第4話 秘密の放課後
今、僕は教室に入るのに少し緊張している。昨日あんな事があったんだ色々考えてしまうものだ。
教室に入ると既に冬野さんが席に座っていた。
あいさつした方がいいよな……。
大丈夫きっと昨日の優しい声で答えてくれるはずだ。
「おはよう冬野さん」
すると冬野さんが僕の方を振り向いた。
「おはよう……」といつもの棘のある声でそう言う冬野さん。
───っえ……戻ってる。もしかして人前であの姿を見せるのは恥ずかしいのかなぁ。
昨日の優しかったは瞳もいつもの威圧的なのに戻ってるし……。
昨日のは夢だったのでは……。そんなことを考えてしまった。
僕は席に座り頭を悩ませる。
どうしよう……話す内容が出てこない。
冬野さんからは話してくれなさそうだしなぁ。と横目で彼女を見ていると彼女が僕の方に振り向いた。
いや……夢じゃない……。
冬野さんが小さく微笑んでいるのだから。やっぱり彼女は話相手が欲しかったのかもな。
そうして一時間目の授業が始まった。
すると冬野さんからものすごい視線を感じた。
どうしたんだろ……。僕は彼女を横目で見つめた。
あれ教科書出してない。───もしかして……。
僕は小声で冬野さんに話しかける。
「冬野さんもしかして教科書忘れたの?」
すると冬野さんは小さく頷いた。
「じゃあ見せてあげるよ」
すると冬野さんは手を合わせごめんのポーズを取った。
「先生、教科書を忘れたので隣の人と見せてもらって良いですか?」という冬野さん。
やっぱり刺々しいんだよなぁ昨日とは大違いだ。
「あ、ああもちろん良いぞ」という先生。
この先生忘れ物には厳しかったような……。
すると冬野さんが僕の方に机を近づけて座った。
クラスが一瞬ざわついた。多分僕に対して「ドンマイ」とでもいいたいのだろう。
すると冬野さんがノートに何かを書き始めた。
『ごめんなさいこんな態度で』
『別に気にしてないよ』と僕は返した。
『私、人の前で素の自分を出せなくて』
彼女にも多分事情があるのだろう。聞くのはよしておこう。
でもそうなると冬野さんと話しすぎるのも怪しいしな……。
僕は少し悩んだ末あることを思いついた。
『放課後残れる?』と僕は書いた。
『残れるけど、どうして?』と冬野さん。
『放課後なら誰もいないし話しやすいと思って』
今思うと僕結構キモい提案してるな。二人きりになりたいと言ってるみたいだ。
すると冬野さんはすぐに『はい!!』と書いた。
びっくりマーク……。冬野さんそんなに人と話したかったのかな。
それでも今の冬野さんは顔色一つ変えず冷徹な、愛想のないキャラを演じてる。きっと彼女は何かを抱えている素自分を出すことができないほどの何かを……。
「立花、冬野何をしてる」
やば、真剣になりすぎた……。
二人でノートを見ているのを不審に思った先生がそう言った。
なんて言えばいいだろ……。
すると……。
「任せて」と小声でつぶやく冬野さん。
すると冬野さんは「何も」と棘のある声といつもの目つきで先生を見つめた。
「そ、そうか。ちゃんと聞いてるんだぞ」
先生も気の毒だなぁ。とつくづく思う。
※
最後の授業が終わり放課後となった。
僕と冬野さんは帰る準備をしている振りをしながら
クラスから人が居なくなるのを待った。
綾香が僕の方を見て不審そうな顔をしていたが大丈夫だろうか。
そうしてしばらくするとクラスから完全に人が居なくなった。
「た、立花くん……」と優しい声と恥ずかしそうな顔をしてそう言う冬野さん。
「どうしたの?」
「今日はごめんね。素っ気無い態度取っちゃって」と申し訳なさそうな顔をする冬野さん。
「気にしないでみんながいる前で急に態度を変えるなてできないよ」と僕は返した。
