第15話 いいもの見つけた

「うんみゃ~~~~甘ぁ~~~~~~~~い!!!!」


 白く固めた水飴を口いっぱいに頬張って、甘露かんろもだえる弥生。

 大根の汁を使っているせいか大根風味だが、それが逆に美味しかった。


「本来はクセの出ないもち米と麦芽で作るのですが、料理に使うのでしたら大根風味でも問題ないでしょう」

問題無い問題無いほんらいないほんらいない


 幸せそうな主人に満足気に微笑む彭侯ほうこう


「はい。これでようやく、一応ですが料理の『さしすせそ』が揃いました。これによりさらに美味しい料理をご用意できるかと思います」

「苦しゅうない、苦しゅうないぞ」





 岩魚いわなモドキの煮付け(醤油、生姜)

 山女魚やまめモドキの味噌焼き(味噌、酒、水飴)

 狸モドキ肉となすの甘酢みぞれ炒め(醤油、酢、水飴)

 野生きゅうりの酢の物(酢、醤油、水飴)

 ミョウガの甘酢漬け(酢、水飴)

 庭先きのこ汁(味噌)

 彭侯の気まぐれ山菜おこわ(醤油、酒、水飴、岩塩)

 ぬか漬け(ぬか、塩)

 べったら漬け(水飴、塩、酢)

 なめたけ(醤油、水飴、酢)



 それからしばらくバラエティに富んだメニューが続いた。

 水飴の甘味は砂糖と比べると弱いものであったが、味噌や醤油などとの相性は抜群に良く、料理にコクと深みを与えてくれた。

 もちろん大満足の弥生であった。


 そしてある日の朝。


「弥生様。朝餉あさげのご用意ができました」

「まってましたぁ~~~~」


 いつものごとく朝風呂と朝酒を楽しんだダメ人間もとい、弥生。

 今日の朝ご飯は『赤米ご飯、大根の味噌汁、鮎モドキの塩焼き』そして……。


「ぬおっ!? 納豆あるじゃん!??」

「はい、昨夜仕込んでおきました」

「マジで!? やっほ~~~~~~い!! 私、納豆大好き~~~~~~!!」


 大喜びな弥生。

 さっそくかき混ぜ、醤油をたらし、ご飯にかける。

 そしてパクリ、くるくるくる(糸を切っている)


ふっほうっまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!」

「有難うございます」


 口から垂れた糸をキラキラ光らせながら大感激。

 なつかしい旨味成分が口いっぱいに広がった。


「あ~~~~いいわぁ~~~~。やっぱり朝は納豆ご飯にかぎるわぁ~~~~。なんだが活力がみなぎってくる感じよ~~~~っ!!」


「これは特に丹精を込めて仕込みましたから」

「なに? いつもの『んにょにょにょにょ~~~~』じゃないの?」


「いいえ。あれでも良いのですが、せっかくのなので自然発酵でじっくりと仕上げました」

「? ふ~~~~ん。納豆ってどうやって作るの?」

「簡単ですよ。煮た大豆に納豆菌を付着させ発酵させるだけです。40~45℃の温度で一日置けば完成します。納豆菌は稲ワラから採取しました」


「へぇ~~~~~~~~。そんな暖かい場所ってあったんだ」

「露天風呂の湯口がちょうど良い感じだったので。置かせてもらいました」


「…………どうりでなんか臭うと思ったわ……」





 お昼まで、弥生は散歩に出かけた。


 ネットやゲームはもちろん、漫画やライトノベルすらないこの世界では、時間を持て余してしょうがない。

 彭侯に遊んでくれと頼んでも「お外に行ってらっしゃい」と断られた。

 家電も無くなってしまったいま、家事も大変らしいのだ。

 だったら手伝ってやればと声が聞こえてきそうだが、役割分担こそ家庭円満の秘訣だと思っているので領分は侵せない。


「彼、作る人~~。私、食べる人~~~~♪」


 呑気に鼻歌を歌いながら森を散策する。

 こだわって作った◯酒印の酒徳利を肩にひっさげ、ほろ酔い気分。


 途中、キノコがいっぱい生えていた。

 草袋も持ってきていたので片っ端から採取する。

 どれが食用かさっぱりわからなかったが、そこはそれ、彭侯せんもんかがいるので問題ない。

 しばらく歩くと坂が穏やかになり、やがて平野になった。

 森の中にぽっかり原っぱが広がっている。


「昔はここらも家が建ってて、田んぼや畑があったんだよねぇ~~~~」


 草の香りを吸い込みながら郷愁にひたる。

 なんだか不思議と、アスファルトの匂いも感じてしまい、切なくなった。

 記憶が飛ぶほどの時間生きているが、なんだかんだ、1000年前の文明が一番好きだった。

 いろいろ問題はあったし、きっとそれが原因で滅んでしまったのだろうが、とにかく楽しかった。またあんな娯楽が誕生するまでどのくらいの時間がかかるのか……考えると気が遠くなる。


「……ん、あれは…………?」


 少し離れた所に見覚えのある草が生えていた。

 高さは膝くらい。手の平くらい大きさの葉っぱは『ザ・葉っぱ』と言っていいほどに葉っぱな形をしていた。


「これって……もしかして…………?」


 期待に胸膨らませ、引いてみる。

 ――――ごぼ……ごぼぼぼぼぼぼ。


「やっぱり!! じゃがいも!!」


 土を割って出てきたのは思ったとおり、じゃがいもだった。

 むかし芋掘りの手伝いをしたことがあったので覚えていたのだ。


「やったぁ~~~~~~!! これでポテチが食べられるかも~~~~!!」


 ポテチ以外にも肉じゃが、カレー、ポテトサラダなど料理の献立は無限大。

 世界で一番作られていた野菜。万能フード『じゃがいも』!!

 これはぜひ持って帰らねば!!


 弥生はあるだけ、袋に詰めれるだけじゃがいもを詰め込んだ。

 すぐにパンパンになり持ちきれなくなった。

 それでもなんとか隙間に押し込もうと、つかみ取りワゴンセールの主婦ばりに試行錯誤していると、


 ――――ズシンっ!!!!

 突然、地面を揺るがす大きな音が。そして、


『ぶるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!!!!』


 背後から、殺気だった獣の唸り声がした。


「は?」


 振り返ると、


「!!?? ――――でっかっ!? なにアンタ!??」


 そこには見上げるほどの大きさの巨大な豚(?)がいた。

 見た目は豚だが大きさはアフリカ象。

 皮膚も象のように灰色で分厚そう。

 縄張りを荒らされたとでも思っているのか、真っ赤な目で弥生を睨みつけ、すぐにでも襲いかかってきそうに殺気立っていた。

 

 少し離れた木の陰には、震えて事の顛末を覗く、謎の犬もいた。

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