再開した幼馴染 2

 いったんお祭りはお開きになることになり、俺はアンヌを村の露天風呂へと案内することにし、その間に母さんがアンヌの着られそうなパジャマと明日着ていく服を選んでくれることになった。

 この村は北側に幾つもの露天風呂がある為家にはお風呂がない人が非常に多い。

 だって歩いて数分ぐらいでお風呂があるし、露天風呂の中には個室性になっている場所もあるので不便しない。

 アンヌはすっかり調子を取り戻したようで、鼻歌交じりで俺の前を歩く。

 足元にはとりあえずと用意された子供用の小さい赤いリボンのついた靴を履き、スキップをしながら露天風呂へと向かう姿はまさしく子供だ。


 これがあの高身長でナイスバディのグラビアモデルかというほどの女性だったとは誰も思えないだろう。

 まあ、俺も一緒だが。


 すると一つ目の露天風呂を通り過ぎそうになったところでアンヌが足を止めて俺を引き留める。


「ここ露天風呂じゃないの? ここで良いじゃない」

「そこは混浴だぞ? それでもいいのか? お前そういうの気にすると思っていたが?」

「貴方は気にするわけ?」

「まさか。同年代の男女で風呂に入っていても欲情しない自信があるね。それに俺はロリコンじゃないし」


 俺のロリコンという発言に反応したらしいアンヌは一瞬表情を曇らせてニヤっと笑いながら挑発的な発言を繰り出した。


「なら一緒に入っても問題ないんじゃない? それとも? 何? 無駄にでかくなってむしろ小柄な子供を守備範囲に入れてしまったとか? そういえばさっき私を抱きしめていたし…実はロリコンじゃない?」


 イラっと来てしまった俺は「上等だ」と言いながら男性用の脱衣所へと足を踏み出し、アンヌは鼻歌を歌いながら女性用の脱衣所へと入っていく。

 俺はさっさと服を脱いでタオルとパジャマ代わりに用意している甚平を一緒にしてからタオルを腰布代わりにしてから風呂場へと出る。

 体をさっさと洗ってから素早く露天風呂へと足を付けた所で後ろの方からアンヌが俺の名を呼ぶ。


「ねえ。髪洗ってくれない?」


 少し熱いぐらいの丁度いい温度のお湯を前にして動きが止まり、そっと振り返ると胸までタオルでしっかり隠している少女アンヌが俺を見ていた。

 もう体は濡らしているようで髪から水滴が垂れているのが遠目にも見え、俺は「なんで?」と聞き返す。


「良いじゃない。体が小さくなって色々と不便なの。それにこういう時は男から気を利かせるものじゃない?」

「お風呂場で女性の体を洗うやつが居れば変態だと思うな。俺は」

「それは大丈夫よ。お風呂場で全裸にタオルに兜という不審者が今更だから。さあ。髪と背中よろしくね」


 俺の忍耐力が試されているようで不貞腐れて風呂に入ろうと思っている感情より、この挑発を真正面から受けてやるという気持ちが勝っていた。

 素早く彼女の後ろに回り込み彼女が向けたシャンプーを掌で泡立たせてから頭皮から優しく洗っていく。

 気持ちよさそうにしているアンヌ、全く動じないのはもしかしてそれは幼くなっていることが要因なんだろうか?


「いつ頃から自分が弱く幼くなっていると分かっていた?」

「逃走している時かな。でも考えないようにしてた。認めたらつかまりそうだったから。抽出している時かな? 凄い苦しくてね。体中から締め付けられるような痛みと苦しみが襲うの。最初は良く分からなかったんだけど。でも二回目からはっきりとわかるようになったの。背が縮んでいるって」

「アビリティを封じるって出来るのか?」

「出来るよ。それで抽出可能にしているって話だし。最もコピーしないと抽出できないみたいだし。私はアビリティを抽出されなかったから。でも、ほかの牢屋には男性も居てね。男性は特に貴重なアビリティを持っていることが多いらしくて、こっちは更にきついらしいの」

「きつい?」

「うん。体が絞られているような感触。まるで自分の体が濡れたタオルのように満たされているような感じで、そのまま一気に搾り取られるような感じ? らしいのね。これが苦しいらしくて…最も神々の加護を持っている人間は拘束も厳重らしいよ。脱出するときにチラッと見たんだけど両腕を拘束した状態でそのまま真上へと持ち上げ、両足は両サイドに、それはTの字にされているの。多分男性だけ。パンツ一丁で拘束されているのよ。胸にも腕にも足にも頭にもコードが伸びていて、それでアビリティを抽出しているみたいね」

「その程度なら逃げられそうだけど?」

「できないようにされているのよ。よく見るとね体が透明のケースみたいなものに閉じ込めて、そこに水みたいな液体で満たすの。多分魔力とか呪力とか聖力とかで満たして常に供給させているんじゃないかしら?」

「無制限の供給装置だな。人間の体は機械かって」


 髪に付いたシャンプーを洗い流しリンスで髪を撫でていく。


「もしかして、抽出したアビリティを薬品にして売り捌いているんじゃないのか? そんな気がするが?」

「かもしれないわね。多分抽出できるコピーもあくまでも能力そのものではなくそれが宿った力だと思うの。その人には一日に作れる力が決まっているから。まあ、貴方みたいに無制限に出来る人もいるみたいだけど。だから劣化する」

「そうだな。たとえ俺の魔力を抽出できても劣化するだろう。むしろ無制限に抽出できる分だけ劣化が酷い」

「ええ。しかし、そうなるとお前が逃げたということがネックだな」


 リンスも洗い流し俺は背中を擦って洗う中、アンヌは首だけを俺の方に無理矢理向けてから「どういう意味?」と聞き返す。


「逃げたということはお前が居た場所はもう撤収済みの可能性が高い。たとえそうじゃなくても罠があるだろう。絶対にな。かといって教会本部に行ってもどの程度敵の手が伸びているか分からない。かといって敵が次に使っている拠点も分からない。闇雲に探していても見つかるわけがない」


 逃げたことがこの際状況を悪化こそしていないが、しかし複雑化させている。

 もし、この状況で俺とアンヌが揃って教会に行けば揃って捕まるか、どんな理由を押し付けられて拘束されるか分からない。

 それこそこの村に被害が出るだろうことは想像に難くない。

 いや…方法なら一つだけある。


「アンヌ方法が無いわけじゃないぞ。敵の拠点を探る方法。そして、一気に打開する方法」

「え? 何々?」

「簡単だ敵に捕まればいい…」


 アンヌが驚いた表情を体を俺に向けると、そこにはアンヌの体がはっきりと見えた。

 そして一秒後に風呂桶が飛んできた。

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