編集 3章 ジメジメする季節は水回りにご注意を

第18話 試し試される枠とバチ その1

 二人を乗せた浮遊スクーター型の《アクセサリ》、【ヴィノ】は快調に街道を進んでいく。


 顔や体に当たる風はオリカがコントロールしてくれており、風圧は感じないし、会話も問題ない。二人乗り用に僕の背中にはちょっとした背もたれもあり、負担は少ない。


 道行く人の中には【ヴィノ】を見てびっくりした顔をする人もいる。ただほとんどの人は「いい《アクセ》を持ってるなあ」という感じだった。


 風系の《ドレス》持ちの人は風で後押しして速く走ったり、スケートボードのような《アクセ》で移動している人もいた。


 人によって《着力きりょく》の大小はあるが《ドレス》が生活に根付いているようだ。


 移動中はオリカといろいろな話をした。一番最初はオリカから注文だった。


「お互い敬語をやめませんか? 年も近いし、これからチームメイトになるかも知れないですし」


「オッケー」


「早っ!」


「あはは、まあそれくらいにはもう仲良くなってるだろ?」


「そうね。初めての共同作業として、〈不燃物〉の膝に《枠》入れしたもんね。ケーキ入刀みたいに」


「ぶふっ、ゲホッ。あれにそんな重い意味は無いだろ?」


「ふふふっ、でも息はピッタリだったよね」


「それは間違いない。あのときは本当に助かったよ。ありがとう」


「どういたしまして。あれで私も命を救われたようなもんだからね。お互い様」


 オリカは【ヴィノ】を使って色々なところに旅行するのが趣味らしい。


「色んなところへ行ってるよ。チームメイトの一人は絵を書くのが好きで、景色のいいところはよく探してる。もう一人は食べるのが好きだから美味しいものを探す旅行もよくするの」


「オリカも食べるのは好きだよね」


 〈不燃物〉のモモ肉にかぶりつく姿を思い出す。


「それはもちろん! そんなふうに景色や建物を見たり、美味しいものを食べたりする旅行が多いかな」


「へえ、僕も一緒に行きたいなあ」


「一緒に行こう行こう! 【ヴィノ】ちゃん四人まで乗れるし、人数は多い方が楽しいし」


 街道沿いには、時々飲食店が固まって営業している場所がある。オリカがその内の一軒を見て言った。


「あ、あそこの食堂美味しい気がして、気になってたの。そろそろご飯にする? 私そういう美味しい店を嗅ぎ分ける勘を持ってるの。信じる?」


「この中から選んだ一軒か。その言葉信じてみましょう。楽しみだ」


 オリカの嗅ぎつけた食堂は確かに美味しかった。本当に美味しいものを探し当てる勘を持っているらしい。


 これからも美味いものにありつけそうでワクワクする。


 それからの道中も景色の感想を言い合ったり、お互いの好きな食べ物の話をしたり、話題が途切れるとなぜかしりとりをしたりした。


「えーと、イカ墨」 「うーん、水着」


「え? こっちって水着とかあるの?」


「あるよー。私も持ってるし、夏はやっぱり海でしょ。もう少し慣れたら海水浴にも行こうよ」


「それは楽しみだ」 「水着が? 海が?」 「ノーコメント」 「ふふっ」


 おしゃべりは楽しかったし、天気はいいし、前方の髪からいい匂いしてるし、控えめに言って最高の旅路だった。



《》 《》 《》 《》 《》



「ゴールドゥの町に入るよー」


 あっという間に二日が経ち、目的の町に着いた。


「まずは、私達が拠点にしてる宿に行くけどいい? "ナワ亭"って言うの。値段の割に部屋は広いし、ご飯も美味しいの」


「初めての土地だし、その辺はおまかせするよ。よろしくお願いします」


「オッケー。ではでは参りましょー」


 "ナワ亭"は三階建ての建物で、一階が受付と食堂、二階と三階が宿泊施設になっていた。オリカ達のチームは長期宿泊割引でかなり安く泊まっているらしい。


「この時間なら二人とも裏庭にいるかな」


 いよいよチームメイトとのご対面だ。この年になっても知らない人と会うのは緊張する。


「あ、いたいた。おーい! トーちゃん! ニイちゃん!」


 父ちゃん? 兄ちゃん?


 オリカの呼びかけに裏庭にいた二人の人物が反応した。画板を使って鉛筆で風景を描いていた女性、そして身長と同じくらいの長さの模造剣を素振りしていた少女だ。


「あ、おかあさん。お帰りなさい」


「かあちゃん、お帰りー」


 か、母さん?!?!


 オリカが女性と少女に近づいていく。


「ヒデンでん、こっちこっち!! 紹介するよ」


 ヒデンでん?


 ?????


 急に出てきた新情報を整理しきれずに、頭にクエスチョンマークをいっぱい浮かべていたと思う。


 ふとオリカを見ると、いたずらっぽく笑っているのが分かった。あ、これ面白がってわざと二人のことを詳しく教えてくれるのをやめてたな。


 平静な顔を作って三人に近づく。


「あれ? もう普通の顔? 面白くないなー。トーちゃん、ニイちゃん、この人がヒデン君。ヒデンでんはあだ名ね。親しみやすいかなぁと思って今つけたんだけど」


 今つけたんかい。


「ヒデンでん、こっちの子がトーちゃん。こっちがニイちゃん」


「こんにちは、ヒデンでん」


「こんにちは……」


 あだ名は親しくなるにはありがたいので、文句は言わず、そのままにする。


「こんにちは。ご紹介にあずかりましたヒデン、ヒデン=オーツです。えーとトーさんとニイさんでいいですか?」


「ああ、わたしがトー、トー=アースヒル。この子は妹のニイ=アースヒル。おかあさんは私のことを"トー"と呼んだり"トーちゃん"と呼んだりする」


 凛とした涼やかな声だ。むちゃくちゃ気になるけど、ひとまず"おかあさん呼び"のことはおいておこう。


「敬語はなくて構わない。チームに入るかどうかは置いておいて、年も近そうだし、これからこの町に滞在するなら付き合いもあるだろう。私もあなたに敬語は使わないが構わないか?」


「オリカとも敬語なしでやっているのでOKだよ」


 トーと名乗った女性は黒髪をポニーテールにまとめ上げていた。テール部分の一部はプラチナゴールド色をしており、きらびやかに輝いている。


 切れ長の目、通った鼻筋、薄めの唇、シャープな顔のすごい美人だ。身長は僕より高い。


 それにしても


「足、長いなあ」


 つい口をついて出てしまった。


「そうでしょそうでしょ。この子すごくスタイルいいの」


 そういうオリカもスタイルはいいほうだと思うが、トーは本当に足が長い。


「ずいぶん、かあちゃんと仲良さそう……」


 そう呟いたのはニイだった。この子はオレンジゴールドの髪をボブカットにしていた。


 パッチリとした目、愛嬌のある鼻、ぽってりとした唇、ホワッとした可愛い顔でかなりの美少女だ。身長は僕よりやや低い。


「ヒデンでんには命を助けてもらったし、この二日間一緒だったしね。仲良くなったよ」


「二日間二人きり……」


 そうニイがつぶやくのを見ていたトーがこちらを向き、僕を真正面から見据えながら通告してきた。


「さて、じゃあ早速だけど、仮入団試験の話をさせてもらえるかな」


 来たね。望むところだ。どんな試験なんだろ?

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