りたい。だから力を試させてほしい」


 おっと。オリカの評価は置いておいて、今はトーと向き合おう。


「もちろん。入団すれば一緒に仕事をするんだし、どんな人間か知りたいのは当然だと思うよ」


 彼女の真剣な眼差しに、オミからもらったおでこのメガネに触れ、グッと覚悟を決める。オミならば彼女の真摯な要請に真剣に応えるだろう。僕もそうしたいと思う。


「そしてこれはあなたが私のことを判断する場でもある。私の実力が足りず、あなたのおメガネにかなわなかった場合、残念だけど無理にチームメイトになってもらえなくても仕方がない。ただ、そのメガネはとても素敵なので、おメガネにかなわなかったらすごく悲しいけど」


 メガネほめられた! おお、うれしいな。


「大丈夫、その言葉で何が何でもチームメイトにして欲しくなった」


 オミのメガネを褒めてくれた人はみないい人に違いない! そういう人とはぜひチームメイトになりたい。


「いや、その顔。メガネを褒められて、喜び過ぎじゃない?」


「このメガネの良さを分かってくれたんだよ? こんなに嬉しいことはないよ」


 それにしても、僕が彼女を判断する場でもある、か。少し考えが足りていなかった。たしかにそうだ。チームメイトになるならお互いの力を知っておかなければならない。


 そして、一方的に彼女が僕を試す場ではないことを伝えてくれるなんて、なんというか、公平な人だな。そんな人と知り合えてありがたい。気を引き締めよう。


「入団試験って何するの? 私全然考えてなかったや」


「おかあさんは〈不の付く災〉と対峙したときに彼の守りの力が必要だと判断して、チームに誘ったのだから、私との一対一の模擬戦でどうだ?」


「ヒデンでんは攻撃力はあまりないからトーちゃんがケガすることはないと思うけど…… チームメイトになるかもなんだし、ヒデンでんにケガはさせないようにしてよ?」


「ケガはおかあさんが治せばいい」


「なんか物騒な話してるみたいだけどお手柔らかにお願いしますよ?」


 この世界の人たちは基本「どーせケガは治癒能力で治せる」って思ってるよね?


 痛いのは変わらないのに。


「でもオリカの言う通り、僕って攻撃手段がないから、負けは見えてるんだけど」


「勝負の勝敗と入団試験の結果は別だ。その力がふさわしく、お互い納得がいけば仮のチームメイトとなる。ということだな」


「なるほど、納得したよ。それで、その後もチームとしてやってみて、正式な入団に値するかどうか見極めていくんだね?」


「その通りだ。承諾してもらえるかな?」


「オーケー」


「結構だ。今日は着いたばかりで疲れているだろう。明後日、"なろうワーク"の裏庭で試験を行おう」


 来たぞ、初めて聞く固有名詞だ。この世界特有の固有名詞を知っていくごとに、ここに馴染んでいっているようで嬉しい。


「"なろうワーク"って何?」


 僕の疑問にはオリカが答えてくれた。


「"なろうワーク"っていうのはいろいろな仕事を紹介してくれるところだよ。オミさんの依頼もそこで紹介してもらったんだ」


 前世でいう"ハローワーク"みたいな感じか。


「"いろんな職業の人になろう"っていうことでそう名付けられたみたい。"引っ越し屋になろう""掃除屋になろう"とか。変わったところでは"小説家になろう"みたいなのも見たことあるね」


「そしてそこに"ヒカグチ村で岩塩採掘師になろう"という仕事があったと」


「そういうこと。あれは楽しく美味しくスリルもあって、いい依頼だったよ」



《》 《》 《》 《》 《》



 そして、約束の日が来た。全員で"なろうワーク"に歩いて向かう。


 そういえば後回しにしてたことがあったけど今聞かねば!


「オリカ。子供いたんだね」


 ジトッとオリカの顔を見ながら訊ねる。よくももてあそんでくれたわねっキー! とハンカチの端をかみそうな心境だ。


「え? いやいや私に子供はいないよ? あー! トーとニイのこと? あんなに大きな子供いるような年齢に見える?」


 オリカは両手をぶんぶんと横に振りながら否定する。


「そうはいってもこの世界で見た目と年齢が一致するのかわからないんだよね。若く見えたり、老化を軽減する《ドレス》能力があるのかもしれないし」


「ないないないない。いや世界にはそういう能力持ってる人もいるかもしれないけど、私は持ってないよ」


「じゃあなんで"おかあさん"って呼ばれてるのさ」


「あの二人が小さいころから世話してたし、なんかそう呼ばれるようになっちゃって……」


 なるほど幼なじみなんだな。


「私としてはせめて"お姉ちゃん"がいいんだけど、もうそうなっちゃってて…… トーとニイの両親はご健在なのに」


「ええ?! じゃあ本当の両親のことは何て呼んでるの?」


「パパ、ママって」


 そこで、ニイとならんで先を歩いていたトーが振り返って訊ねてきた。ポニーテールが揺れ、髪からオリカとはまた違うクールな芳香が漂ってくる。


「私たち姉妹の名前が聞こえたが、おかあさんと何の話をしている?」


「なんでトーはオリカのことを"おかあさん"って呼ぶのかって話だよ。"お姉ちゃん"じゃダメなの?」


「"おかあさん"の方が頼りになりそうだろう? おかあさんを尊敬しているからそう呼んでいる」


 なるほど、尊敬している度合いが呼び名に現れているわけか。ふむ。


 しばらくすると、複数階建ての大きな建物が見えてきた。


 エントランスの間口が広く、入り口の上に雨除けの屋根が張り出していて、前世で言う何かの庁舎のような雰囲気がある。


 おそらくあれが"なろうワーク"なんだろう。そう思っているとオリカとトーがあれが"なろうワーク"の建物だということを教えてくれた。

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