第20話 オープンウォー 1

 車両から降り、建物に案内される。中は広く、座席こそ無いもののホールのような作りをしている。


「みんな!待ってたよ!」


 そこに先行していたせりなやハシモットー、エンバランスドのでみ倉達が待っていた。


「せりなさん」


 てんが駆け寄る。通信で姿を見ることは合っても乗艦は別。実際に顔を合わせるのとでは安心感が違う。


「顔見ると安心するよ~」


 ナローアレイにはおやつやシンデン達が乗っているがせりなやハシモットーの船には他に宣誓者はいない。どちらもアウェーの中に一人でいるようなものだ。


「僕も、元気な顔が見れてホッとしました」


 周囲には他にもたくさんの人間がいる。大半の容姿が特徴的なため外見だけでも判断可能だが、腕を見れば皆それぞれオースバンドが光っているのが確認できる。宣誓者達だ。


「……見たことある人いる」


「あそこにいる人、ほら、そう! あれって確か…」


 おやつとハシモットーは知っているストリーマーを見つけたようだ。確かに、てんも知っている、見たことがある顔がちらほら確認できる。


「シンデンさん!」


 大きな声がして、シンデンが振り向く。そこにいるのはエンバランスドのでみ倉だ。


「助けてもらったでみ倉です! 顔合わせたときにお礼言いたくて……本当にありがとうございました!」


 ショートボブの髪を揺らし大きく頭を下げるでみ倉。


「ああ、あんなの気にするなよ。それに実際に助けたのはこいつらだ」


 シンデンが親指で後ろを指すと、そこには得意げにキメ顔で佇むガンバとマシカクがいた。


「あ、その節はどーもです!!」


 二人にも大きくお辞儀するでみ倉。


「他の二人は?」


 エンバランスドには、乗艦が航行不能になって収容された宣誓者があと2人いたはずだ。確か女性Vと男性配信者である。


「なんか、船がなくなったりしたひとたちだけで集まりがあるみたいでそっちに連れてかれましたね」


 そうか、と相槌をうってシンデンも周りを見渡す。人でごった返ししているためそうそう見当たるはずもないのだが、逃げたシェイムレスの艦長がここまでたどり着けたのかが気になってしまう。


「せりなさん、あの……珠姫さんと鍵巻さんは?」


「うん……探したけど、多分ここにはいない……」


 てんは召喚直前の、SMO内で最後の戦闘を共にした珠姫と鍵巻の事を尋ねるもどうやら見当たらないようだ。


「ここにいないってことは……」


 せりなは暗い表情で俯いたまま力なく呟く。


「……」


 ここにいない、つまりここまでたどり着けなかった。もしくはここがではないということ。


「あ、でも他に知り合いも結構いたんだよ。時間があれば紹介したいな。てんちゃんたちも知ってる人だと思うし、もしかしたらコラボとかしたことあるかも?」


 沈黙を破るように、せりなは取り繕うような笑顔で仕切り直す。


「どうだろう? 僕ってソロ配信ばっかだったからあんまり友達いないですよ?」


 自嘲気味な笑顔で返すてん。実際配信歴は浅めだし、好きなゲームを気ままにやっていた関係上あまり配信者同士の交流はあったとは言い難い。


「皆、ここで動かず固まって待っていて頂戴」


 ウィンネスがぱっと、姿を表す。


「待機?」


「ええそう。もうしばらく辛抱なさい」


 そう言ってまたふっと消えようとするウィンネスを呼び止める声がする。


「ウィ~ンネェス、今日も変わらずごきげんナナメかしらぁ?」


「……ミスキィー」


 そこには淡い黄色のドレスを着た少女が立っている。ウェーブの掛かった金髪、頭の上に光輪のような装飾物が浮かんでおり、幼気だがその風貌からウィンネスと同じ使徒であると予測できる。


