第3話 冬野 千里の心情 (冬野視点)

氷の女王"それが私のあだ名だ。学校のみんな私を見るとひそひそ声で「氷の女王だ」と言うのを聞いてそんなあだ名がついていることに気がついた。


氷の女王か……。


確かにその通りだ。愛想は無いしよく無視をする。私は別に人と関わるのが嫌いな訳では無い。


私は昔からこうだったわけじゃない。小学校の頃はクラスのみんなと毎日のように遊んでいた。みんなからチヤホヤされてあの頃は楽しかったのを覚えている。

───でもそれが崩れ始めたのが中学の頃だ。中学生、みんな恋愛を楽しむ年代になる。私はこの容姿のせいでよく男子から告白されていた。男子は苦手だみんな顔や体しか見ない。男子の舐め回すような視線が私はとても嫌いだった。どんなにイケメンで人気な男子から告白されても私はその全てを断っていた。


私は友達と楽しく過ごせればそれでいいそう思っていた。

───でもそれは叶わなかった。恋愛というのは友情何てものを簡単に壊していく。いつの間にか私の周りには誰一人いなくなっていた……。女子の妬みや嫉妬のこもった目が怖かった。その頃短くしていた髪も切らなくなった。伸ばして顔を隠すために。


どうして私だけなの……どうして私はこんな顔で生まれたの……中学の頃は毎日そんな事を考えながら泣いていた。


そうして私は決めた。もう誰とも関わらないでおこうって。高校は中学の人たちが居ないようなところにした。噂をされたらまたいじめられるから親に頼んで今は一人暮らしをしている。


高校生になった私は出来る限り周りと関わらないよう振舞った。近づいてくる男子には相槌を打つ程度愛想の悪い人間を演じた。それでも良かった男子は友情を壊す存在その時の私はそう思うほどに男子を嫌っていた。女子との関わりも最低限にした。これは中学のトラウマからだ。悲しい思いをするなら最初から関わらなければいい……。


そうして一年を過ごしているといつの間にか"氷の女王"と呼ばれるようになっていた。ほとんどの男子は近づいても来なくなった。いじめられることももう無くなったのだ……。


高校二年となった私だが何も変わらない誰とも関わらず一年を過ごせばいい。


そう思った矢先だ───。


「さっきから何なんだよ」


「キャ───」


始業式も終わり下校となった。私はすぐに教室を出て階段を降り帰ろうとしていた時だ。一階に着いた時金髪の男とぶつかってしまった。もちろんそのまま帰ろうとした。でもその金髪は私の腕を掴んで行かせないようにしてきた。もう一人いた男も私の前に立ち行く手を阻んだ。


この金髪たちがしつこく遊びに誘ってくるのでずっと私は拒否し続けていたそしたらこの男が態度を変え私の胸ぐらを掴んで壁に押し付けてきた。


こういう男が私は本当に苦手だ。顔や体を舐めまわすように見てきたと思ったら今では欲望に満ちたどす黒い目を向けてきている。


誰か……助けて……。氷の女王と呼ばれる私はいつしか強い人間だと勘違いする人たちがいる。実際は逆だ弱いから殻に閉じこもっている。


「遊びに誘ってるだけなのに睨んできやがって」


怖い……。


「あなたがしつこいからよ」


怖い……怖い……そんな目で見ないで。


「何してんだお前」


ここにいるヤツらとは違う男の声がした。


「誰だお前、関係ねぇだろ消えろ」金髪はその男の方を向いた。


「あなた……」


確か隣の席にいた、茶髪の髪が眉毛を隠すほど長く男の子らしいキリッとした瞳はどこかやる気なさを感じる。確か、立花 和樹という名前だった。


この時の私は嬉しさと同時に申し訳なさを感じた。たった一人でこいつらを追い払えるわけがないそう思ったから。


金髪は私の胸ぐらを掴む手を話し立花くんの方へと向かった。


私はその安心感からか体から力が抜けてその場に座り込んだ。


何を話してるんだろ……。


金髪の耳元で何かをつぶやく立花くんその顔には不気味な笑みが浮かんでいた。


すると金髪は「絶てぇ言うなよ」と言い立ち去った。


助かった……?