「……聞かないんだね」と冬野さん。
「何を?」
「何で氷の女王を演じてるか」と冬野さん。
「冬野さんはそれ話したい?」と僕は問いかける。
「それは……話したくない」と弱々しい声で答える冬野さん。
「なら僕は聞かないよ。誰にだって秘密はあるからさ」
「立花くんはほんと優しいね」と少し微笑んでそう言う冬野さん。
「優しい……か……」と僕は顔を俯かせつぶやく。
優しくなんてないよ……。
冬野さんは不思議そうな顔をし「立花くん?」と言った。
「あ、ごめん....何でもないよ」と僕は冬野さんに笑顔を見せて言った。
「そうですか……」と少し心配そうな顔をする冬野さん。
そうだ聞きたいことがあったんだった……。
「ねぇ冬野さんどうして僕には素を見せてくれるの?」
これだけは少し聞いて起きたかった。見た感じ冬野さんは男子が苦手だ。それなのに女子ではなくなぜ男子の僕なのかそう思った。
「えっと……それは」少し言いにくそうにする冬野さん。
「答えたくなかったら良いよ」
僕は彼女のことをあまり知らないどこまで踏み込んで良いのかも分かっておかないとな……。
「いえ、大丈夫です」と言い。冬野さんは一呼吸おきもう一度口を開いた。
「いやらしい目で見てこなかったから……」と冬野さん。
「いやらしい目?」
どういうことだろう。
「男子はみんな私の顔とか体とかをじろじろ見てくるからそれが苦手で……。立花くんからはそんな視線を感じなかったから」
なるほどそういう事か、確かにこんな美少女がいたらほとんどの男子はそんな視線を送ってしまうだろう……。僕はいつもの君が怖くて見てなかっただけなんだけど……。
確かにこう見ると……。
「かわいいもんなぁ……」
「えっ……か、かわっ───!!」と突然声を上げる冬野さん。徐々に彼女の顔が赤くなっていく。
やば……声に出てた。
「あ、いや……その……ご、ごめん!」
顔が熱くなるのを感じる。
───何言ってんの僕。
恥ずかしすぎて冬野さんを直視出来なくなってしまった。
「だ、大丈夫。気にしないで……」と小さい声で言う冬野さん。
多分冬野さんも僕を見ていないそう感じた。
そうしてしばらくの間静寂が僕たちを包んだ。
その間に耐えかねたのか冬野さんが口を開いた。
「そ、それじゃあ私……そろそろ帰るね……」
僕は冬野さんの方へ視線を向ける。
顔が真っ赤になっている冬野さん。きっと恥ずかしすぎて居ずらくなったのだろう。
「じゃ、じゃあ僕も帰ろるよ……」
二人で階段を降り学校を出る。
「そ、それじゃあ私こっちだから……」と冬野さんは行く方に指を指す。
マジか……。
「ごめん……僕もそっち……」
「───っえ!」と驚く冬野さん。
どうする多分一緒に帰るのは冬野さん嫌だろうし……。
「で、でも今日は僕こっちから帰るよ。それじゃ冬野さんまたね」と僕は彼女と逆の方に歩き始めた。そう僕は逃げたのだ。
───今日一緒に帰るなんて僕にはできない
「ま、待って立花くん」と冬野さん。
「どうしたの冬野さん」
僕は冬野さんの方に振り向く。
「別に私は大丈夫だから……そっちから帰らなくても良いよ」と僕に目を合わせられない冬野さんが言う。
絶対むりしてるよ……。
それに僕の方が今恥ずかしいんだよなぁ……。
「い、嫌なら別にいいけど……」と少し悲しそうな顔をする冬野さん。
「嫌じゃないけど……」
すると冬野さんは僕に近づき、僕の腕を掴んだ。
「なら一緒に帰ろ……」と顔を真っ赤にしもじもじしながら言う冬野さん。
「……わかった」
───っく、こんなの断れるわけない……。僕は諦めて冬野さんと帰ることにした。
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