第17話 ひと手間が大切なのです

「では早速。じゃがいもの下処理をしていきます」

「いよ!!」


 ぼわわわわわわわわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!


「……まず、タワシなどで表面についた泥を洗い流します」

「へいっ!!」


 ぼわわわわわわわわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!


「……次に芽をくり抜きます。芽にはソラニンなどの毒素が含まれています。これを摂取すれば食中毒の症状を引き起こす危険がありますので(弥生様には問題ないでしょうが)包丁の角などでくり抜いて、しっかり取り除く必要があります。また、皮が緑色になっているじゃがいもも要注意です。芽と同様に毒素が含まれているので、皮は厚めにむいて、緑色の部分を必ず取り除いてください」

「イエスッ!!!!」


 どぅうわわわわわわわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!


「え~~~~と……弥生様…………それ止めていただけませんか……? 耳がやられて平衡感覚がなくなってきました」

「え~~~~なんでぇ~~~~コレちょっと気に入ってきたんだけど~~~~」

「……でしたら毎朝の目覚まし代わりに私が叩かせていただきますので……」

「はい撤収撤収っ!!」


 そんな暴力たまったもんじゃない。

 昭和時代のバラエティじゃないんだから。

 慌てて部屋のすみに転がす弥生。――――こぉわわん。


「……皮をむいたら薄くスライスして水にさらします」


「あ~~それよくやってるけどさぁ、アク抜きでしょ? ……なんかいまいち意味がわかんないんだよね。水に浸けるだけでいいの? そもそもアクってなに? いろんな野菜で同じことするケド、揃いも揃って同じ方法で大丈夫なの?? ゴボウとかも水にさらすんだよね???」


 昔から常々思っていた疑問。

 なんとなくそういうものだと気にしないでいたが、せっかくの機会だしまとめて聞いてみることにする。


「ああ、それはですね――――」

「簡単にね。簡単によ?」


「……すぅ~~~~(思案中)……そもそも『アク』というのは『エグ味、苦味、渋味、臭味』といった、人が不快に感じる成分のことを言っているのですね。……そしてそれらは〝たまたま〟みんな水に弱い性質を持っておりまして……なので水に浸けておくと溶けて抜けてしまうんですね」


「へぇ~~へぇ~~へぇ~~~~(* ̄∇ ̄)ノ"Ω ヘェヘェヘェ~~」


「……ちなみに重曹を使う場合もありますが、これは重曹で植物の繊維を柔らかくして水を浸透しやすいようにしているのです。ワラビなどの山菜には重曹を使うと良いですね」

「あんたも使ってるんだ?」

「いえ、生憎今はありませんので、茹でて柔らかくしております」

「それでもいいんだ?」

「はい。アク抜きは料理の基本です。それだけに方法はいろいろあり奥深いものなのです」

「なぁ~るほど」(じゃあぜんぶ彭侯ほうこうにおまかせしよう)


「では、アク抜きをしている間に油を作りましょう」


 どさり。

 説明しながら彭侯は、大きな謎の白い塊をまな板の上にのせた。


「これは?」

象豚ゾウトンの背脂です。これをラードに加工していきます。とは言ってもとても簡単な作業ですが……」


 彭侯は背脂を細かくサイコロ切りにすると中華鍋に放り込み、少量の水を加えた。

 焦げ付かないように火加減を中火にしてしばらく待つ。


「おお~~~~どんどん透明な液体が滲み出てくる~~」

「はい。これがラードです。脂肪がきつね色になるまでじっくりと火を通していきましょう」


 途中に出たアクをすくいながらゆっくりかき混ぜていく。

 すると油が抜けてしぼんだ脂肪が、こんがりキツネ色になってきた。


「では頃合いですので火を止めて、ザルでしてやります」


 とろろろろろろろろろろろ……。

 受け皿に薄茶色い油が、そしてザルの中には残りカスがたっぷりと溜まった。


「これは油カスと言いまして、これも立派な食材になります。チャーハンや野菜炒めに入れるとコクが出てとても美味しいですよ」

「ぜひ頼むっ!! よろしくお願いっ!!!!」


「茶色い油は布で濾し、細かい不純物を取り除きます。それを冷ませば白く固まり、完成となりまずが、今回はすぐに使うのでこのまま調理に入りましょう」


 じゃがいもを水から上げ、一枚一枚丁寧に紙の上に並べ水分を取る。

 もう一枚紙をかぶせ、両面を挟んでぎゅってしたら、もう後は揚げるだけ。


「ではいきます。弥生様、これを持ってお待ち下さい」

「これは?」


 渡されたのは、小皿の上にのせられた岩塩の粉だった。

 じゅわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ~~~~~っ!!!!


「揚げ物は揚げたてが一番美味しいのです。1000年ぶり、せっかくの大好物ですから最高の状態でお出しいたします」

「お……お前は……この……。そ……そんな反則技……はぁはぁ」


 芋が揚がる、こんがり香ばしい匂いに唾液が止まらない。

 容赦のない飯テロ攻撃に、弥生の中にいる腹の虫は完全に戦闘態勢へ入った。

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