私は何が起きたのか分からなかった。

立花くんが優しい表情で私に近づいてきた。


この人はみんなと違う……。私はそう思った。


親切に手を差し出してくれる彼の瞳からはあの舐め回すような視線を感じなかった。


彼なら立花くんなら私をわかってくれるんじゃ……。そんな事を思った。

私は差し出してくれた手を取ろうとした。


だめ、関わりを持ったら後悔する。


私は手を取らず逃げるようにしてその場から離れた。そうだああいう優しい男子ほどみんなにモテるそうして私を壊していく。


校門まで無我夢中で入り学校を出た時私は我に返った。


何も言わずに来ちゃった……お礼はちゃんと言った方が良いよね。


次の日私は立花くんにお礼を言おうとしていた。でも恥ずかしくて出来なかった。いつもの棘のある口調だと感謝は伝わらない。


いつの間にか私はずっと彼を見つめていた。


気づけー気づけー。私はそう彼に念じた。


「冬野この問題の答え分かるか」


「はい?」


私は先生に当てられてしまった。


どうしよう……全然聞いてなかった……。そう悩んでいるとあっさり別の人を当てた。


ラッキー。私はまた立花くんの方を見つめていた。この休み時間に言おうそう決めた。


───たが授業が終わったと同時に立花くんは教室を出ていってしまった。


次の休み時間にしよう。


するとその休み時間ではまさかの立花くんに「さっきから僕の方見てたけどどうしたのかな?」と逆に聞かれたのだ。


気づいてたんだ。どう答えよう...違う言うんだ私ありがとうって、私は息を整え口を開けた。


「別にあなたの方見てたわけじゃないわ」


何言ってんの私───。思っても無いことを言ってしまい私は立花くんから目を逸らし一人、自分を責めていた。


結局どの時間も言えず放課後になってしまった。

言わなきゃ───。


「待ちなさい」


私は帰ろうとしている立花くんの手を掴んだ。

立花くんは驚いた顔をしている。


言うぞぉ……言うぞぉ……。そう思っている間に教室から人が居なくなっていた。


「ゆ、冬野さんどうしたの?」と立花くん。


「あ、えっと……その……立花くん」久しぶりに普通の声を出したのでとてつもなく恥ずかしかった。


顔が熱い。


「昨日助けてくれてありがとう」

「冬野さん、昨日あれから大丈夫だった?」と立花くん


───っ!!私は驚いて顔を上げた。少し顔を赤らめている立花くんと目が合ってしまい私は咄嗟に目を逸らした。


か、被っちゃったぁ……は、恥ずかしい……。


「ごめんなさい」

「ごめん」


また……「うぅ〜恥ずかしい……」と思わず声に出てしまった。顔がすごく熱いきっと真っ赤になってるんだろう。


そんなアクシデントがありながらも私は昨日のお礼を言うことができた。


一つ驚いかことがある。彼は怒らなかった何も言わずに行った私に……。


「あ、ありがとう」こんな普通に話せたのはいつぶりかな。その時私の頭の中であることを思った。


───立花くんなら仲良くできるんじゃ....だめだめ、絶対後悔する。こういう素で優しい男子は大体みんなにモテてるんだから。


「それじゃあ私帰るね」


言えなかった『話し相手になって欲しい』と私はあの時から抜け出せずにいる。そんな自分に少し嫌気がさした。


私は立花くんとすれ違う。さようなら、もう関わることも無いだろう……。


すると「冬野さんまた明日」と立花くんは言った。


また……『明日』きっと彼にとっては何気ない一言で誰にでも言う言葉なんだろう。


明日があるの……。


この時は私には飛び跳ねたいほどに嬉しい言葉だった。


「うん!また明日」自然と笑みがこぼれた。笑ったのはいつぶりだろう。


立花 和樹くん、彼は他の男子とは違うちゃんと『私』をみてくれている。


もしかしらたら友達になれたり……。


その日私はウキウキしながら家に帰った。





朝、私はいつもより早くに家を出た。今日が待ち遠しかったからだ。


立花くん声かけてくれるかなぁ……。


そんな期待を胸に教室で待っていると彼が来た。


「おはよう冬野さん」と聞き覚えのある声でそう言われた。


立花くんだ……!


「おは……」ちょっと待ってクラスメイトがいる中でこんな声出したら……。


ごめん立花くん。


「おはよう……」いつもの棘のある口調で彼に挨拶を返した。


びっくりした顔をする立花くん。


そりゃそうだよね昨日と全然態度違うもんね……。


私はみんなの前では氷の女王を演じようへんな噂をされるのはもう嫌だから……。

素の私を見せるのは立花くんと二人の時だけ。


ちゃんと彼には説明しよう。だって話しかけてくれたんだから。


私は誰にもバレないように小さく笑みを浮かべた……。


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