第19話 レクサント

『ナローアレイ、確認しました。進入、着港を許可します』


「了解。降下に移り指定ポートへ着陸します」


 レクサントに到着後、駐留艦隊の面倒な確認作業を経てようやく着港の許可が降りる。


「やっとかよ。結構待たされたな」


 シンデンがうんざりした表情で言う。


「周りにもたくさん船が集まってるね。みんな私達と一緒なのかな?」


「まだ相互の交信ができないけれど、その認識で間違いないわ。どれも宣誓者の乗艦よ」


 おやつの疑問にウィンネスが答える。


『てんちゃん、私達の方はひと足お先に降りてるから、待ってるね』


「はい。こっちも降下したら合流します」


 せりなのロストコーズ含め、艦隊を共にしていた他の皆の艦は既にレクサントへ降下。着港済みだ。


「降下開始します。備えてください」


 デルの合図で立っていたものは皆シートに移動し、ナローアレイが降下を開始する。


「大丈夫かな?どきどきする!」


 おやつは横に座っている砲術長の顔を見ながら緊張を言葉に表した。


「安心してください。何も怖いことなんてありません」


 砲術長の女性、スーはニコリと微笑んで返す。実際何事もないように船は地表に向かってどんどん降下していく。


「あおぞら!」


 観測装置がこれまでの真っ暗だった世界とは違い、元の世界で見慣れた広く明るい青空を映し出す。


「ふふ、空見て嬉しくなるなんて夢にも思わなかったな」


 テンションが上がって大きな声を出しているおやつをみて、てんも気が緩んで呟く。


「あら、宇宙よりも空のほうがお好み?」


「どっちが好きとかじゃないよ。なんていうか、安心感だよ」


 ウィンネスの問いかけに答えつつ、観測映像をじっくり見る。地表が遠くに見える。向かっている宇宙港はあのあたりだろうか、SMOでレクサントに降り立ったことはないためどんな場所かわからない。一体どんな感じなんだろうか、頭の中には色々なことが巡る。



 降下が進み、いよいよ目的の宇宙港の姿が見えてくる。


「うわぁ、すっごい大きいね」


「レクサントの第1宇宙港は駐留艦隊全てを着港させてもまだ余りある巨大なスペースポートです。隣接する艦隊司令部や商業都市化された居住区もとても大規模なものになっていますよ」


「へぇ~、楽しみ!」


 おやつとスーはにこやかに会話をしている。眼下に広がる宇宙港、巨大な円を描くような形で様々な設備が配され、その中心にはこれまた巨大な司令部があり、そこから付随する施設や都市部が並んでいく。

 元いた現実では見ることのない、かなり壮大な光景だ。


「大都市、そんなレベルじゃないなこれ。すげえ」


「SMOではでかい星に降りたこと無かったけどこんなんなんだな……シンデンは来たことあるか?」


「お前一緒にやってたんだからわかるだろうが。ねえよ」




 ナローアレイが都市部の上空を通過しながら指定されたポートへ近づいていく。そこでは花火のような特殊効果が次々と放たれていた。てんはそれを指差しデルに問いかける。


「これは?」


「艦隊の歓迎式典が行われているようです」


「……お祭り?」


 指定ポートに到着し、艦は着陸体勢へ映る。


『ナローアレイそのままどうぞ。トライエフ、緩衝濃度で散布済みとなります』


 指定ポートの管制官から連絡が入り、艦は着艦用のエリアに進入。着陸を行う。


「着陸完了しました。こちらで補給、整備など必要な手続きは行いますので艦長とみなさんはすぐに移動をしていただいて大丈夫です」


「うん、ありがとう」


「はぁー!ようやく外に出られるな」


「案内は私がするからついていらっしゃい」


 ウィンネスに連れられ、てん達はブリッジを後にする。廊下を通り、エレベーターに乗り、船外へ向かう。


「わぁ!風が吹いてる! ねぇ、風が吹いてる!」


 外に出るやいなや、船外の空気の流れを肌で感じおやつが歓喜の声を挙げた。


「うん、そうだね」


 てんも空を見上げて、恒星がもたらす陽の光を受け止める。よく知った心地よい感覚だ。他の皆も深呼吸したり、背伸びをしながら地上の感覚を味わっているようだ。


「あれに乗りなさい。司令部まで行くわ」


 ウィンネスが前方を指差すと、そこに駐まっていた車両のハッチが開いた。




 乗り込んだ車両から流れ見えるのは船、船、船。かなりの数の船が着港している様子だ。


「これがみんな宣誓者の船ってことなんだよね……」


「そうよ」


 規模が大きすぎるし距離も離れているため目で見て数えるのは難しいが、数十で済むなんてことはないであろうことは予測できる凄い数だ。しかもここで見えるのは分けられた陣営のうちひとつだけ。全体ではかなりの数のプレイヤーがこの世界に召喚されたことがわかる。


「んで、今から何するんだウィンネス?」


「……そうね、偉大なるヴィッグリア神さまとのご対面といったところかしら」


「え?神様と会うの?」


「そう、偉大なる、ね」


 驚くおやつにウィンネスはなんとも言えない表情で返す。


「僕たちの陣営の、神様……」


「ええ。心しなさい」


 

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