第18話 イージーモード

「確認できる敵影は24、クラブタイプカニが18でクレイタイプザリガニが6です。いずれもこちらにまっすぐ向かってきています」


「超長距離索敵、付近の警戒を強めて」


 航路2度目のワープアウトの直後、敵影が補足された。この広大な宇宙で待ち伏せでもしていたのだろうか。不可解ではあるがこちらに向かって来る以上対処の必要がある。デルの報告を受けたてんは対処を思案する。


「格納庫から入電です」


『ミナホシ、こっちはいつでもいけるぞ』


「発艦のみで艦に随伴お願いします。他の艦と連絡を取ってから攻撃の判断をします」


「了解。他の二人にも伝えとくぜ」


 シンデンが頷いて通信を落とすと、入れ替わるように艦長席前のモニター類に様々な情報が送られてくる。


『てんちゃん、作戦共有、よろしくね』


 各艦との通信でせりなから艦隊展開図、攻撃目標の指示などが送られてきていた。インディサイシブ、エンバランスドはそれに従って行動を開始する。


「対空砲の制御はこちらでします。うりんさんは練習通り主砲の制御補助をお願いしますね」


「はい!」


 おやつは砲術士席で砲術長と他の砲術士に挟まれて座っている。緊張はしているが気後れはしていない様子。


『今回も数が少なすぎる。増援だったり伏兵には要注意だな。デミちゃん準備は?』


『問題ナッシングです。ちゃんとついていきますよ!』


 ハシモットーとエンバランスドの艦長でみ倉、通称デミちゃんが連携を取って戦闘機群の先頭を散らしにかかる。先の戦闘でエンバランスドは軽微な損傷を負っているが戦闘には支障がない。


「こちらも配置OKです」


 てんは展開図通りの進路を維持し、敵の動きを見定める。せりなのロストコーズも同様に前進をしている。戦闘開始だ。



 

 各艦の宣誓者合意の元、艦隊は航路をORCAの加盟惑星の1つレクサントに向けていた。理由としては現在地点から最も近い惑星であることと、レクサントがSMOの設定と同じならば加盟惑星の中で最も豊かであり資源も豊富であることが挙げられる。


 レクサントまでの道のりは、4度のワープが必要となる。各艦いずれも連続2回までワープ可能な性能を有しているが基本的に1回ごとにストックを残したままワープコアの回復を図る必要がある。2回のうちの1回は保険であり、緊急事態用。常に残しておくことが望ましい。


 航路計算を済ませ、各艦のワープリンクを形成し跳躍。こうして2度目、丁度半分ほどに差し掛かったあたりで狙いすましたかのように敵が現れたわけである。




「クラブタイプ、6機撃墜を確認」


「航路維持。クレイタイプの動向に注意して」


 僅かに先行した2隻の駆逐艦が敵の前衛を苦もなく叩く。残った敵は動きを変えず、相変わらず単調に前進を続けている。




———わざわざ各個撃破されるような動きをしている

 今回の敵もそう、襲撃をしてくるものの効果的な攻撃をしてこようという意志がまるで感じられない。わざわざ多彩な動きをしないようにパターンで制御された、一騎当千をするタイプのゲームに出てくる雑魚敵のようだ。

 こうなる以前、SMO内で現れていたNPCキャラクター達はいずれも複雑な動作や反応を見せていたためそれらとは全く比較にならない。


 現にてんたちの艦隊を前にクラブタイプはみるみる数を減らし、最早戦局は決したようなものになりつつある。




「クレイタイプ2機、エンバランスドに接近」


「戦闘機隊前進で両艦の援護に。本艦は進路を維持します。」


 シンデン達が随伴飛行から離れ駆逐艦の援護へ。てんとせりなの艦はそのまま広がっていき、前進してくる敵を包むような陣形をとる。


『ここまできても増援の気配がない……』


 せりなが警戒しつつも、困惑した表情で呟く。戦闘宙域周辺に何かが現れた反応も無ければ、新たに索敵で探知されたものもない。ただただ少数の敵が攻撃を仕掛けてきただけなのだろうか。







「皆無事で何よりね」


 結局敵は増えることなく、各艦の連携で処理された。良く言えば快勝、完全勝利だ。自軍に損害はまったくない。


「ウィンネス……これって、何か理由があって手加減されてる、とか?」


「さぁ……あれらの動きに不可解と感じるところは私も同じよ」


 てんはウィンネスの口調や様子を観察する。ある程度あれが何なのかを知っているようだ。ただそれはまだ明かせない内容であることと、全てを把握しているわけでは無い、といったところだろうか。


『通常航行に移行しましょう。あ、次のワープまで警戒を怠らないようにね!』


「了解です。シンデンさん達が戻ったら隊列に戻りますね」


 一息ついて深くシートにもたれかかる。おやつの方に目を向けると同じようにしている様子が見て取れた。砲術長達とゆるい笑顔で何やら話しているようで関係は良好そうだ。すると、目の前にまた別の通信表示が現れる。


『これより着艦する……が、本当にもういないのか?』


 シンデンより念を押しの通信だ。てん自身も、というより皆同様の違和感を抱えている。だが今のところは本当に残敵の確認がされない。もう脅威が無いのだ。


「怪しいですけどあれだけだったみたいです。その、お疲れ様でした」


『……わかった』


 釈然としない表情でシンデンは通信を切るが、てんも全く同じ気持ちである。


「レクサントについたら、何か変わるのかな?」


「……恐らくいろいろ、ね」


 独り言のように小さく溢れたてんの言葉に、ウィンネスは含みのある物言いで答えた。

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