厳しいなあ

 雄大と太一の実力ははっきり言って普通の高校野球レベルほどだった。バッティングや守備は最低限の動きはできるものの、それ以上の実力はないと感じた。康太の言うそれ以上というのは大学野球で通用する力があるかどうかという認識だ。だが雄大のポテンシャルは思っていたよりずっと高い。足は速いし、肩も強い。それにすこぶる明るくて元気だ。雄大の底知れない明るさは組織スポーツで最も大切なことである。金井が言うように二人しかいない野球部を辞めずにここまで続けてきた精神力は康太の目から見ても見上げたものだ。しかし問題なのは太一のほうだった。体つきは恵まれているが全体的にちぐはぐで動きと言うより反応が鈍い。分かりやすく言えば覇気がない。おそらく太一は雄大の明るさに引っ張られて野球部に残ったのだろうと直感的に思った。


 たかが三時間足らずの練習でそこまで分かってしまう自分はこの世界に長く身を置きすぎたと帰りの電車に揺られながら康太は変わりすぎさる町や車の流れを横目で追い越していた。


 たった二人の野球部員と寄せ集めの七人による合同チーム。


 一ヶ月と数日か――。頭で思い浮かべて嫌になる。


 そんな短い期間で個人の技量や力が向上するのだろうか? それよりもチームとして成り立つものなのか。野球はそんなに簡単なスポーツではない。それは康太が一番よく分かっている。付け焼刃の急造チームが勝てるほど野球の世界は甘くはない。例えどんなに個人や周囲がそれを望んだとしても、思いだけではどうにもならないことを痛切に誰よりも痛切に理解していた。


 時間がない。とにかく時間がない。


 考えて没頭しいて、気がつけば春日部を通り越し、せんげん台まで電車を乗り過ごしていた。


「やべぇ、またおっちゃんに怒られる」


 つぶやいて慌てて下車し、反対ホームに向かって階段を登る。


 人の波を避けようとして踊り場で対向者と体がぶつかりよろけそうになると、無意識に右足を庇い床に手をついてしまった。


「きびしいなぁ」


 そうつぶやいて立ち上がり、康太はまた歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦力外スラッガー うさみかずと @okure

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