「え~とぉ、い~ち、にぃ~い、さぁ~ん」


 挑発的な表情でてんやせりなを順に指差し数えだす。


「———しぃ~ち、はち!あらぁ~……たったの八人なのね…」


 ウィンネスの連れている宣誓者を数え終わると、泣き真似のような仕草をしながら煽る。


「10人よ」


「あら、私ったら数を数えられないなんて恥ずかしいわ。もう一回数え直させてねぇ」


「……2人は、乗艦を失ったから再編成組に行ったわ」


 ウィンネスの返答を聞いて、ミスキィーは驚いたような演技をした後大きく笑い出す。


「あはははは!それじゃ数に入れちゃあダメじゃない!相変わらずやる気ないわねぇ。ヴィッグリア様にお叱りを受けるんじゃあない?」


「あなたに何か言われる筋合いは無いわ」


「感じ悪ぅ~い、ミスキィーは悲しい……」


 悲しいと言いつつ、ニタニタとしている。愛らしい容姿とは真逆で態度も口も悪い。ウィンネスの態度や口調もお世辞にも良いとは言えないが、これはまた感じの違う雰囲気だ。


「あ、皆さんごめんなさいねぇ。私はミスキィー、偉大なるヴィッグリア神の12番目の使徒よぉ。ま、あなた達と関わることはそうそうないかもしれないけれど。それじゃあバイバイ」


 形だけの挨拶をして消えるミスキィー。ウィンネスとのやり取りを見ていただけでてん達はまだ言葉を交わしていないが印象は最悪。


「……それじゃあ後で」


 ウィンネスも続くように消える。


「なにあれ」


 そう言うおやつの表情は嫌悪感に満ちている。他の皆も内心思うことは同じだが。


「……そういやウィンネスも自分のことを10番目の使徒だとか言ってた気がするな。ああいのうが他にもいっぱいいるのかね」


 ハシモットーが過去を思い返して呟く。ウィンネスも癖があるが、さっきのも強烈だ。全員尖っているとは限らないものの、それぞれ個性は強そうなイメージ。


「顔は好みだったけどな」


「マ?ロリコンじゃねえか」


 マシカクの感想をガンバがぶった斬る。リアルないかつい成人男性が言うのだから余計に良くない。なんというか、生々しくて気持ちが悪いのだ。


 談笑する二人をよそにシンデンは黙りこくって考え事をしていた。


———10人よ。


 先程のウィンネスの言葉を思い返す。


(シェイムレスは、駄目だったのか……)


 シェイムレスの艦長、彼は仲間を置いて逃げたがそこに悪意があった訳では無い。ただただ恐怖心にかられて逃げ出しただけだ。

 もっと上手く説得していれば、もしくはチームを分けてシェイムレスにも戦闘機を残しておけば、たらればを考えたらきりがない。だが、全員がここにたどり着ける方法があったのではなかったかとどうしても思ってしまう。


(これってどうなんだ? 俺は逆にシェイムレスを見捨てたのか?)


 考えがまとまらない。ぼんやりしているところに大きな電子音とともに空中にホロディスプレイが表示され引き戻される。そこにはホールの奥のステージの壇上が映し出されていた。


 壇上に光の粒子が集まって一際輝いて消える。周囲もいよいよ何かが始まるのかとざわつき始める。

いつの間にか、壇の周囲にウィンネスやミスキィーを始め使徒たちが列をなして並んでいた。


『あー、こういうときはなんというのかな? テステス?』


 スピーカーからか、音声がする。高い声からすると女性だろうか。


『見えているのかな? 聞こえているのかな? ん?』


 声はすれども姿は見えない。使徒の一人が壇に近づくと、頭を垂れながら片手で天を仰ぐような仕草をする。


『ああすまないね。壇が高すぎたようだ。』


 ふわっと、壇上に声の主が浮かんで現れる。それまで後ろに隠れてしまっていたようだ。


『やあやあ、私が君達の主神となるヴィッグリアだ』


 そう名乗る声の主の姿、金髪おかっぱ頭で身長はかなり低い。まるで……というより子供そのものだった。


『まあよろしく頼むよ』


 神を名乗った少年は、口だけで笑顔を作った。

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