宴が明けたら、宿屋がないと言われて

 ◆◆◆


「いや~~~、面白かったわ~~~♪」


 地上の陽はずいぶんと前に沈み、くの人が眠りにつく時間。

 客人の話を聞く場が解散となった後、場の余韻を味わい尽くしたウレイラが満足げにホワァと息を吐いた。


「まさかお姫様が盗賊団をしばいて回るなんてねー。騎士顔負けの戦闘力を持った姫はさぞ強かったんだろうなぁ~」

「強いっちゃ強いが、振り回されるほうは大変で仕方なかったそうだぞ」


 最も身近な存在だったヤツの本人談なので間違いない。


「それにしても、やっぱり地上には海の中にない無いものがたくさんあるのね。ますます興味がわいちゃう~」

「そういう言葉はあたしゃが居ないとこで吐きなよ、こんバカ娘が」

「どこで言ったって地獄耳で聞きつけてくるんだから関係ないでしょうが!」

「あんたの声がデカすぎるだけだろぅが。自覚をしな、自覚を」


 二人が愉快な言い合いをしている様子を見守りながら、グラッドは話しすぎて渇いた喉を潤すために飲み物に口をつける。サンゴの街で出てきた飲み物は独特の癖があって慣れないと飲みづらい。


「これ酒だよな? 何が入ってるんだ」

「近海で獲れた海産物のエキスだよ。地上じゃお目にかかれない貴重品さ」


 アルサーがからかうようにニヤッとすると、グラッドはなるべくバレないようにしつつも少しだけ眉をしかめた。その一方で食べ物はかなり美味しくいただいており、海藻サラダに甘塩のスープ、特に獲れたて魚と貝の盛り合わせは絶品だった。


「焼いたり蒸しても旨いんだろうなぁ……」

「おっとお客さん、わかってるじゃん。でも、そうやって食べたいならちゃんと払うもん払ってくれないとだねー」


「お前はこの店の看板娘かなんかか」

「こんなに可愛い看板娘がいたら、このお店はもっと大繁盛してるって」


「逆だよ逆。とちりすぎて閉店一直線になるだろさ」

「マジョ様ちょっとツッコミがキツすぎない!? せっかく人が高級料理を注文させて店の売り上げに貢献しようとしてるのに」


「売り上げに貢献?」

「ここは仮にも海の中。熱を使うような料理は作れなくもないが扱いが難儀でね。手間暇かかる分、値段も上がるのさ」

「そいつもまた陸と海の違いってヤツか」


 ふむふむと頷きながら、グラッドがテーブル上に並んでいた料理の残りをたいらげる。腹も膨れたところで、次にどうするべきかはもう決まっていた。


「なあ、この街の宿ってどこにあるんだ?」

「宿?」

「寝床は決めておかないとだろ」


 旅人として当然の話をしたグラッドに対して、ウレイラの反応は鈍い。なんでそんなこと気にしてるのかなーといったご様子である。


「グラッド」

「なんだアルサー」


「この街に空き家はあっても宿屋はないよ。旅するヤツが少なすぎて商売として成り立たないからね」

「マジかよ」

「マジもマジだよ。だから、あんたはウレイラの家にでも泊まっておけばいいさ」


「は?」

「王子様が家(ウチ)に!? いやっほーーーーー♪」

「はしゃぐんじゃないよ! 客人なんだからしっかりもてなしな!!」


「そうと決まればパパとママに紹介しなくっちゃ! さ、いこいこ! すぐに行こ早く行こ!」

「おいこら引っ張るなって。ウレイラお前時間が経つにつれて遠慮がなくなってきてるぞ!」


 人もはけたはずの店内が騒がしさを取り戻していく中、グラッドは半ば引きずられるようにウレイラの家へと向かうハメになった。

 そして、ウレイラの家族に事情を説明する際に、


「パパ、ママ! この人が私の王子様だよ! 末永くよろしくね♪♪」


 娘の発言をよろしくない方向に勘違いした両親がグラッドに詰め寄る珍事もあったのだが、その話が街中に広まるのはさすがにグラッドが食い止めたのであった。



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